光陰矢の如しとは言うけれど
友人を庇って重体となった三上正成は、目を覚ますと戦国時代、後の石田三成である石田佐吉になっていた。
石田三成の霊体と会ったり三献茶RTAをやり遂げたりと忙しい日々を送る佐吉は―—?
相変わらず本編短いです。
申し訳ありません。
さて、いつの間にやら時がすぎ。
気づけば私は十七歳になっていた。
約束の年まであと一年ほど。
戦国時代の基準で言えば成人扱いされる年。
……いや、それは現代でも変わらないか。
まあともかく、私が石田佐吉として過ごした日々を積み重ねると三年ほどになるというわけだ。
いや、おかしくない?
いくら何でも早すぎない?
光陰矢の如しとかなんとか言うけどさあ。
早すぎじゃない?
というか月日の間隔が早く過ぎるのってこう、年をもうちょっと重ねてからの話じゃないの?
子供の感覚の一年ってもう少しあった気がするんだけどなあ。
というかこれといって大したことはしていないのに。
いつの間に三年も過ぎていたのだろう。
当初の予定ならもうちょっといろんなことをして旅をして世界を知って、それから身の振り方を決めるはずだったのに。
私のしたことと言えば、ちょっと農具を改良したり、ちょっと穫れ高と面積をもとに計算したりちょっと現代の必需品を開発していたぐらいだ。
あとはちょっと武術の鍛錬をしたりちょっと旅行しに行ったくらいだ。
大したことなど何もしていないのに、ただ時だけが過ぎる。
こんな調子で結論を出すことができるのだろうか。
周りに人がいないことを確認してから、こっそりと息を吐いた。
どうもこの家は過保護が過ぎる。
よってたかって甘やかしたというのは伊達じゃない。
もうこれ性別が違っていたら箸より重いどころか箸すら持ったことがない人間が生まれていたんじゃないのか。
甘やかすのが悪いとは言わないが。
戦国時代であることを考えれば異常では無いだろうか。
……いや、甘やかしすぎるのも良くないか。
甘やかされているからこそ好き勝手できていることを棚に上げて思考に耽る。
このままいくとわがままな永遠の子どもが誕生するぞ。
何せ身長がちっとも伸びないのだ、成人前ならまだともかく、この年でこの身長はちょっとまずい。
十四のときからちっとも伸びた気がしない。
やはり夜に考え込む癖がいけなかったか。
うーん、と現実逃避を兼ねて思考していると、名を呼ぶ声が聞こえた。
「佐吉ー! 」
「んぇ、ああ……兄上。一体どうし」
「何を寝ぼけているんだ。今日は水車の様子を見に行くと言っていただろう」
そういえばそんなことを言った気もする。
「ああ、そういえば」
まだぼんやりと思考にふけりかけているところを、引っ立てられるように畑へ連れて行かれた。
「何がそういえば、だ。お前一昨日言ったことも忘れてどうするんだ」
一昨日だったのか。
おかしい、記憶力には割と自信があったのに。
「……歳ですかね」
「あほう」
軽く小突かれる。ここしばらく、ことあるごとに小突かれている気がする。
「なに口調まで年寄り臭くなっているんだお前は。一番若いのはお前だろう」
呆れながら律儀にツッコミを入れる兄が面白くて、もう少しボケてみる。
「えー……でも松の木の田助さんとこではまた生まれたって」
引っ立てる腕に力が込められる。
「そうじゃない。……わかって言っているだろ佐吉」
バレた。
そしてちょっとふざけすぎたようだ。
「……ソンナコトナイデスヨ」
そっぽを向いて、ついでに体を離そうとした所で襟を強く捕まえられる。
「こっちを向きなさい佐吉」
他愛のない会話を繰り広げながら、目的地に着く。
まだ少し改良の余地はあるが、時代を考えれば上々だろう。
水の流れを受けて音を立てて回る水車。
農業はあまり専門ではない私でも知っていたそれが、どうやらこの時代にはまだなかったらしい。
刃物を手にすることがないよう目を光らせる人々の目を盗み、どうにかこうにか縮小版プロトタイプを作り上げ、動くことを確認し、お披露目した時の驚きときたら。
私が目を覚ました時に比べれば随分マシだったが。
それでも十分驚かれ、刃物を使ったことに気づかれたあとはこってり絞られた。
私が驚いたのはその後だ。
ひとしきり怒り、驚いた後、実際に活用できる大きさに作り直し、的確に配置し活用しだしたのだ。
そりゃあ多少は構造について伝えたりはしたが、こうも的確に作り上げられるとは思わなかった。
さすがは変態国家ジャパン。
などと驚く一方で、それでもこうしてたまに様子を見に行って確認した方が良い程度には改良の余地がある。
地面に膝をついてじっくりと確認する。
各部についてときおり声に出してしまいながら点検していると、あきれたような声が後ろから聞こえてきた。
「普段あれ程ぼんやりしているくせに、一旦手を出すと人の声が聞こえなくなるほど真面目に熱心に取り組み出す。……どちらが本当のお前か時々わからなくなるよ私は」
ご丁寧にあちらから聞こえなくなると言ってくださったので聞こえないふりをする。
ひと通り点検し終えて、製作者だという方と少し話をしていると、随分時間をかけていたらしい。
もう太陽が下り始めている。
慌てて身支度を整え、服についた泥を軽く払う。
と、いつの間に背後にいた兄が声をかけた。
「やっと終わったのか? 」
「えぇ、やっと」
あまりに熱心に話し込んでいたから兄は木陰で休んでいたのだろう。
あきれた声にむくれて見せれば、竹筒を放って渡される。
質量のある、冷えたそれの飲み口を開ける。
汗を描いたあとの水は格別美味しい。
……別に運動はしてないけど。
味わって飲んでいると妙に生暖かい目を向けられた。
「……甘やかしすぎたな」
「え? 」
「何でもない。今日はまだ行くところがあるだろ」
言葉にはしないが急かされて、飲み口に蓋をしてから先をいく兄の背を追った。




