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第10話「無力が原動力」

訓練を始めてから5日が経過した。

相変わらず、アイリスは訓練を続けている。

そんな時事件は起きた。


ヴァルドがいつものように狩りに出かけている間に魔獣が出た。

この世界では魔獣に危険度が割り振られている。

ホーンラビットがEとされているが、今回の魔獣は・・・、

危険度:B アースリザードだった。

相手が誰であろうと構わず攻撃を仕掛けてくる凶暴な性格に、固い鱗を持ち合わせている。


「アイリス。」

「分かっているわ。」


さすがに相手が悪すぎる。

俺たちに残された選択肢は、逃げることだけだった。

互いに目配せを交わし、反対方向へ同時に駆け出す。


「大事な時に運がないのは、転生しても変わらないみたいだな……」

だが、進行方向にもう一体のアースリザードが姿を現した。

完全に挟まれた。

「どうする?」

俺が問いかけると、アイリスは即答した。

「『どうする?』って……やるしかないわよ。」


言い終えるや否や、アイリスは迷いなく二体目のアースリザードへ飛び出していく。

まさか……。

アイツ、ぶっつけ本番でやるつもりか⁉

アイリスが静かに詠唱を始める。


「天地を繋ぐ理よ、今ここに終焉を刻め。

万物を結ぶ因果よ、あるべき姿へ還れ。

形あるものは崩れ、名あるものは塵となる。

我が魔力をもって、その結びを解き放つ。」

俺は動けなかった。

訓練をサボり続けた俺の体は、一歩すら踏み出せない。


「《万象崩壊(ディスインテグレート)》」


紫色の閃光が辺りを包む。

次の瞬間、アースリザードの巨体は音もなく崩れ、塵となって風に消えた。

上級魔法――その中でも最高難度とされる魔法を、ぶっつけ本番で成功させたのだ。


これは偶然なんかじゃない。

俺は知っている。

毎晩、山が静寂に包まれる頃、誰にも知られない場所で、彼女が一人黙々と魔法を磨き続けていたことを。

努力が、今この瞬間に実を結んだ。


だが、その代償は大きかった。

万象崩壊(ディスインテグレート)》を放った直後、反動がアイリスの右腕を襲う。

「うぁぁぁぁぁ!」

苦痛に顔を歪め、その場に膝をつく。


そして、一体目のアースリザードがゆっくりとこちらへ迫ってきた。

今度は俺の番だ。

もうアイリスだけに戦わせるわけにはいかない。

覚悟を決めろ。

やるしかない。

俺は震える足で構えを取る。


その瞬間だった。

目の前のアースリザードの首元から鮮血が噴き出す。

「・・・何が起きた?」

振り向くと、そこにはヴァルドが立っていた。

「二人とも! 無事か⁉」

ヴァルドはすぐにアイリスのもとへ駆け寄り、慣れた手つきで右腕の手当てを始める。


結局、俺は最後まで何もできなかった。

逃げることも。

戦うことも。

守ることも。

俺が覚悟を決めた、その一瞬。

すべてはヴァルドによって終わっていた。

俺が前に出ようとしたことさえ、必要とされなかった。

アイリスは自分の力で敵を倒し、代償を負った。

ヴァルドは迷うことなく残る一体を仕留め、アイリスを助けた。


そこに俺の居場所はなかった。

ただ立っていただけだ。

あの時の俺に存在価値はない。

もし俺が最初からここにいなかったとしても、結果は何一つ変わらなかっただろう。

いや――むしろ、俺がいたせいでアイリスは無茶をするしかなかったのかもしれない。

胸が締めつけられる。

悔しい。

情けない。

苦しい。

俺は、自分の無力さを嫌というほど思い知った。


そして決めた。


もう一度、あと一度だけ、


・・・努力する道を歩もうと。

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