武士は武士でいろいろ大変
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた。
なんやかんやあって一生に一度でいい体験をした佐吉は―—?
またまた短いです。
今回は本当に短いです。
申し訳ない。
そんでもってまた微妙な終わり方をしています。
多分加筆します。
——ットン!
風を切る一筋が的に刺さる。
中心よりもいくらか外れた位置に突き刺さった矢を見ながら、軽く息を吐く。
やはりというかなんというか、三上正成としての経験は、石田佐吉に多少は受け継がれているらしい。
本当なら中心を射たかったが、十年ほどのブランクを考えればまぁ、まずまずといったところではないだろうか。
後ろで見守っていた正澄が驚いたような声を上げる。
「いつの間に腕を上げたんだ?……以前は十射中一射でも当たればいいほうだったのに」
「いやぁ……その、夢の中で鍛錬を」
正確に言えば現代でだが。
「そんなわけないだろう」
ばれたか。
それにしても、なんとなく予想はしていたが佐吉少年はあまり武術は得意ではなかったらしい。
というよりも好きではなかったらしい。
それがいきなり鍛錬をしたいと言い出したのだから、まあ驚くのも無理ではない。
私とて、別段武道は好きではないのだが。
先日ヤトウモドキに襲われ、危うく死にかけてから、戦国ではそれじゃだめだと思い始めた。
命の危機に遭うことの少ない現代ならともかく、死と隣り合わせの戦国ではそうはいかない。
せめてある程度自分で自分の身を守れる程度になっておかなくては。
と思ったことから、やりたいと言ったのだが。
口にした途端熱があるのかを心配され、熱がないとわかると今度は同一人物かどうかを疑われた。
……あながち間違っていないとは流石に口が裂けても言えないが。
最終的には正澄の監督の下でいったん許可されたものの、真剣に医者を呼ぶべきかどうかを悩まれている。
本当にどんな人間だったのだろう。
佐吉少年は。
などと考えながら、次の矢を弓につがえる。
ダンッ!!
雑念か。
先ほどよりも離れた位置に刺さった矢に、思考を止め、気を引き締める。
息を吐く。
タンッ!
完全に一致はしなかったが、これまでで一番中心に刺さった。
ふう、と息を吐いて、弓を下す。
少ししか動かしていないのに、もう疲れた。
もしかしなくとも、体力がない。
致命的じゃないか?
戦国武将としては。
いや、大将として座ってるだけでいいなら問題はないのか。
などと考えながら日陰に腰掛けると、訝しげな正澄の視線が刺さった。
「それにしても。どこで習ったのだ?その打ち方は」
やっぱり違ったの?!
何も指摘してこないからてっきりこれでいいのかと……。
意外とやり手な兄に冷や汗をかきながら言い訳を考える。
「えっいや、それは……」
こうなるなら大人しく剣術からやればよかった。
つい癖で弓術とか言うんじゃなかった。
などと後悔しながらもごもご言っていると、追い打ちをかけられた。
「私は見たことがないのだが」
でしょうね!
なんせ四百年は先の時代の人間が習ったものですもの!
「えーと、これは……その」
どうしよう。
馬鹿正直に現代で習いました、なんて言えないし。
……そうだ!
「えぇと、あの、その……ほら、あれです。この前ヤトウモドキに襲われたときに」
「襲われたときに? 」
……しまった禁句だった。
だがしかし、今さら引くわけにもいかない。
「打ち方が違う気がしまして」
目が笑ってない。
「うん、それで? 」
心なしか角が見える。
「真似をしてみました」
デジャヴだろうか。
「そうか、佐吉はすごいね」
何段階か空気の温度が下がった気がした。
「……それで?私弓矢云々について聞いてないけど? 」
あのう、目どころか顔が笑っていませんよ兄上。
「笑い事じゃないからね。それで? 」
全く目の笑っていない兄が迫る。
「お前馬から転げ落ちてとか言ってなかったかい? 」
言った。
確かそんな感じのことを言った。
「よく覚えておいでで……」
私は忘れていたのに。
「どうなんだい、佐吉? 」
行き当たりばったりで流石に言っちゃまずいと思って適当に誤魔化した事を忘れていた私に、考える暇を与えず畳み掛けるように続ける。
「いや、別に弓矢に当たったとかいうわけじゃ」
「私は当てられたとは一言も言っていないよ佐吉」
はめられた。
普通当てられたと思ったと思うだろこの流れなら。
「ぅ……」
というか語尾が佐吉になってますよ兄上。
「父上が聞いたらどうされるだろうね、佐吉? 」
聞いてます兄上?
