紳士と淑女
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時間かかってすみません。
「ま〜だ〜?」
「もうちょっと待てって!」
「はーやーくー!」
「そう!あれだ!準備がいるんだ!準備が!」
ミアとジンの攻防戦がなかなか終わらない。
たった手を繋ぐだけでこれとは。
ジンの腑抜け具合に呆れて溜め息しか出ない。
今日は無理なんじゃ…と諦めかけたときだった。
「おてほん、みせてあげる!」
ミアはそう言うと、繋いでいた手を離し、くるりとこちらに向きを変えて、小さな右手を差し出した。
「おてをどうぞ!」
それは、紳士が淑女をエスコートする仕草に似ていた。
なるほど!これをジンが真似すれば、ベル嬢と自然に手を繋げるって算段か。
よく知ってるなぁ!凄いぞ!賢いぞ!可愛いぞ!
でもミア、ひとつ聞いてもいいかな?
なんでその人の正面にいるの?選定理由はなに?
やりたかったのになぁ。まあ、今回は譲るよ。今回だけは。
僕は、茫然として動かない淑女役の足背を、羨ましいぞこの野郎め!と、恨みを込めて踏んだ。
淑女役の僕の護衛アルトは、女性不信が過ぎて、出会った頃は女性と挨拶すらまともにできなかった。
あらゆる精鋭がいる中、なんでアルトを選んだかって?それは、僕に間違ったことがあれば叱れる人だからだ。
王子というのは、叱られない。だけど、それではダメなんだ。
ゆくゆくは自治を担う以上、間違いは許されない。
僕だけじゃなく、多くの民の命がかかっているからだ。
しかし、襲撃に遭ったとき、女性の犯人を拘束することができず逃したなんて、処刑もの。
触らずとも魔法でどうにかすると言うが、なんとか克服させなければ、と日頃から少しずつ慣れさせてきた。
ミアは幼女だ。
さっきだって、唇に触れられても意識あったし、手も繋いだし、まだいけるだろう?
別に命を取るとかじゃないんだし、大丈夫だろ?
僕は、やれと合図を送った。
淑女役は、涙目でぶるぶると小刻みに震えながら、その手の平に自分の手を重ねる。
ほら、できるじゃないか。
これを機に次は、と目論んでいたときだった。
ミアが淑女役の手をギュッと握り返し、あろうことかその手に顔を近づけーー
「ちゅっ!」
ボンッッ!!!
二つの音が何かおわかりだろうか。
ミアの唇がアルトの手の甲に触れた音と、オーバーボイルしたアルトが出来上がった音だ。
ありゃやり過ぎちゃった〜と、はにかむように微笑むミア。
いやいや、かなり控えめに言ってやり過ぎだよ?
どこで教わったのかな?と、問い質したいところだが、胸がバックンバックンと早鐘を打って煩い。
これは、もしかしたら、心の臓の病気?
城に帰ったら、急ぎ侍医に診てもらわなくては。
僕は胸を押さえて、落ち着け落ち着けと自念した。
胸の鼓動の煩さが消えた頃、ジンが勇気を振り絞って、ベル嬢に右手を差し出していた。
「ベル、お、お、お手をーー」
「やらないわよ!やるわけないでしょ!絶対だめ!!」
「だめか…」
ベル嬢は赤くなった顔を隠すように、手でバッテンを作り拒否する。
ジン、一応聞いておくけど、どこまでやるつもりだったの?
…ん?だめ?今、だめって言った?
なるほどなるほど。可愛いミアのためだ。ギル兄が助け舟を出してあげよう。
「嫌じゃなくて、だめなんだね。」
「ギル様っ!!」
キッと睨まれる王子の僕。
図星だね、これは。
「そうか!嫌じゃないんだな!」
「ーーッ!もう!絶対しないんだから!ジンのバカ!」
照れるな〜と頭を掻きながら、嬉しそうに笑うジン。
「ふっ、あはは!あははは!!!」
あぁ、可笑しい!
照れてる場合じゃないよ、ジン。手すら繋げてないからね?
ベル嬢も、恥ずかしさを必死に隠そうとしてるのが垣間見えているよ?
2人はすでに想い合っている。
心配ないよ、と僕はミアにこそっと耳打ちしたのだった。
結局この日、ジンはベルと手を繋げませんでした。
でも、ジンはベルに手を握られたことがあります。
覚えてる方、ありがとうございます。
忘れちゃった方は、エピソード11「解せない」をお読みください〜。
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