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「いくわよーっ! みんな離れてぇえーっ!」
私の体から、風が噴き出す。風は、私を中心にしてぐるぐると渦を巻いた。
髪は逆巻き、身に着けているマントがパタパタとはためく。
始めはゆっくりと、やがて速度を増し、つむじ風は大きく育ちながら、目標めがけて飛んでいった。
二十体の魔物が悲鳴のような鳴き声を上げながら、竜巻に成長した渦に絡め取られて上空へ巻き上げられていく。
程なくして風がほどけて、どすん、ずどんと、地面に魔物が叩きつけられるように落ちてきた。
ここの魔物は頑丈だ、これしきではまだ生きていた。だけど、動きが鈍く、メンバーの刃に次々と倒されていく。
護衛たちはアサルトライフルを使っていない。
今は大鷲の巣で見つけた長剣を手に、魔物と戦っている。
彼らは剣の扱いにも慣れているようで、難なく使いこなしていた。
愛菜は、私の傍らで風魔法の使い方を食い入るように見ている。
彼女も黄色い魔石球を吸収したが、まだ自分から風を放つには至っていない。
護衛たちも同じように魔石球を吸収したものの、彼らは剣で戦うことを好んでいた。
斬り伏せた方が「すっきりする」のだそうだ。
たまに「ウインドカッター!」と叫んではいるけれど。
コロは、魔物をこちらまで追い立てる役だ。ジョバンニもそれに一役買っている。
シロフクは、私たちからかなり離れた上空を旋回し、周囲を警戒していた。
魔石を持ち帰って、後から経験値を吸収するつもりなら、何もここまで頑張る必要はない。
けれど、今後、弁慶を攫った冒険者たちと正面から渡り合わなければならない。
そのためにも実戦で戦闘経験を積んでおけ、と護衛たちに言われたのだ。
五階層では、赤い魔石球を五個手に入れた。
「ここは、大きな火山があるところを見れば赤の階層ってところだな」
「四階層は黄色の魔石球が多かったですよね。あそこも火山帯だったのに?」
「私に聞かれても分かるわけないだろう。あくまで観察の結果だ!」
そんな他愛もない会話を野崎と交わしながら、私たちは異空間へと足を踏み入れた。
今日こそメンバーのレベルが十八に到達するはず。愛菜たちのレベルも十二に上がれるかもしれない。
そうなれば、また魔石球を吸収出来るようになれる。
そして次の階層を目指す事になる。
「まだ弁慶は、ダンジョンにいると思う?」
愛菜に言われて、私も一瞬だけ不安になった。
「……分からない。今頃、街に戻っているかもね」
無事、レベルが上がり、これでメンバー全員が黄色の魔石球を取り込んだことになる。
薄い黄色の魔石球が数個残った。
今後、使う予定のない魔石球をどうするか。
「まあ、腐るものでもないし、このまま倉庫の肥やし行きだな。まだスキルスロットに空きがあるのは……」
野崎が皆の顔を見回した。
「榊原君と佐藤、それに愛菜と護衛たちか」
黄色以外の魔石球は赤が七個。緑が一個だ。
愛菜と佐藤さん、それに護衛たちは恐る恐る赤の魔石を吸収した。
緑の魔石球一個と赤が二個が手元に残った。
私に緑の魔石球を手渡し、ため息交じりに野崎が言った。
「緑は空間魔法だ。今のところ馬淵だけだが、これで榊原君も空間魔法が使えるな。次の階層で人数分、手に入ればいいがな……」
空間魔法は、本当は他のメンバーに先に与えるべきだろう。身を守る有効な魔法だ。私はシールドが使えるので、本当は必要無いのだが、スキルスロットが開いているので、野崎は渋々手渡したのだろう。
だから、私はこっそりマジックバッグに魔石球をしまい込んだ。
後から必要になったメンバーに渡せばいい。
どちらにしても、いずれはすべての魔石球をメンバー全員が吸収しなければならないのだから。その時まで、保管しておくことにする。
「赤はあと何個必要だ?」
「一個ですね。野崎さんと馬淵小宮山がまだ持っていません」
「そうか、明日、赤の魔石球を手に入れてから、六階層へいく。今日はもう休んでくれ」
次の日、すぐに大型魔獣に出くわし、あっと言う間に赤の魔石球が手に入った。
そこで、野崎が一旦護衛たちと転移盤で六階層へ先行する。
残された私たちは異次元ドアの前で待機だった。
佐藤さんは皆をシールドで囲み、雑談をしながらたまに遠くを見ている。
私は反対側の山頂をぼんやり眺めていた。
ジョバンニとコロが山の方へ行っていたからだ。しばらく自由に遊ばせておくつもりだった。
山の向こうから、土煙が上がっている。
「ジョバンニ、戻ってきた……?」
皆が一斉に山を見上げて、言葉を失った。大きな魔物の集団がこちらへ向けて走ってきている。
