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小宮山君と馬淵君は、それぞれの力を開花させた。
ただ馬淵君は少しだけ納得いかないと、以前の野崎のような口ぶりだった。
「なぜ、納得がいかないの?」
「見て下さいよ。私の空間魔法」
見せてもらったのは、三畳ほどの異空間だった。これは野崎の異空間の縮小版ではないか。
「でも、咄嗟の危険には身を守れるので今は満足しています。佐藤さんの話では、レベルが上がればもっと広くなるだろうって言ってましたし」
小宮山君は、私がうらやましがった、『シャドーバインド』を完成させていた。
「『呪い』やデバフはまだ無理みたいです」
彼らは、「魔物を倒してくる」と出かけていった。
私は、今日は自分の風魔法の力の深掘りをしようと考えている。
ただのウインドカッターだけではつまらない。他にもできるはずだ。だって私が吸収したのは濃い黄色の魔石なんだもの。
「ねえ、シロフク。貴方には他の特技はないの?」
シロフクが止まり木で首をかしげた。「ぽー」と鳴いて羽ばたき、部屋の中を一回りして、また止まり木に戻った。
「飛べるって言いたいの? それは私には無理っぽい。翼がないから……」
――風を起こせばいいのかしら。竜巻のように……っ!
「ジョバンニ、シロフク。外へ行くわよ!」
私たちが、こうして思い思いに過ごしているのは、佐藤さんが「一度アルケディアの拠点へ戻る」と言って異次元ドアを設置し出かけているからだ。
そして、野崎は異空間の中の研究室で鑑定の力を高めていた。
「まだ少ししか分からないんだ」
そう言いながら魔石を睨んでいた。
***
一方アルケディアの拠点では、愛菜が佐藤に突っかかっていた。
「いったい、どんだけ待たせるんですかぁ!」
「すまん。弁慶の探索で、こっちも一杯一杯だった」
「そう! それですよ」
愛菜は、この拠点からレイドラのダンジョンに入っていた。そこで見つけてしまった冒険者のことを話して聞かせた。
「彼らが言っていた「べんけい」って弁慶さんのことですよね。拉致されてしまったって聞いてすごく心配してたんです」
「ああ、知らせていなかったな……悪かった。で、その冒険者は?」
「まだここに引き留めています。異次元ドアを見せれば疑われると思って、どうやって戻すか困っていたんです」
佐藤はぼんやりと愛菜を見て、鑑定していた。
ここでも鑑定が使えるか試してみたのだが、やはり無理なようだ。
――魔素がなければ、やはり使えない力なんだな。
黒龍から授かった力は問題なく使える。一方ダンジョンから得た力は、理が違えば全く意味を成さないものだった。
その事実が分かって、少しほっとした佐藤は、愛菜に冒険者を戻す方法を話して聞かせる。
「彼らに睡眠薬を飲ませようかと思う。寝ている間にあちら側へ戻せばいい」
「……その手があった!」
「その前に、彼らの荷物を見てみたい。転移盤があればいいが……」
「何ですか、それ」
「後で説明するから。荷物は?」
「はい、それなら私がしっかり預かってますよ」
冒険者は三人いた。普通は十人のはずだ。佐藤は彼らに、「他の仲間たちはどうした」と質問すると彼らは驚きの声を上げた。
「言葉が話せるんですか!」
佐藤は、しまったと思った。ここはアルケディアだ。きっと愛菜は、神に通訳を頼んでいたはずだ。そこへ、突然話せる人間が来たらどうなるか。
逡巡していると彼らは、
「貴方も、レイドラの迷宮から助け出されたんですね」
と、勝手に解釈してくれたので胸をなで下ろした。
「そうなんだ。ここの力ある神が私たちを元の世界へ戻してくれる。話は付けた」
