先延ばしたって良いじゃない
前回までのあらすじ
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた。
何やかんやあってす史実通り秀吉に仕官した佐吉は、改めて戦国時代を生きることについて考えるが――
短いです。
申し訳ありません。
「初陣について、聞いたのです」
過去の話、自分の話、どうにもならない後悔。
伝えなくとも良いと判断し切り捨てながら、最も当たり障りのない情報を出力する。
「……それで?」
すっ、と目を細めながら、続きを促される。
どうにも全てを見透かしていそうな目から逃げそうになるのを堪えて、言葉を絞り出す。
「今更ながら、私に人を殺す事ができるのか不安になって」
これは本心だ。
嘘偽りの無い、心の底からの言葉。
……先程の言葉が嘘だったわけではないが。
「なるほど。確かにな。」
絞り出した本心を、黙って聞いていた兄上が、噛み砕き、汲み取るためか、微かに首を傾げて考え込む。
一瞬だけ上を向いて逸らされた目が、再びこちらを向く。
その瞳に浮かぶ、いたずらっぽい光に、嫌な予感がした。
からかう様に、微かに笑みを浮かべて兄上が口を開いた。
「多少マシにはなったが。戦場に立とうものなら瞬きする間に殺されて終わりだろうな。」
……お前の腕前ではまず人を殺せない、ということか。
そりゃあまだまだ及ばない腕なのは百も承知だけども。
「そんなに言います?」
わかりやすくむくれてみれば、笑いながら頭を撫でられた。
どうもこの兄上は私を年端もいかぬ子供のままと思っている節がある。
「すまん。率直に言い過ぎた。」
フォローになってない!
「何の擁護にもなってませんよ兄上。……むしろより」
残酷になっている気がする、と続けかけて口を噤む。
何のツボに入ったのか、わしゃわしゃと頭を撫でながら兄上は笑い続ける。
本当に何が面白いのだ、と頬を膨らませながら、ふといつぞやの少々心臓に悪い愉快なおっさんを思い出す。
……兄弟だ。
紛うことなく兄弟だ。
嫌な血の繋がりを感じて、眉を顰めそうになるのを堪えてされるがままにしていると。
「そうむくれるな。……お前が無理に人を殺す必要は無いだろう?」
何て事ないように続けられる。
「え?」
思わず目を見開き、心底愉快そうな顔をしている兄を見あげた。
「お前は若い。上に弱い。おまけに生の死体を見たことがない。」
淡々と羅列される事実に、返せる言葉も無く黙り込む。
「そんな有様の奴が初陣を恐れるのは当然だ。」
「……そういう兄上は初陣したんですか?」
余りにも見知ったような台詞に、思わず口を挟んでしまった。
今では無かったかと悔いながらちらりと相手の顔を伺えば、何故か考え込まれた。
「初陣……初陣か。」
「何故にそのような遠い目をなさるのです兄上。」
ついでに凄く遠い目をされた。
初めてみたかも知れない、と意外に思いながら続く言葉を待つ。
「……一般的な初陣はまだかも知れん」
「初陣に一般的も非一般的もないと思いますけど兄上」
何かを明らかの隠したような言葉に流れるように突っ込む。
仕方がない、関西人の性だ。
「しがない田舎の地侍なんてそんなもんだ」
何故かそっぽを向いて早口で誤魔化す兄上に、思い当たる節がないでもなく、引き下がる。
「そんなもんですか」
「そんなもんだ。」
それにしても随分と含みのある言い方だった気がするが。
まぁいずれわかるだろう、と物分かりのいい末っ子は素早く頭を凝り変えた。
まぁともかく。
にほん、とわざとらしく咳払いをした兄上が顔をこちらに戻す。
「誰しもが通る道だ。」
お前が何を抱えているかはしらんが、としれっと流して、先達として言葉を紡ぐ。
「今お前が悩んだところで、戦場に立てば意味はなくなる。」
あぁ、叶わない。
この人には。
だから今は。もう少しだけ。
羨ましいと、心の底から思う。
今の自分であるはずなのに、そうで違いないのに。
何処かで疎外感を覚えながらそうですね、と絞り出すように答えた。
きっと全てを見透かしているのだろうに。
「あまり1人で抱え込むな。」
困ったときはいつでも言いにくればいい、私たちは家族なのだから。
そう言い残し、軽く頭を撫でて去ろうとした兄の背を見て、寂寥に浸りかけていた頭が急速に回転する。
「ところで兄上は何故こちらに……」
思わず本心の一部を吐露し始めたためにこんな事になったが、もとより訪ねてきたのは兄上の方だ。
顔が見たくなった、なんてことは無いだろうから何かしら、用があったのではないだろうか。
本来の冷静さを取り戻して問えば、あ、と小さく声を漏らして兄上が振り返った。
……何故そんな不思議な顔をしているのです?
「忘れるところだった。」
用があってきたのだ。
くるりと踵を返して戻りながら、兄が本来の用件を告げる。
「用?」
やはり何かあったのか。
「ああ。寺から文が来てな。」
寺からの文。
彼女のことだろうか?
言外に問えば、そうだ、と頷き返される。
「あらかた仕込み終わったそうだ。」
仕込みが終わった。
……ということは。
近いうちにまた会うことになりそうだ。
急くな、と暗に言われたとはいえ、自分とは違う道を進んでいる相手をみればまた揺らぎそうだが。
そんな悩みを見抜いたかのように、再び兄上がからかってきた。
「梅干しは。」
何を意味するか、何故そんなからかわれ方をするのか、瞬時に思い至って、顔に熱を集める。
「それは早く忘れてください兄上!」
きっと真っ赤になっている顔で睨みながら叫べば、声を上げて兄上が笑った。
作者『どうも皆さんこんばんは……油断してたらインフルもらったぽい作者です。』
三上「……随分ハイテクだな。」
作者『何でも空間ですから。』
三上「そうか。それじゃあこの会うたびに微妙に丸くなってるおっさんが毎回菓子食べてるのも」
作者『何でも空間だからです。』
三上「……だとしても限度ってものが……いや、もういいや。それで、今回は」
作者『……特に決めていなかったり』
三上「おーい?」
作者『ちょっと予定外でして。……今回は、戦国時代の治療について第二弾!内科と治療法の変化についてです!』
三上「……また馬糞か」
三成「流石にそんな理由無いだろう。あれはあくまで外傷だけだ。」
三上「それは良かった。少しは安心したよ、というかお菓子食べながら良く口にできるな。」
三成「……?」
作者『馬糞の代わり……では無く、当時の内科治療法と言えば漢方や鍼灸などが主でした。』
三上「外科は?」
作者『当時の日本では傷口を焼いたり切ったり馬糞塗ったり薬草塗ったりでしたが、外部からはもたらされます。』
三上「外部?」
三成「切支丹だ。」
三上「ああ……」
作者『最も、当時のヨーロッパの治療法も瀉血療法など眉唾物も多いのですが……。』
三成「水銀を飲むのとどちらがマシかだな。」
三上「……どっちもやだな。」
三成「余談だが、キリスト教が広まった理由にも一枚噛んでいたりする。」
作者『のですが、今回はここまで。大事を取って暫くお休みさせていただきます。』




