第36話 商人と冒険者たち
翌朝。
ケヴィンたちは市門前にて、クエストの依頼人である商人と合流した。
「よく来てくれた、冒険者諸君! ワシが護衛依頼を出したハロルドだ! 今日から往復で十日間ほどの行程になると思うが、金は払っとるんだ。しっかり頼むぞ! ワッハッハ!」
依頼人の商人は、頭部が禿げ上がりはじめた年頃の、恰幅のいい中年男性だった。
彼は荷馬車を二台持っていて、相応の数の使用人もいる。
使用人たちは慌ただしく出立の準備をしていて、商人ハロルドは冒険者たちに挨拶をしたあとは、その使用人たちにあれやこれやと指示を出していた。
一方で、ケヴィンたちのほかにも四人、冒険者らしきメンバーがいた。
魔導士風の若い女性が一人、男性が三人だ。
ケヴィンたちに気付いたその四人は、挨拶をしようと歩み寄ってくる。
声をかけてきたのは、魔導士風の若い女性冒険者だった。
十代後半ほどで、銀髪をショートカットにした中性的な容姿をもっている。
「やあ、キミたちが護衛依頼を受けた、もう一つの冒険者パーティだね。ボクの名前はローナ。Cランクの魔導士で、このパーティのリーダーをやってる。そちらのリーダーは誰かな?」
そう言われて、ケヴィンら四人は顔を見合わせる。
ケヴィンが加入してからは、特にリーダーなど決めていなかったからだ。
ジャスミン、ルシア、ワウの三人が言う。
「少年でええんやない?」
「そうですね。ケヴィンさんが適任かと」
「ああ。ワウも先輩だけど、リーダーはケヴィンに譲るぞ。先輩だからな!」
一方、驚いたのは当のケヴィンだ。
「ええっ、俺ですか!? 俺、冒険者の常識はよく分かってないですよ……!?」
「あっはっは、何事も訓練や。必要やったらサポートしたるから、ほれ行った行った」
「うわわっ……!?」
ジャスミンに背中を押されて、相手パーティの前に立たされるケヴィン。
しょうがないので、少年は深呼吸してから自己紹介をする。
「初めまして、ケヴィンです。冒険者ランクはEで、剣と神聖術が使えます。今日からしばらくの間、よろしくお願いします」
ケヴィンは前回の冒険を終えてからランクアップ試験に合格し、冒険者ランクがFからEに上がっていた。
一方で、相手の女性冒険者ローナは、不思議そうな顔をする。
「Eランク……? じゃあ後ろの三人もEランクってこと? でもそのランクじゃ、このクエストは受けられないはずだけど」
「いえ、ほかの三人はDランクです。俺は最近このパーティに入った新入りで」
「……? Eランクの新入りが、パーティリーダーなの? よく分からないな。……まあいいや。とにかく協力して護衛に当たらなきゃいけないから、よろしくね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
二つのパーティのリーダーは、互いに握手をした。
その後、互いのパーティメンバーもそれぞれに自己紹介をする。
やがて馬車の出立準備が整ったようで、依頼人のハロルドが再び冒険者たちに声をかけてきた。
「さぁて、出立の前に諸君らに確認しておくぞ。この護衛依頼を出したのはワシだ。金を出しているのもワシだ。諸君らはこの道中、依頼人であるワシの指示に従わなければならん。分かっておるな?」
すると盗賊のジャスミンが、挙手をする。
「あー、それは分かっとるけど、こっちも確認や。護衛依頼の範疇を出ることをしろ言われても従えんものがあるのは当然として。護衛としても、アホほど強いモンスターに遭遇した場合は立ち向かって死ね言われてもうちらも従えんと思うけど、その辺は大丈夫です?」
「……それは賞金首にあった、ブラックドラゴンを念頭に言っておるのかね?」
商人のハロルドは、ジャスミンのことをぎろりと睨みつけた。
ジャスミンはそれを飄々と受け流しつつ、言葉を返す。
「ええ、そう思ってもらって差し支えないです。うちらもさすがに、E+ランクのクエスト報酬で壮竜に立ち向かえみたいなんは、わりに合いません」
そのジャスミンの物言いに、商人ハロルドはふんと鼻を鳴らす。
「当然だ。ワシがお前たちに払う金は、ドラゴン退治を依頼するような額ではないからな。払う金に見合った仕事をしてくれればそれでいい」
「ん、それを聞けて安心しました」
その後もいくらかの話をしつつ、隊商は出立となる。
だがその折、銀髪の魔導士ローナは、その手をぎゅっと握りしめていた。
「ドラゴン……わが物顔で、人の地を踏みにじるやつらめ……!」
ひそかにそうつぶやいたローナの瞳には、憎しみの色が宿っていた。




