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私たちはシロフクの能力について真剣に話し合った。
言い出しっぺはやはり小宮山君だ。
「三階層の魔物が、五階層の魔物を簡単に狩れるのはおかしい」
「確かにそうだ。これはどう考えればいいんだ」
野崎も今頃おかしいと気がついたようだった。
佐藤さんが、生物にもたまにいると意見を述べる。
「生き物って、大きいってだけでそれ自体が身を守ることに直結する。だが、実は小さくても、自分より大きな生き物を狩ることって、ぜんぜん珍しくないんだ。
能力が特化した生き物なんて、地球にもいくらでもいるからね」
「それに、シロフクは、もともとは大きくなる個体だったはずだ。それが体を大きくしない代わりに、能力のほうに力が回されたとは考えられないか? 榊原君はどう考える?」
「私の名付けで、彼女は形態を変えた。それも関係あるかもしれない」
馬淵君が、
「生き残るための適応……ってことじゃないですか。ゲームでいう『ステ振り』みたいに、本来は体を大きくするはずだった成長エネルギーを、別の能力へ回したとか」
「そうだな。この世界は、特にその傾向があるようだ。魔物もこの理の範囲にいる。そういうことだろう」
ジョバンニは部屋の隅で寝そべり、ときおりこちらへ耳を向けながら、おとなしくしている。
研究室の一角にはシロフク専用の止まり木が設けられ、彼女はそこでじっと寝たふりをしていた。
でも、私には分かる。
シロフクは、自分のことを話し合っている私たちの会話に、興味津々で聞き耳を立てているのだ。
魔物は、私たちが思っている以上に知能が高いのかもしれない。
チームは改めてその認識を共有し、今後出会う魔物には十分注意しよう――そう結論づけて、この日の話し合いを終えた。
翌日から私たちは、五階層の階層ゲートから右回りで進んで行った。
五階層も、四階層と似ている雰囲気だった。
火山帯ではあるが、高い山が中央に聳えている。そこだけが四階層との違いだろう。
魔物も同じようなものばかりだ。
魔石はほとんどが赤い色をしているが、やや大きく色も濃かった。
遭遇した魔物はことごとく風の魔法「ウインドカッター」で切り刻んでいく。
風の魔法が使える、私と佐藤さんが前衛で、その先をジョバンニが索敵しながら進んでいる。シロフクは上空から魔物を見つけ、隠れ潜む魔物を事前に狩ってくれていた。
彼女はこの日は、私たちの補助に徹するつもりらしい。危険を察知すると、自ら判断して先に排除してしまう。
――昨日の私たちの話を聞いていたのね。
その行動は、シロフクが高い知能を持つことを、何より雄弁に物語っていた。
野崎や馬淵君たちはまだ能力は身体強化しかできていなかった。
小宮山君は「何となくできそうな気がする」と言って、その日の終わりころ、「影に隠れる」技を身につけたようだった。
「明日からは、私も活躍できる」と息巻いている。
倒した魔物は魔石を抜いて、すべて野崎の時間停止エリアに収納している。
たまに素材を調べる以外は、そのままの状態だった。
「佐藤さん。もう、魔物肉の研究は終わったんですか?」
佐藤さんは、魔物の肉の効能を調べていた。
私たちをモルモット代わりにして、研究をしていたのだ。
だが、この頃は佐藤の手作りの料理は出なくなっていた。
結構美味しかったのに、ちょっとだけ残念だ。
「ああ、やはり魔物の肉は普通の獣肉と変わらないようだしな。魔石以外は人の体に影響がないようだ」
「影響がないんだったら良かったじゃないですか。私はあの竜のビーフシチューもどき、大好きです。もう一度食べたかった」
「そうか? では、明日作るか」
突然私たちの目の前が一瞬揺らぎ、小宮山君が姿を現した。私は驚いて佐藤さんに抱きついてしまった。
「小宮山君!」
「どう? 闇の隠れ蓑。名付けて『シャドゥー・ベール』すごくないですか?」
「ああ、分かったから、この空間では使うな。心臓に悪い」
佐藤さんも驚いたようだ。シャドゥー・ベールなんて名前まで付けて、まるで忍者気取りだ。
私たちも闇の加護を持っている。でも、黒龍から授かった力は、この世界の能力とは根本から違うように思えた。
どちらかというと私の加護は、この世界の身体強化と近いようにも思えるが、それだけではない。シールドも展開できるし、ジョバンニに至っては重力操作という力まで使えている。
この世界のスキルは、ゲームの設定と酷似しているようだった。
