第35話 賞金首
グール討伐、それにナイジェルらとの騒動があってから、数日後のこと。
その日の朝、ケヴィンたち四人の冒険者はいつものように冒険者ギルドへとやってきて、いつものようにクエストが貼り出される掲示板を眺めていた。
だがそこにはいつもと違い、一枚の見慣れない貼り紙があった。
「賞金首?」
貼り紙を見たケヴィンがつぶやく。
赤枠で縁取られた目立つ貼り紙の上部には、確かに「賞金首」と大きく書かれていた。
その下には「ブラックドラゴン(壮竜)」「モンスターランク:A+」「賞金:金貨一千枚」などの情報が続く。
貼り紙を興味深げに眺めるケヴィンに、盗賊のジャスミンが声をかける。
「ケヴィンは賞金首の貼り紙を見るのは初めてやったか」
「はい。賞金首って、クエストとは違うんですか?」
「うん、ちょい違うな。──ワウ、先輩冒険者として、ケヴィンに説明できるか?」
ジャスミンが話を振ると、狼牙族の武闘家少女ワウはきょとんとする。
だが次には、えへんと胸を張ってこう答えた。
「もちろんだ! ワウはケヴィンの先輩だからな! 朝飯前だ!」
「そか。じゃあ賞金首とは」
「賞金首は、えぇっと……倒すと賞金がもらえるんだ!」
「うん、そやね。じゃあそれは、討伐クエストとどう違うん?」
「それはだな……! ……ん? あれ? どう違うんだ?」
首を傾げるワウ。
ジャスミンと、魔導士のルシアが顔を見合わせて苦笑する。
説明を引き継いだのはルシアだ。
魔導士の少女は、ケヴィンに説明する。
「賞金首が討伐クエストと違うのは、クエストとして受注する必要なく報酬を受け取れるところですね」
「クエストとして受ける必要がない、ですか?」
「はい。賞金首になるモンスターは、その地域で発見されたものの、今どこにいるかの詳細が分からないことが普通です。どこかで偶然、該当するモンスターに遭遇した冒険者パーティが討伐に成功すれば、討伐報酬を受け取れるわけです」
「なるほど」
「そ、そうだ! ワウもそれが言いたかったんだぞ!」
腰に手をあてて胸を張り、虚勢も張る狼牙族の少女。
それにジャスミンが苦笑しつつ、ケヴィンに向かってもう一つ、補足説明をする。
「まあ、うちらみたいな普通の冒険者には、『警告』の意味合いのほうが強いんやけどな」
「警告……?」
「そ。今はヤバいモンスターがこの辺をウロチョロしてる可能性が高いから、上級冒険者パーティが討伐するまでは、一般冒険者たちは気ぃつけとけよって話。言うて、あんまり気をつけようもないんやけどね」
「ですね。万一の可能性としてドラゴンに遭遇するからといって、ずっとクエストを受けずに街に引きこもっているわけにもいかないですから」
ルシアがそう付け加え、ジャスミンがうなずく。
ワウは「そういうことだな!」と言って分かったふりをしていた。
それからジャスミンは、いつの間にか掲示板から剥がして持っていた、別の一枚のクエスト依頼書をヒラつかせる。
「と、いうわけで──うちらに大事なんはこっちな。商人からの護衛依頼や」
クエストランク「E+」と記されたそのクエストは、ケヴィンたちの現在の冒険者ランクで受けることができる最適なランクのものだった。
内容は、街から三日ほどの場所にある山間の村まで、道中の護衛をしてほしいというもの。
それを見たケヴィンは、クエスト依頼書の記述内容に疑問の声を上げる。
「ジャスミンさん、これ、『二パーティに依頼。このクエストを受注した二つのパーティは、協力してクライアントの護衛に当たること』ってありますけど」
「うん、そやな。もう一つ、別のパーティが同じクエストを受注するはずやから、うちらとそのパーティとで協力して護衛しろっちゅうこと」
「へぇ。そんなのもあるんですね」
「まあな! 分かるかケヴィン、冒険者は奥が深いんだぞ!」
感心するケヴィンに、なぜか胸を張って威張り散らすワウ。
彼女が胸を張るたびに、二つの大きな房がぽよんと揺れる。
この狼牙族の少女は、どこか先輩らしくならなければと思って、見事に空回りしているのだった。