多分聞いてない。
そしてこのままだと父上に事の顛末を報告されてしまう。
……想像だけでもう十分怖い。
ちょっと、いや絶対にご遠慮願いたい説教が待ち受けているのは、想像に難くない。
ここは何としても秘密にしておいてもらわねば。
「あはは……いやほんとにたいしたことはn」
「佐吉」
目が笑ってない。
怖い。
前回の父上もトラウマレベルで怖かったが兄上も負けてない。
さすがは親子、遺伝だ……。
などと言っている場合じゃない。
にっこりと笑いながらすごい力で肩を掴んでくる兄上。
どうやって口止めしようか悩んでいると、いつの間にか兄上の笑顔が消えていた。
これは怒ってしまったかと覚悟を決める。
と、静かな声がかけられた。
「佐吉。お前は自分をなんだと思っているんだい」
「……え」
「出かけるたびに厄介事に巻き込まれて。お前は何故か生き延びているが、本来ならどれも死んでいておかしくないような事なんだよ」
確かにそうだ。
もう呪いか何かじゃないかと思うほどには厄介事に巻き込まれすぎている。
それはそうだ。
なんせ本来の石田佐吉はもう死んでいるほどなのだから。
「……」
思わず黙り込んだ私に、会わせたつもりはないだろうが兄上も黙り込む。
その目が余りにも真っ直ぐで、弟を案じる兄の目をしていて、私は視線を逸らしたくなった。
と、肩を掴む力が緩む。
訴えるような眼差しをそのままに。
そうだ。
死にかける、いや死んでおかしくないほどだったのだ。
逃げるように目を伏せながら、頭の中で言葉を反芻する。
どこかで、関ヶ原までは生きるという確証のない確信を持っていたことに気づく。
「……すみません、兄上」
何かを言おうと口を開きかけた正澄より先に聞い口を開いた。
「今後は軽率な行動は慎みます」
そうだ。
私とて、いくらでも死ぬ可能性があるのだ。
市中引き回し回避どころではなく。
それ以前に死ぬ可能性だって当然ある。
というかこの調子だとそっちの可能性が高い。
……今更ながら怖くなってきた。
戦国時代を生きる覚悟を決めたは良いが。
想像以上に戦国時代というのは物騒で殺伐としている。
どうしよう。
死に方以前に四十まで生きれる気がしない。
しおらしく謝罪する弟に、何ともいえない……というか調子の崩れた顔で兄上が口を開く。
「いや……私も……言い過ぎた」
……そんなことはないと思います。
「……まぁとにかく。今後は軽率に問題に首を突っ込まないようにしてくれ」
呆れたような、まだ怒りの収まらないような顔をしながら若干歯切れ悪く兄が言葉を紡ぐ。
私が問題に首を突っ込んでいるのではありません、問題が突っ込んでくるんです。
などと野暮なことは言わない。
ことさらしおらしい顔をしているとぽつりと頭上から呟きがもれた。
「私の心臓が保たない」
……デジャヴだろうか。
以前似たことを言われた気がする。
というか間違いなく言われた。
あぁ、本当に。
大事に大切に育てられてきたのだ。
佐吉少年は。
何だか無性に息が詰まって、苦しくなった。
それがどうにも悔しくて、少し生意気を言ってしまった。
「……はい」
善処します、とそっぽを向いて言った。
こいつ、と軽く小突かれる。
そこは約束すると言いなさい。
呆れたように、兄は笑った。