佐藤はそう言って話を聞き出した。
彼らから聞き出したところによると、彼らの他のメンバーは魔物にやられてしまったそうだ。
這々の体で転移したが、そこで力尽きた。そういうことだったらしい。
迷宮は冒険者にとっても危険な場所だ。特に彼らのような初心者にとっては。
鑑定を使わなくても、話を聞いただけで佐藤は冒険者たちのレベルが何となく察せられた。
「レベル八以下だろうな」
佐藤たちのように野崎の異空間が使えるわけでも、榊原のような特殊な加護があるわけでもないのだから。
幸い、転移盤も黒い転移の魔石も彼らは持っていた。
それなら、ナメクジのモンスターハウスも通り抜けられるだろう。
彼らはやっと戻れると聞き、神の薬だと言って渡した錠剤を飲んでくれた。
眠っている冒険者たちを、コロの背中にくくりつけ異次元ドアをくぐる。
彼らを見つけたという三階層のゲートを少し離れた場所に彼らを寝かせた。
異次元ドアを知られるわけには行かない。佐藤はこの異次元ドアは撤去しようと考えている。
ここは今後、多くの冒険者が来ることが予想される。
愛菜から聞いた、冒険者の派閥。弁慶獲得に失敗した派閥は、この新しい迷宮に続々と来る事だろう。
「ここにはもう来てはだめだぞ。愛菜」
「ええーっ。せっかく強くなれたと思ったのに」
佐藤はここでもう一度鑑定を使ってみた。
確かに護衛たちも、愛菜もレベル八という結果が出ている。
「では、モナミたちのところへ行くか?」
「えっ……行ってもいいの?」
「ああ、今の愛菜たちなら問題ないと思う。だが、無理はするなよ」
護衛たちも、愛菜も、晴れやかな表情で「はい」と同意したのだった。
佐藤は異次元ドアに、ナウシアのダンジョンへつながる座標を入れる。
愛菜たちが通り抜けた後、佐藤もドアをくぐった。
愛菜たちはすでに、ナウシア側に出ていた。
五メートル前方に、四角い出口の明かりが浮かんでいた。
佐藤は振り向いて、今通ったレイドラに設置したドアを外して抱え、愛菜たちの後を追った。
***
佐藤さんが愛菜と護衛たちを連れて戻ってきた。
「レイドラの異次元ドアは、撤去しました。私の独断で、すみません野崎さん」
「いや、やってくれてよかった。状況が変化していたとは。そうか、冒険者の派閥というものがあるのか……」
野崎は愛菜から、冒険者の仕組みや派閥のことを聞き、深刻な状況なのだと理解したようだった。
「弁慶は売られたのか……」
「そう考えて差し支えないかと。三つの派閥で競り合ったといっていました」
「まるで奴隷の売買のようだな」
愛菜は、腕を組みながら憤然とした面持ちで冒険者たちのことを話し出した。
「神殿が、遠方からの魔導師だと思って丁重にお連れしたが、調べてみると、弁慶の魔素の値が低すぎて魔導師ではないって判明して慌てたらしいの。でも、その後が酷いのよ。冒険者たちの助けになる駒として売りさばいたんですって。競りに掛けるだなんて……人間なのよ、弁慶は!」
弁慶の時間操作の力は、この世界でも唯一無二の能力なのだろう。
――日本でも、ここでも……弁慶は、居場所がないじゃない。
「愛菜のお陰で、はっきりした。助かったわ。これから弁慶を助けに行きましょう。みんなで」
その日から私たちは九人のメンバーとなり、コロとジョバンニやシロフクも加わって大所帯になった。
私一人だった女性用の住居に、愛菜とコロも寝泊まりするようになり、賑やかだ。
ただ、シロフクは、コロが怖いのか近寄ろうとしなかった。
確かに見た目は怖そうなコロだけど、一度も唸ったりしていないのに。
「ジョバンニとは仲良くやっているのに、どうして?」
「コロは、アルケディアの幻獣だからかな。ダンジョンに設置した異次元ドアの検証。聞いたでしょう?」
