背後霊て感じじゃないのね
前回までのあらすじ
現代を生きる研究者、三上正成は、友人を庇い戦国時代の人物に転生してしまう。
転生先の人物は石田三成、関ヶ原で徳川家康に敗北し、市中引き回しの上、三条河原にて斬首された人物だ。
不運を嘆く正成の前に、石田三成と名乗るどう考えても幽体の人物が現れー!
ニッコリと透けた体の上に乗った顔が笑う。
「石田…じぶの、しょう…?」
ジブのショウってなんだよ、初耳だよ!
というかなんでにこやかに挨拶出来るんだ。
「そう、私が関ヶ原で敗れ、三条河原にて斬首された石田治部少輔三成だ。」
しれっと死んだとか言わないでほしい。
こちとら死が非日常の現代人なのだ。
「いやいやいや。」
それ以上になんでそう冷静なんだこの人。
その前になんでここにいるんだ。
「…といっても今の私は二度死んだからかこの通り透けているのだが。」
「待って待って待って?!そんな冷静にいられても、っていうか二度?」
さっきから居て当然みたいな空気を出してるうえにしれっととんでもないこと言わなかったか今この人。
「?」
それが何か、みたいな顔をするんじゃない。
この状況でおかしいのはどう考えてもあなたの方だ。
「あー、もう!とりあえず確認するぞ?あなたは石田三成で、今の私はその幼少期ってことで合ってるよな?!」
「ああ。」
何を今更って顔してる。
逆にどうやったら簡単に受け入れられるんだよ。
「で、あなたが透けた状態で今いることと、私が今ここにいることから考えると、今のあなたは魂、というか霊体ってわけだな?!」
「ああ、確かに…そうなるな。」
…だめだ、頭痛くなってきた。
この状況にも、感情を置いて状況を整理しようとする自分自身にも。
「ンで、二度死んだってことは、あなた、まさか。」
「そうだ。確かに私は首を落とされたはずなのだが、何故だか目が覚めてな。」
嫌に冷静だな、二度死んだじゃなくて二桁回死んだの間違いじゃないだろうな。
「ふうん?」
とは言え、やたら対応が手慣れていると感じたのは、間違いではなかったらしい。
石田三成自身、転生—いや、この場合回帰と言うべきか—をしていたのだろう。
そしてその後何らかの理由で三成は死に、私が転生した—のだろうが。
それで何があったのだ、と無言で問うたつもりの私に、想定外の言葉が返ってきた。
「…それだけだが。」
「いやそれだけな訳ないだろ!」
あっけらかんと返す相手に思わずツッコミを入れてしまった。
二度死んだの部分について聞こうとしてるんだよ、こっちは!
せめて死ぬに至った経緯くらい言ったっていいだろ?!
「それだけな訳が無いと言われてもな。その怪我を負った経緯は既に知っているのだろう?ならば私から補足することなど何もないと思うが。」
その怪我、の辺りでようやく塞がりかけた肩から脇腹にかけての切り傷を指し示される。
いやそうじゃない。
そんな困った顔をして言われても、困りたいのはこっちだ。
「いやだから、その怪我を負った経緯の前段階とか、今こんな状況になっている理由とか…。」
「ああ、そうか。」
そっちの話か、と呑気にぼやく霊体を前に、頭を抱えるべきか胃をいたわるべきかを迷いながらコイツ多分人付き合い下手だなと妙な納得をしてしまった。あれだ、自分の頭の中では全部繋がって理解できてしまっているから理解できていない人とただただすれ違う一方のタイプだ。
そんでもって説明も省くからますますすれ違って誤解が深まる一方のタイプの人だ…!
困ったな、覚えがありすぎる。
こんな状況でもなければ親近感が湧いているところだった。
「といってもな。ここにいる理由に関しては私もわからんのだ。一人で寺に行った帰りに襲われたと思えば、何故だかこの姿で目が覚めた。」
「えぇ…」
わからないなら何故そうも落ち着いた顔で居られるんだ。
普通もっと困惑しているだろ。
困惑したところで何が変わるわけでないにしても。
「いや…うん、そうですか。」
これ以上聞いたところで意味がないと割り切り、代わりに別の疑問をぶつけてみる。
「まぁ、わからないならわからないで良いとして…何で急に私に見えるようになったんだ?今までどこで何をしていたんだ?」
死んで霊体になったところまでは分かったが、とすればもう少し早く…というか死んだはずの自分の体が目覚めた事に気づいたあたりで現れてもいいはずではないだろうか。
普通死んだはずの人間が目を覚ますわけがないし、ましてそれが自分のことであるなら尚更だろう。
何故今になって現れたのか。
「いや、それは…まぁいろいろとだな。」
「だからいろいろってなんだよ?!言えないようなことしてたのかあんた?!」
「いや…そういう訳では無いが…」
「変なとこで今更ためらう意味がわからん。」
「う…まぁ、私も多少は混乱してな。」
「ほーう?」
「私ではないとして誰が私になったのか分からなかったうえに、相手がもし私のことを知らなければただの不審人物となってしまうだろう?」
「いや今でも十分不審者…っていうかちょっと待て、どうやってそれを判断するんだ?」まさか。「…そう急かすな。思考を読んでいるに決まっているだろう?」
「シコウヲヨンデイルニキマッテイルガ?」
何が読んでいるに決まっているだ、決まっているわけないだろ
「何を今更。そもそも今のこの会話も、口に出しているわけではなかろう。」
「はい?」
「いや…もしもだな、先程からのやり取りをそなたが口にしていたとして。万が一家人に見られたらどうするのだ。いよいよ気が触れたと寺に放り込まれてしまいだぞ?」
急に自分まともです感を出すな。
「まぁ…それは確かにそう…だけれども。」
言われてみればそうだし、そもそも霊体相手に常識がどうの…いやそれ以前に転生してる時点で普通じゃないが。
というか寺って、秀吉と出会ったのは寺での事じゃないのか?
