第9話「努力もできるエリート」
「ああ。それが《万象崩壊》だ。」
おお。なんかそれっぽい。
「ただ、この魔法自体の難易度が上級魔法の中でもなかなか高いほうだ。だから、かなりの努力が必要になるだろうな。」
「やります。」
でしょうね。アイリスは即答か。
俺はどうしようか。
すると、アイリスが続けて言う。
「私たちなら、絶対に会得できます。」
どうやらこの世界では俺という人間に拒否権は与えられていないらしい。
《万象崩壊》は、触れた物を魔力で崩壊させる魔法のようだ。
そもそもこの世界のすべての物質には固有の振動がある。
《万象崩壊》はその振動と完全に逆位相の魔力をぶつけることで共鳴させて崩すことができるというわけだ。
そのため、俺たちはまず一瞬で自分の持てる魔力のすべてを出す必要がある。
そこで初級魔法である《水流》で魔力を出し切る練習をするのだ。
「いいか、よく見てろよ。」
ヴァルドが実演して見せる。
【水脈を辿り、我が敵を穿て】
その瞬間、ヴァルドの手からとてつもない量の水が勢いよく噴き出し、目の前の大きな岩を砕いた。
訓練を初めて4時間ほど経ったか。
アイリスは1度も休まずに挑み続けている。
一方、俺はヴァルドが食料を調達しに行って以降サボり続けている。
「よく、そんなに努力できるな。」
「この程度で努力なんておこがましいわ。」
努力もできるエリート、か・・・。
その後すぐにヴァルドが帰ってきて夕飯の準備を始めた。
ヴァルドは解体したホーンラビットの肉を手際よく一口大に切り分けると、岩塩を軽く振り、摘みたての香草とキノコを添えて大きな葉で丁寧に包んだ。
「火に直接当てるな。熾火でじっくり蒸し焼きにする。」
焚き火の赤く燃える炭の中へ包みを埋め、しばらく待つ。
やがて葉の隙間から香草の爽やかな香りと、肉汁の甘い匂いがふわりと漂い始めた。
ヴァルドが枝で包みを取り出し、葉を開く。
白い湯気が勢いよく立ちのぼり、中から現れたホーンラビットの肉はこんがりと焼き色が付き、滴る肉汁が光を受けて輝いていた。
恐る恐る一口かじる。
「……うまっ。」
外は香ばしく、中は驚くほど柔らかい。噛むたびに肉の旨味が広がり、香草の清々しい香りが後味を引き締める。
「これが──ホーンラビットの香草包み焼きだ。」
異世界って、飯だけは本当に最高だな・・・。
訓練を始めてから5日が経過した。
相変わらず、アイリスは訓練を続けている。
そんな時事件は起きた。




