カツユキの笑顔/神宮寺の真顔
「ヴィヴィはすごいですよ」
カツユキは練習後に嬉しそうに話しかけてきた。
「恐らく相当な歳だと思います。体力からすれば50歳にはなっているはずです。立派な中年ですよ。でも技術でカバーしている。テクニックと戦術眼さえあれば、幾つになっても今の自分を試せるんですね」
俺からすれば、トップチームの練習に顔を出し始めた神宮寺薫のことが気になって仕方なかった。
確かに神宮寺は巧い。滑らかにボールを触り、綺麗なパスで周囲を動かす。
うちのチームでJ1でも活躍できる技術があるのは、カツユキ、神宮寺、そしてコーチのヴィヴィの3人だけだろう。
ヴィヴィが練習に参加してこの3人がパスを回すと、誰もついてこれない。
練習では、ボランチで司令塔の栗田雅人が怪我していたため、カツユキが中盤の底からパスを供給していた。
そのパスを神宮寺が収め、ヴィヴィは2人の間が円滑になるようにチーム全体に指示を出していた。
簡単な日本語でチームを動かす。すごい男だ。
ヴィヴィは年齢や過去を話したがらないが、一試合に出られる体力はとてもない。白髪が少しある頭や見た目からしても、確かにもう50にはなるだろう。
それでも、簡単にボールを止めて次の味方にパスを出す。
ミニゲームでは、基本技術の高さと先読みのセンスで最も容易く味方の若手の勢いを活かし、相手チームの粗い守備をいなす。
しかし……俺の親世代で「ヴィヴィ」と言えば、短期間だけ話題になった都市伝説のようなスターだ。
ただ、ヴィヴィはあのブラジル代表のスターのヴィヴィではない。肌の色が違う。
有名人の方は「褐色の真珠」と呼ばれていたが、俺たちのヴィヴィは王様ペレのように黒い肌をしている。
それに、ブラジル代表のスターだった男がそのことを名乗らず80年半ばから日本の街クラブに居座るわけがない。
「クマさん?」
考え込む俺に不思議そうな顔をしたカツユキが目の前にいる。今日はサポーター総出で見守っている。
ユウキたち若手サポーターは俺や古参からから少し離れた場所に陣取っているが、望むところだ。
「お勉強家のようなこと抜かすじゃねえか」
「俺、高校の頃から勉強や社会常識は学んできたつもりですよ」
カツユキは、いつになくハッキリと、それも悲しそうに言った。
「そりゃ、お前みたいなストライカーなら点を取るための頭の良さとか……」
「クマさん、僕の人生は点を取るためだけにあるわけじゃないですよ」
「え、何だよ、あ……」
俺がモゴモゴしているとカツユキは遠くに去って行った。その後ろを神宮寺が通る。
「お、若造、トップチームはどうだったか……」
神宮寺はこちらを見ると、会釈もせずにユウキたちの方に行き、談笑している。
俺が所在なさそうにしていると、ヴィヴィがやって来た。
「クマちゃん、ボール蹴る?」
その笑顔は、いつもはつらつとしている。