「小宮山君。闇には、他にどんな使い方がある?」
「いろいろありますけど、一番使い勝手がいいのはデバフですね。相手の能力を下げたり、動きを鈍らせたりするやつです。あとは、ゲームによっては『呪い』とか『シャドゥー・バインド』なんかもあります」
シャドゥー・バインド――拘束系の力だという。
それが使えたら、随分助かりそうだ。
「小宮山君。シャドゥー・バインド、使えるようになって。すっごく役立ちそう」
「へへ。やってみます。でも、闇って結構難しい。この闇の魔石球、どの階の魔物が持っているんだろう」
私たちが吸収した魔石球は、過去の冒険者が手に入れたものだ。私たちが自分たちで見つけたわけではない。
八階層まで到達できるような実力者が集めた戦利品なのだから、簡単に手に入るとは思えなかった。
野崎の話では、チーム全員がすべての種類の魔石球を吸収する必要があるという。そうすれば力が強くなり、弁慶を拘束している冒険者たちとも渡り合えるようになるらしい。精神も安定すると言っていた。
だけど、そんな貴重な魔石球を、果たしてすべて集められるのだろうか。
***
三日後、とうとう私たちのレベルが十五に到達した。
その日の会議で、野崎が魔石球を出して見せた。
「黄色の魔石球はシロフクのおかげであり余っている。これを試してみる」
だけど、野崎が吸収しようとしても、できなかった。
小宮山君が、
「これではっきりしましたね。六飛びだってことが」
「六飛び?」
「レベル六で一個の魔石球。十二で二個。次に吸収出来るのは、レベル十八ということですよ」
野崎が以前吸収した魔石球は濃い青色だった。佐藤さんの鑑定眼に寄れば水の魔法が使えるはずだと言うが、今まで野崎が使うのを見たことがなかった。
「野崎さん。水の魔法、試してないんですか?」
「……試した。だが、ジョバンニに比べると威力が格段に落ちる。使いどころがないものだった」
「ジョバンニは規格外だもんね」
「そうかな……照れるワン」
「……役立たずで悪かったな」
野崎はそっぽを向いている。
佐藤さんが、
「でも、何度考えても不思議だ。薄青と濃い青の違いが。当初、鑑定眼は下位互換だと言ったが。水魔法の威力を見ると考え直さなければならないようだ。野崎さん、鑑定を試してみませんか? たぶん使えると思うんです」
佐藤さんは薄青の魔石球を吸収して鑑定眼のスキルを得た。濃い青との力の差に納得がいかないという。
私は、つい言ってしまった。
「その人の知能で、使えない場合があるのかしら……」
場の雰囲気を壊してしまったようだ。野崎は佐藤さんと二人で出ていってしまった。
――またやってしまった。
翌日、私はおそるおそる佐藤さんに尋ねた。
「野崎さんを傷つけてしまったようです」
「そうか? 気にしているようには見えなかったがな。モナミのいつもの癖だと思っているんだろう。それより、色の違いが分かったような気がするんだ」
佐藤さんの仮説では、やはり色が濃くなるほど、魔石に力がこもっているようだ。
ただ、青色と一言でいっても違いがあるのではないか。薄青では鑑定眼しか使えないが、色が濃くなれば水魔法が使えるようになる。
「ということは?」
その時、バタンと音を立てて野崎が部屋に入ってきた。
「鑑定は私も使えたぞ。知能には問題ない!」
すっきりした顔で私に向かって顎を上げる。まるで「どうだ」と言っているようだ。
「そうだよ、モナミ。私はたまたま医師という仕事をしていて、物事を見る目が養われていたんだろう。だから、すぐに使えたんじゃないかと思う。少しコツを話したら、野崎さんも使えるようになった」
そうだったんだ。では、私が吸収した濃い黄色はどうなのだろう。
「佐藤さん。黄色の魔石球は? それも色が関係しているんですか?」
「関係あるかもしれないと思って、昨日、野崎さんと黄色の魔石球を調べてみたんだ。結構な数があったから、調べがいがあったよ」
佐藤さんと野崎が出した結論は、魔石は魔素を吸って成長していき、魔石球になったあとも魔素を吸収し続け、その結果、色が濃くなるのではないかというものだった。
「黄色の魔石球を並べてみたんだ。まるで色見本のようにグラデーションになっていたんだ」
佐藤さんはさらに仮説を口にする。
「私が吸収した薄青の魔石球も、この先レベルを上げていけば、成長していくんじゃないかと考えているんだ。以前、亡くなった冒険者の日記に、同じ魔石球は取り込めないと書いてあったのも、そのためじゃないか」