そういえば、愛菜が野崎に頼まれて、地球の素材だけで作った異次元ドアと、アルケディアの素材を使ったものとの違いを調べていたんだった。
「地球素材のドアはダンジョンから消えてしまったわ。良くゲームで見た感じよ。ダンジョンが食べてしまったように見えた。でもアルケディアのドアはなんともなかった。驚くことに、魔物が避けて通ったのよ」
アルケディアの世界は神の異世界だ。そこの土壌も生き物も、すべてが神の素材と同じもので出来上がっている。
それゆえ、”魔”とは相性が悪いのだろう。
「エロスやプロメテウスに何も伝えてこなかった……今頃心配しているかも」
愛菜は、エロスと一緒にダンジョンに潜っていたそうだ。彼らに何も伝えぬまま、佐藤さんについてきてしまったと気を揉んでいた。
コロとエロスが魔物を倒してくれただけなのに、力がついたと驚いている。
だから、この世界の”経験値”の仕組みを聞かせてやった。
「佐藤さんの予測なんだけどね、十人までは平等に力が吸収されるんですって。あっ!」
「先輩。どうかした?」
「ジョバンニやシロフクや、コロはどうなのかしら? 彼らも力を吸収しているなら、私たち十二人のチームになってしまうわ」
研究施設にいる野崎に連絡を入れ、今後のパーティー編成を見直すことになった。
会議室は広々としている。
コロとジョバンニは部屋の隅で力比べをしていた。止まり木では、シロフクが警戒しながらコロたちの様子をうかがっていた。
「モナミの話を聞いて、ジョバンニの数値を調べてみたんだ。以前調べた数値があったからね。不思議なんだが、ジョバンニは全く変化がなかった」
「では、ジョバンニには経験値が吸収されないと言うことですか?」
「結果を見ればそうだろうな。コロの場合は数値を測れなかったから、調べようがないし、シロフクは今測ったばかりだ。今後どうなるか――明日以降でなければ、はっきりしたことは言えない」
翌日、私たちは二十体の魔物を倒して戻ってきた。
コロは、本当にすごかった。
魔物がコロから我先に逃げようとパニックに陥った。そこで、待ち構えていたジョバンニや私たちが一網打尽にしたのだ。
魔物から魔石を取り出し、会議室にまた集まって検証が始まった。
「魔石を一つずつ潰していく。佐藤が鑑定を掛けて数値の変化を見てもらう」
野崎がそう言った後、身体強化を使って魔石を握り潰した。
「愛菜、私が言う数字を書き留めてくれないか」
「はい。佐藤さん」
結果は、ジョバンニには変化が見られず、シロフクは私たちと同じ分だけ数値が伸びた。
「これはどう考えればいい?」
私は、困惑している野崎に仮説を述べた。
「ジョバンニはアルケディアの素材で生まれ変わりました。コロはアルケディアの幻獣です。それに、アルケディアの素材で作った異次元ドアも影響を受けませんでした。このダンジョンは、アルケディアと相性が悪いのかも。」
佐藤さんが「ちょっと違うな」と言って新たな仮説を立てた。
「ジョバンニたちに宿る神性が”魔”を弾くのではないか? シロフクはこの世界の魔物だ。理の中の生き物だから、魔素を吸収して成長していくのではないか?」
この結果を踏まえて、私たちとシロフクは魔石からの経験値が入ることが分かった。
九人と一体。十枠の枠に収まった、ということなのだろう。
問題は転移だけとなった。
階層を渡る転移盤は一つだけだ。
「転移盤は十名しか移動できませんよ」
小宮山君が言うと、野崎はあっさりと答えた。
「異次元ドアを設置すれば問題ないだろう」
結局、問題はすべて解決し、シロフク、コロ、ジョバンニを加えた九人プラス三体で、今後は行動することになった。




