9番か?偽9番か?
だからこそ、いつもの居酒屋で試合を観た後に、新米サポーターのユウキが放った言葉が今も胃にもたれるように残る。
「武藤はもう35歳。点を獲る動きしかできないし、運動量も少ない。プレスをかけて有機的に動くためなら神宮寺の方が良いですよ」
誰だ?神宮寺って。俺がそう言うと、ユウキは少し怯えた顔をした。よほど俺の心中が顔に出ていたのだろう。それでも、ユウキは息を吸い込んでこう返した。
「神宮寺薫。今年高校3年生でイーグルアイのユースで10番着けてキャプテンやってます」
「10番なら、司令塔の選手だろ?そいつがカツユキにパスを出せばもっと強くなるじゃねえか」
「いや、それが……」
ユウキは、きまり悪そうに店内を見回した。店のあちらこちらに鳥町イーグルアイの、主に武藤克幸のポスターや記念写真、スクラップ記事が貼られていた。
「偽9番ですよ」
「偽?」
ユウキは、意を決したように頷いた。
「偽9番、またの名をゼロトップ。ちょっと前にローマのフランチェスコ・トッティがやったでしょ?今ならスペイン代表のビジャとか。メッシだって最近はバルサでやり始めたし。熊さんの若い頃にも、ええと、あ!クライフ!ヨハン・クライフがやってたんでしょ。時代はもう、最前線が点を獲る時代じゃないですよ。一番前のポジションが献身的に動いて、2列目に点を獲らせるんです。全員攻撃、全員守備です」




