第34話 真実の言葉
冒険者たちが街を出てアンデッド退治に向かってから、四日後の昼過ぎ頃。
ケヴィンたちは、ナイジェルら四人を拘束したまま連行して、再び街まで帰りついた。
そんな状態では当然ながら、街の入り口で門番から尋問を受けることとなる。
「……これはどういうことだ?」
一人の門番が怪訝そうに、ケヴィンたちに問いかける。
一方では別の門番が、詰所で待機している仲間へと連絡に向かった。
市門周辺には門番のほかにも、街に入る人や、街を出る人々の姿がある。
さらに、市門をくぐった向こう側は街中だ。
街の人々が往来しており、ケヴィンたちのことをチラチラと見る者も少なからずいた。
罪人を連行したケヴィンたちの姿は、たいそう人目を引くのだ。
ケヴィンは門番に、事情を説明する。
「クエストのために向かった先で、俺たちは彼らから攻撃を受けたんです。それを撃退して連行しました。彼らへの厳正な処罰を求めます」
と、少年がそう語ったときだった。
ロープで縛られおとなしく連行されていたナイジェルが、突然叫び出した。
「違うんだ、話を聞いてくれ門番さん! 俺たちはこいつらに嵌められたんだ! クエスト先で突然襲い掛かってきたのは、こいつらのほうなんだよ! 頼む、信じてくれ!」
「「はぁっ……!?」」
驚きの声を上げたのは、ルシアとワウだ。
ワウが叫ぶ。
「何を言ってるんだ! 悪いのはお前たちだぞ!」
だがそれには、ナイジェルのパーティの女盗賊が声を上げる。
「嘘をつかないでよ、この悪党ども! ルシア、あんたナイジェルのことを逆恨みしてこんなことまでして、恥ずかしくないの……!?」
「なっ……!? そういう魂胆で……! やられた……!」
ルシアは悔しげに歯噛みする。
周囲の人々が、ざわざわとし始める。
門番たちも対応に困り、うろたえていた。
これがナイジェルらの起死回生の策であった。
自分たちこそが被害者なのだと訴えれば、ほかに誰も見ていた者のいない場所で起きた出来事なのだから、どちらが嘘をついているか街の人たちには分からないのだ。
ナイジェルは心の中でほくそ笑む。
(くくくっ……。だからお前は愚かなんだよ、クソガキが。誰がバカ正直に真実なんて話すものかよ)
それにここまで来てしまえば、ナイジェルらが殺されることもない。
ケヴィンが言ったとおりに街の外でも法治が及ぶなら、まだ市門の外であっても、人が見ている場所では人殺しなどできはしないからだ。
だがケヴィンは、その状況を受けてもまったく平然としていた。
少年は門番に伝える。
「門番さん。俺は至高神に仕える神官です。ここで真実の言葉を語らせる神聖術を使いたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「「「は……?」」」
その言葉に呆然としたのは、ナイジェルらのパーティメンバーと、ルシア、ワウだった。
ジャスミンは飄々とした様子で「やっぱこうなるよなぁ」とつぶやいていた。
門番の一人が、驚いた様子を見せる。
「し、真実を語らせる神聖術、ですか……? たしか至高神の神官の中でも、司祭様ほどの実力者でないと使えなかったような……」
「はい。司祭級の神聖術を使えるだけの実力はありますので。使ってもいいですか?」
「も、もちろんです、司祭様。是非とも我々に真実を」
「えぇっと、司祭級の神聖術を使えるだけで、司祭ではないんですけど……。分かりました」
門番の許可を得たケヴィンは、その場で祈りを捧げ、神聖術を行使する。
「至高神よ、かの者に今、嘘偽りなき言葉を語らせたまえ──真実の言葉!」
神聖術の光が、ナイジェルへと降り注ぐ。
剣士の青年は神聖術の効果に抵抗しようとしたが、叶わなかった。
ケヴィンはナイジェルに問う。
「ナイジェルさん。あなたたちは私利私欲のために俺たちに攻撃を仕掛け、危害を加えようとしましたね?」
「そ、そうだ! 俺はお前たちを力でねじ伏せて、ルシアを思うままに貪ろうとしたんだ! ──あ、ああ、そのとおりだ! 俺が今言ったことは、本当のことだ!」
「ちょっ、ちょっとナイジェル、何言ってんのよ……!?」
ナイジェルの言葉に、彼の仲間の女盗賊が慌てた様子を見せる。
だが最も混乱していたのは当のナイジェルだ。
彼は門番に向かって、必死に訴えかける。
「ち、違わないんだ門番さん! 俺の今の言葉は、全部真実なんだ! このガキは僕たちを嵌めようとしていないんだ!」
「ナイジェル! バカ! ちゃんと嘘つきなさいよ……!」
と、そんなことがあれば、門番たちも状況を把握する。
やがて官憲が呼ばれ、ナイジェルらは詰所へと連行されていった。
騒動が終わり、ケヴィンらは門を通ることを許可される。
目抜き通りを歩いて、少年たちは冒険者ギルドへと向かった。
その際、騒動を片付けてホッと一息をついたケヴィンに、ルシアが恨みがましい視線を向ける。
「ケヴィンさん。こうなること、最初から分かっていたんですか?」
「あ、えぇっと……はい。こうなる可能性は考慮していました」
「どうして先に教えてくれなかったんですか。一時はどうなることかと」
ジト目でケヴィンを見るルシア。
この精神的損害をどうしてくれると、その目が語っていた。
それにはワウも賛同する。
「そうだぞ、ケヴィン! ワウもどうなるかと思って、ドキドキしたぞ!」
「す、すみません、聞かれなかったもので……。ジャスミンさんには話していたんですけど」
「にひひっ。じゃあ少年は罰として、この後の宴でうちらのお酌をすることやな。樽でワイン頼もう」
そんなジャスミンの提案には、ルシアもぽんと手を打って笑顔になった。
「あっ、いいですねそれ。ケヴィンさん、それで許してあげます」
「えっ……えっ……? ていうか、ジャスミンさんにもですか?」
「ええやん、ケチくさいこと言わんで。うちも少年のお酌で飲みたいんよ。代わりに少年のことは、うちが抱っこしたるから」
「い、いりません……!」
「おーっ、いいなそれ! ワウもケヴィンにお酌してもらって、ケヴィンのこと抱っこするぞ!」
「ワウさんも、それおかしいですから!」
「ふふふっ。今日も楽しいお酒の席になりそうですね」
そんな風にして、少年は先輩冒険者たちに揉みくちゃにされながら、街の目抜き通りを歩いていく。
こうして今日もまた、ケヴィンの一つの冒険が終わるのだった。