「ちょ! まずくないですか」小宮山君が愛菜を見る。愛菜も慌てているようだ。
「なんで今、追い込みしてんの。コロ!」
しかもすべてが大型魔獣だ。十五メートルもありそうなずんぐりした竜だが羽根がない。
小宮山君が「地竜じゃないか!」と叫ぶ。
ドタドタとした走りで、それが四十を超す頭数はいそうなのだ。
地響きを立てながら走る竜は必死だ。赤い眼を見開き、口からはだらだらとあぶく混じりの涎が噴き出している。
後ろでは、コロが嬉々として追いかけている。ジョバンニまで、竜の足元をすり抜けて、まるで羊の群れを追いかけ回す、牧羊犬並みだ。
「ま、まずいですよ。いくら何でもこれだけの魔獣は手に負えません!」
馬淵君がオロオロとし始める。愛菜は、きっとコロを見据えて、叫んだ。
「コロ! ステイ!!」
コロはピタリと止まって、はっはっと舌を出してこちらを見た。
「コロ、自分で何とかして!えーと……噛みつけ!」
それを聞いたコロは、一瞬三つの頭をかしげ、お互いを見て、その後慌てて地竜に噛みつき始めたのだった。
コロの唾液は猛毒だ。ひと噛みされただけで地竜たちは地面に次々と倒れていくが、いかんせん、数が多すぎた。
半数の地竜はそのままこっちへ走り続けている。
佐藤さんは、次々に指示を出していく。
「小宮山、「シャドー・バインド」で手前の竜を拘束してくれ。モナミは竜巻。他は「ウインドカッター」だ!やれ!」
一斉にウインドカッターが放たれて地竜の首や足を切り刻んでいく。
一番手前まで迫っていた竜は拘束されて、不自然な格好で立ち止まっていた。逆立ちの格好だ。
小宮山君がジョバンニに頼み込む。
「くっ!力が続かない……ジョバンニ何とかしてくれ」
ジョバンニが走り寄ってきて一声鳴くと、上からシロフクが舞い降りてきた。
シロフクからの攻撃が地竜の首に見事命中して、地竜の首がぼとりと落ちた。
私の竜巻はあまり効果がなさそうだ。竜は重すぎて舞い上がらない、足止めの効果しかなかった。それでもしばらくすると、シロフクや佐藤さんたちのウインドカッターで竜の数は、一頭、二頭と減っていき、最後の一頭がドタンと崩れ落ち、やっと収まった。
私たちはぺたんと地面に座り込み、もう腕も上げることすらできない。
私たちが座り込んだその時、異次元ドアが開き野崎たちが戻った。
「何の騒ぎだ……これは!」
私たちの僅か数メートル先には、死屍累々の地竜の山。
メンバーは疲れ切ってしまって、口を開くのも億劫な有り様だった。
佐藤さんがやっと立ち上がって、今までのことを簡単に話した。
「そうか。だが、無事で何よりだ。君たちはここで休んでいなさい。後始末は私たちがする」
地竜から、魔石を抜き取る作業が残っているのだ。四十頭からいる大きな竜が重なり合っているのをかき分ける作業も大変だろう。
後始末も終わり私たちは、異次元ドアを抜けて六階層のゲートの側に出た。
その後すぐに野崎の異空間へ入り、泥のように眠った。
目が覚めると、野崎からの伝言が携帯に入っていた。
『起きたら研究所へ来てくれ』
愛菜と一緒に行くと、既にみんながいた。メンバーたちは、気だるい姿でボーッと椅子に座っている。
野崎はテーブルに紫の大きな魔石を三十数個。魔石球を七個、ゴトリと出して見せた。
「君たちが狩った地竜から獲りだした物だ。今魔石を潰してみる。どれほどレベルが上がるか楽しみだな」
私はのろのろと視線を上げたが、期待はしていない。いくら地竜といえども、たった三十個でレベルが急激に上がるとは思えなかった。
野崎は次々と魔石を潰していった。すると私の体から力が溢れてきて、先ほどの疲労感が消えていく。
これはレベルが上がった兆候だった。
佐藤さんが眼を見開いている。『え?そんなに上がっている?』野崎が最後の魔石を潰すと佐藤さんが叫ぶ。
「レベルが、二十四に達しました!」
皆は背筋を伸ばした。
「愛菜とチェンたちも、レベル二十になっています」
スキルスロットができた。ここにある紫の魔石球が使える。
小宮山君、馬淵君、そして野崎は以前紫を取り込んでいる。だから、彼らは予定通り、赤の魔石球を取り込んだ。
他のメンバーは紫の魔石球を取り込んでいく。
紫の魔石球は身体強化だ。ただ、この先どんな力に変化するかは不明だった。
私は――土魔法に変化するのでは? と予想している。
もしこの先、違う色の魔石球が出なければ、たぶん予想は当たりだろう。
これでチームの力がおおよそ平均化した。
今後、必要なのは、青と、緑と黒の魔石球だ。
ただ、他の色の魔石球が、今後出てくるかも知れないけど。