…その前に思考を読んでいるならこのツッコミも聞こえているはずなんだが、何故そうも涼しい顔をしていられるんだこの人。
「まぁ慣れているからな。」
何に?!
「あと別に殿下と会ったのは寺じゃないが…。」
「えっ。」
「私が十八になる頃、父と兄と共に仕官したが、それ以前に出会った覚えはないな。」
創作だったのか?!
まぁでもそうだよな、わざわざ寺に行く必要ないもんな。
…待てよ、思考を読んでいるなら私が未来から来たことも知っているのか?
何で受け入れられているんだ。
「まぁ見たことも聞いたこともないわけではないからな。…まさか自分の身に起こるとは思っていなかったが。」
もうヤダほんとこの人同じ人族なの?
適応が早すぎる!
「まぁとにかく、私のことを知っているか確認が取れたので声をかけた、というわけだ。…疑問は解けたか?」
解けるわけないだろ。
と言ったところで聞く相手じゃないのがこの短い間で嫌でもわかった…ので、適当に会話を切り上げることにした。
「えぇ…まぁ、はいソウデスネ。」
…だとしても三条河原だ。はないだろ。いきなり。湿度の高い目線を気にもかけず、三成の霊体は涼しい顔でまたもさらりとトンデモ発言をかました。
「では私はここから去る。あとは頼むぞ。」
「え?…いやいやいやちょっと待った!」
ほんと自由人だな、急に現れて急に去るとか。
「…何だ?」
「いやあのね…普通こういうのってこうもうちょっと後に…じゃなくて疑問を深めるだけ深めて去られても困るっていう話が。」
せめてもうちょっとためになる話とか助言があってからの別れじゃないのか?
何せ無知の素人が戦国時代を生きるのだ、少しくらいアドバンテージがあってもいいと思うのだが。
「…そなたに知識がないのは分かっている。が、しかし…未来の知識がないのは皆同じだ。私とて、今のそなたと同じ年頃の頃はまさか首を切られて死ぬとは思っていなかった。」
いやまあそうだけど。
そんでもってほんとよくしれっと死んだこと受け入れて語れるなこの人。
もう怖いよここまで来ると。
「ついでに言えば首を切られて幼少の頃に戻ることも戻った先でもう一度死ぬことになるとは思ってもいなかった。」
思ってたら困るよ。
「それに…私の四十年余りの生涯を先に聞いてしまえば、きっとそなたはそれをなぞる事になる。」
ああ、そういう事か。
ようやく合点がいった。
きっとこの人は—。
「まぁ無理に変えようするとこうなるしな。」
「…え?」
なんて言ったんだ?
聞き取れなかった言葉を聞き返そうとすれば、気まずそうに目を逸らされた。
ついでに話題も逸らされた。
「いや…そなたについてもう一度出会うとなると些か気まずい相手が…一人二人三人四人五人六人七人…」
「多い多い多い。」
一体何をやったとしたら気まずい相手がきりなく挙がるんだ。
「いや、私は何も…しなかった、訳では無いが。」
しかも思い当たる節があるらしい。
そういうとこだぞ多分。知らんけど。
「…まぁいいや、それで?去るのはいいとしてどこで何をするつもりなんだ?」
ふと思いついた疑問をそのままぶつければ、眉を顰められた。
「…そなた細川の縁者ではなかろうな。」
「細川?」
一体何をした人だったら引き合いに出されるんだ。
「離縁を言い渡した妻が直前で惜しくなって引き留めようとする亭主以外から初めて聞いたぞ?」
嫌に具体的だな、見たことあるのか?
…というかつまり面倒くさい、って言われたのか私は。
ちょっと傷つくな。
そんでもって細川某は面倒くさいそういう事をする奴ってことか?
