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手元に残った魔石は、青が二十個、緑が十八個、黄色が十個。赤と黒は一個ずつ、紫は二個だった。
マジックバッグの検証のため、野崎が今集中している。
彼の、龍の加護の力で、マジックバッグを作りだそうとしていた。
額に汗を滲ませて懸命になっている野崎の姿を、私たちはお茶を飲みながら眺めていた。
私たちの側にはプロメテウスとヘパイストスもいた。
エロスはへそを曲げて、この頃はここに来ていない。
愛菜が、一言の断りもなくオラドンへ行って、しかも異次元ドアまで佐藤さんが外したからだそうだ。
《魔物を倒すのが、よほど面白かったようだ。ところが、突然其方たちがいなくなってしまって、腹を立てておる》
ヘパイストスは、野崎の様子を興味津々で見つめていた。
《この者は、何をしておる?》
私は、「たくさん物が入る鞄」を作り出しているのだと教えた。
《たくさんの物が入れば、何か良い事があるのか?》
「……荷物をいくらでも持ち運べるのは、人間にとって夢みたいなものなのよ」
《そういうものか》
そしてまた、野崎の様子を見る。
何がそんなに気になるのだろう。
以前、プロメテウスの神性を見たときの感覚を思い出し、もう一度じっくりと野崎を観察してみた。
すると、野崎の頭から、金と銀の光が螺旋状に絡まり合い、少しずつ形を取り始めているのが見えた。
しばらくして、金と銀のマーブル模様の球が、ぽこんと頭上に浮かんだあと、ふわりと床に落ちた。
――すごい。こんな感じなのね、金銀の龍の加護って。
その光の球が鞄の形に変化していき、徐々に実体化していく。ようやく鞄がそこに現れた。
「ふうっ……やはりこれは量産は難しいな」
以前も同じ実験をしたとき、野崎がこぼしていた言葉だ。私は「やっぱりそうなるよね」と思ったけど、口を噤んでいた。
思念を形にするのは、ものすごく集中力がいる。そして疲れる。
野崎の力は、無から物を生み出すという、とてつもない力だ。
私たちは、力を使う事には慣れてきたけど、その疲れとは比べ物にならないだろう。
だが、私の隣で見ていた愛菜が「魔法陣、書けばどうですか?」と、何気なく言いだした。
「愛菜。それができれば苦労はない。魔法陣など……」
不満げな野崎は、疲れ切った顔で愛菜を見たけど、愛菜は、
「前に、匿った冒険者の鞄、ここでも機能してましたよ。鞄に魔法陣が描かれていました。わざわざこんな疲れることしなくったって、オラドンから魔具を仕入れたらいいじゃないですか」
「……そうか。オラドンの魔具か……忘れていたな」
野崎は途端にやる気をなくしてしまったようだ。
「くたびれ儲けだった」などと、ぶつぶつ文句を言いながら、鞄を異空間に放り入れた。
今までもチームのメンバーにマジックバッグを作ってくれた野崎だった。
「マジックバッグが日本で出回れば、私の力は珍しくなくなるだろう」
今後は、弁慶に頼んで、オラドン国の魔具を仕入れる方針になるだろう。
弁慶は、自分の力を畏れて異世界に住むことを選んだけれど、ここにいるメンバーも同じだ。
私たちの持つ加護が知られれば、途端に注目されて、自由が利かなくなることは目に見えている。
けれど、新たな異世界では、それが『普通の力』だと知れ渡れば、私たちは特別視されずにすむのではないだろうか。
愛菜にお茶を入れてもらって、野崎が一口飲んでほうっと息を吐き出すと、ヘパイストスが言った。
《われも作ってみたい。其方の作った鞄を、もう一度われに見せてくれぬか》
「あ、欲しければ献上します」
野崎は異空間から先ほどのマジックバッグを取り出し、「どうぞ」とヘパイストスに渡した。
神は嬉しそうにそれを受け取り、そのまますうっと姿を消していった。
まさかその後、エロスとヘパイストスが、アルケディアにダンジョンを造り出すとは、その時は考えもしなかった。
エロスはヘパイストスに《迷宮を造って欲しい》とねだっていたようだ。
のちにヘパイストスが語ってくれたことによると、空間を広げるという考えがどうしても理解できなかったという。
野崎のマジックバッグを見て《これなら行ける》と確信したのだそうだ。
だけどこれはディメンションリンク事業部にとっては大問題だった。
今まで神から無償でもらっていた希少鉱物は、迷宮へ潜らなければ手に入らなくなってしまった。
それを今度は、神が作り出した魔物を倒して、危険を冒して手に入れなければならなくなったのだ。
魔物はエロス監修のもと、幻獣や、精霊や、神までもを真似たものだった。
そんな事態になろうとはつゆ知らず、この時の私たちは、今後もレアメタルに困ることなどないと、本気で思っていた。
第三部 完