「…いやあれはそういう次元では…違う、まぁ適当に諸国を見て回るさ、仕事以外で行けなかったのでな。」
なんだかんだいって答えてくれるらしい。
ついでに何か愚痴が混じったように思えたが気のせいだろう。
…他人の死後に口出しは無用か。
今更な気もするけど。
「あーそれは…お気を付けて?」
ただの社交辞令、だったのだが。
「…ふっ。」
はははっと何がそんなに可笑しかったのか三成が声を立てて笑う。
「…ああ、っこんなに笑ったのは久し振りだ!」
ひとしきり笑い終えてなお、笑い足りなかったのか肩を震わせ破顔する三成に、もうツッコミをいれる元気が私にはもうなかった。
「ソレハヨカッタデス」
まぁ楽しそうだからいいだろう。
何も解決はしなかったけども。
…いっそのこと私も旅に出てしまおうか。
「…生きている間は辞めておいたほうがいいと思うぞ?」
やっと笑うのをやめ、息を整えた三成が、立ち上がりながら冷静に告げる。
「また襲われても、次があるかは分からないからな。自分の身を自分で守れる自信がないならやめておけ。過信して二度死んだ私からの助言だ。」
いやな助言だな!
背を向け、去る背中を半ば呆れた目で見る。
助言にしては自虐が過ぎる。
そして最後まで絶妙に為にならないことしか言わなかったなこの人。
「—ああ、そうだ…。」
歩みを止め、三成が振り向く。
「…一つだけ、忠告だ。」
悔しいような、哀しいような、恐ろしいような。
様々な感情の入り混じった末に全てをなくしたような。
一人の“武将”としての顔で、三成が告げた。
「太閤殿下に、気をつけろ。」
それきり振り向かず、三成は消えていった。
作者「という訳で気がついたら笑いすぎてお腹いたいと言っている三成さんが横にいる作者です。本当は三日に一度くらいのペースで投稿したいのですが、なかなかできず申し訳ありません。」
三上「まぁ学生の本分は勉強っていうしな。…にしても何がそんなに可笑しかったんだろうな?」
作者「…私勉強してませんが。」
三上「…まぁ頑張れ。そしてどうするよこれ。」
作者「どうすると言われましても。笑いたくなる理由も分からないではないですが。」
三上「さっぱりわからん。…お~い、なんか話せそうか?」
三成「いやあ笑った、こんなに笑ったのは処刑の日の朝以来だ!」
三上「…怖っ。何があったら笑えるんだそんな時に。」
作者「割と最近では…?」
三上「こっちもか!…というか旅に出るんじゃなかったのか?」
三成「こちらは別枠だ。」
三上「そんなデザート別腹論と同系統の言われ方しても。」
作者「まぁここは不思議空間ですから。…決して私がキャラ設定固めずにノリで始めた為に必要としているわけではないですから!」
三上「全部言っちゃったよ…」
三成「まあそういう訳だ。」
三上「ソウデスカ。まあいいや、それで今日は何の話を」
作者「…ヤッベ忘れてた。」
三上「おい」
作者「いやあほら前回頑張っちゃったから。」
三上「ここは手抜きだったろ」
作者「今回本編頑張ったから」
三成「という訳で今回は無しだそうだ」
三上·作者「「仕切るなー!」」
作者「…仕方が無い。今日はちらっと名前が出た細川について、簡単にざっくりと解説します。」
三上「凄い保険かけるな…」
作者「細川氏は清和源氏足利氏の支流の一族で、歴史ある名家の一つとして、戦国時代においてもその名を轟かせています。」
三上「足利?」
「そう、言ってみれば足利の分家みたいなものです。多分。」
三上「多分て」
作者「そのため、室町時代、とくに南北朝時代から応仁の乱までのあいだは三管領家の一つとして幕府の実権を握るほどでした。」
三成「戦国時代の頃とは比べ物にならないほど強大であったそうだ。」
三上「そんなに凄かったのか…その割には知られていないような。」
作者「まあ、将軍家を含む有力な守護大名家の内紛である応仁の乱を期に弱体化していったので…それでも滅ぶことなく戦国を生き抜いていますから、凄いことは凄いのですが。」
三成「どちらかと言うと細川は細君の方が有名だからな。」
三上「奥さん…ひょっとしてあの横文字の?」
作者「よく知っていましたね~、細川ガラシャ、明智光秀の御息女です。」
三上「絶妙に馬鹿にしてない?そんでもって情報量多くない?」
三成「気のせいだろう。戦国を代表する悲劇の切支丹の細君だな。」
作者「悲劇の原因の一つはあなたって言われているんですけど…」
三上「ああ、それで横文字なのか。」
「まあ詳しく話すと私の寝る時間が無くなるので今回は割愛しますが、戦国時代には細川ガラシャを含め三人の代表的な細川が登場します。」
三上「三人を多いと思うべきか少ないと思うべきか…」
三成「まぁ多いと言っていいと思うぞ、何せ名の残った者のほうが少ないのだ。…ちなみに細君を除く二人は親子だ。」
三上「…ひょっとして戦国時代ってそんなに長くない?」
作者「そのうちの一人は、現代で言うヤンデレです。関わらないことを強くおすすめします!以上、次回をお楽しみに!」
三上「また投げたな…!」




