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シロフクは、この頃「ホー」とか「ポー」と鳴くようになった。
「大鷲が、フクロウになった?」
それに、最初にぐんと大きくなったあの時以来、成長が止まってしまったみたいだ。
いや、このままでも十分に大きいけれど、大鷲サイズには遠く及ばない。 そして、ふわふわだった羽毛が、ところどころ抜け落ちている。
魔物の成長など知るよしもない私だ。それにしても、卵から孵って数日でここまでになるなんて、やはり魔物なんだなと、少し寂しく思う。
もう少しだけ、雛でいて欲しかった。
「これって、成鳥になりかかっている証拠だよね」
ジョバンニはシロフクをじっと見つめてから、言った。
「そうみたいだね。彼女、大きくなりたくないって言っている」
ジョバンニは、魔物の──シロフクの言葉が分かるようだ。 それに今、衝撃的な事実が判明した。
「シロフクって、雌なの?」
佐藤さんにもこの事を話す。
「大鷲は、単為生殖の魔物らしいな。あの階層に他の大鷲は見なかったし。そういうことなのだろう」
あんな危険で巨大な大鷲がそう何羽もいては堪らないもの。安心して良いことかもしれないけど。
今、シロフクはフクロウに変化しつつあると思う。
私が、「フクロウになって欲しい」と願って名前を付けたせいだ。
ということは今後、大鷲はいなくなってしまった、そういうことなのかしら。
「これで成鳥か……危険な性質さえなければ、この異空間にこのままいることには問題ないだろう」
野崎も、拍子抜けしたような調子でシロフクのことを認めてくれたのだ。
だが、シロフクが今後生むかもしれない卵はどう育つのかは不明だ。
そうなったら彼女を第三階層に戻すべきなのだろう。
真っ白で、鷲とは全く違う丸い頭部。黄色の目はくりくりして、黒い嘴をパカッと開けて、「ポー」と鳴く。
この頃は、大きな翼をバサバサさせるようになった。
「飛ぶ練習、させないとね」
魔物のシロフクは一週間で成長してしまった。
飛び方など、私が教える必要もなかった。実際、私には教えられないし。
朝起きて住居から出たら、急にバサバサと羽ばたかせて浮かび上がり、そのまま異空間の中を優雅に飛び回ったのだ。
フクロウの羽音は小さい。大鷲とは違うのだと、改めて思った。
シロフクの体長は一・五メートルほどだが、翼を広げると四メートル近くになる。親の大鷲の、せいぜい五分の一といったところだろうか。
フクロウは夜行性だと言うけれど、シロフクは問題なく日中でも飛び回る。
四階層の上空を円を描きながら、私とジョバンニについて回るようになった。
食事は自分で狩りをするので、世話を焼く手間は、すっかりなくなってしまった。
シロフクが急降下し始めた。
獲物を見つけたらしい。彼女は今でも大食らいで、一日に三体は大型魔獣を仕留めては、食べている。不思議なことに、私のところに必ず持ってきて、足元に置くのだ。
「いいのよ、シロフクが食べて」
そう言うと、やっと食べ始める。魔物を丸呑みする姿は幼い頃と変らない。何度見てもビクリとしてしまう。
魔石ごと飲み込んでしまうので、野崎は「狩りは出来ても、私たちに恩恵はないな」
野崎の心ない一言で、シロフクは彼をぎろりと睨み、そのまま飛び去ってしまった。
四階層には弁慶はいないようだった。
広い階層なので、ドローンも飛ばして見ている。
あるとき、そのドローンに人影が映り込んだ。
十人パーティーの冒険者だろう。
ドローンを引き上げ、方向を確かめる。
「ここからは、数キロ離れているから接触はしない。弁慶がいるパーティーではないな。
弁慶は特徴がある。
ごつい体に筋肉質で大柄だ。このパーティーは皆若く、細く華奢な体付きをしていた。
「低ランクの冒険者のようですね。この階層はもしかすると、初心者用なのかも……」
小宮山君がそう言うので、階層を進み五階層へ行くことになった。
野崎が転移盤を出し、黒い転移石を設置する。
「待って下さい。まだシロフクが戻ってきていません」
「……呼び戻しなさい」
呼び戻せと言われても、今までそんなことはやったことがない。
仕方がないので、大声でシロフクを呼ぶ。
すると、はるか上空から影が舞い降りてきた。シロフクだった。
彼女は野崎の目の前に巨大な魔獣を吐き出した。
まるで竜のような魔獣。体長十メートルは軽く超えている。
「どうやって持ってきたの……」
ジョバンニは「飲み込んで持ってきたんだワン」と何でもないことのように言う。
どうやらシロフクの体は、マジックバッグと同じような仕組みになっているらしい。
野崎は顔を引きつらせながら、それでもシロフクに確認する。
「これは受け取ってもいいのか」
シロフクは足でひょいとそれをつつき、野崎の方へ転がした。魔獣はごろりと転がり、野崎を押しつぶしてしまった。
「こら! 仕返しのつもりかぁっ!」
それでも野崎は、そこからスルリと抜け出した。どうやら身体強化を使ったようだ。
私たちは、竜のような魔獣を調べていった。
コウモリの様な羽根とずんぐりとした体付きは、どう見ても竜だ。
「顔は鋭い牙が並んでいるが、頭頂部がないな。シロフクがやったのか」
どうやったんだろう。すっぱりと、まるで鋭い刃物で切り落としたような断面だった。
小宮山君が興奮して「ウインドカッターだ!」と叫ぶ。
風の魔法なら使えるはずだというのだ。
私も、黄色の魔石球を吸収した。
「私にも使えるかも知れませんね」
野崎は渋い顔をして「君がスキルを使うのはどうも不安が残る……」と言うけれど、もしこの「ウインドカッター」が使えれば、強力な武器になる。
佐藤さんも持っている風の魔法だ。
私たちは、二人で練習しようねと、こっそり目配せした。
小宮山君は身体強化と闇の魔法が使えるはず。彼はゲームの知識を引っ張り出して「私もやってみる」と意気込んでいた。
馬淵君は空間魔法と身体強化。野崎は水魔法と身体強化だった。
今、彼は真剣に悩んでいる。
私が赤の魔石球に影響されておかしくなり、スキルを使うことを彼が禁じていたからだ。しかし、これからはレベルを上げて、手に入れることができれば、魔石球を取り込んでいかなければならない。
階層が上がるにつれて、魔物も手強くなっていくだろう。
アサルトライフルだけで倒すのも、だんだん難しくなってきている。魔石球から得たスキルを使わずに、この先進んでいけるとは思えないのだ。
四階層で、魔物を倒しているうちに、私たちのレベルは十三に上がった。
五階層でしばらくレベルを上げようという話になった。
野崎がその結論に至ったのには、シロフクが狩ってきた竜から、黄色い魔石球が出てきたことが大きかった。
野崎の手元には、黄色と緑の魔石球がそれぞれ一つずつ。あと、赤い魔石球が二つある。
レベルが上がれば、チームの四人に、これらを吸収させると、彼は皆に話した。
***
「シロフク。あの竜。すごく助かった。黄色い魔石球が出てきてみんな喜んでいるわ」
何気なく、私はシロフクを褒めてしまったのが悪かった。
その日、五階層へ入ってすぐのこと、シロフクは大きな魔物を大量に持ち帰ってきたのだ。
どうやったのかは分かる。どれも綺麗に首を切り落とされていたから。
首はシロフクのお腹の中に収まったようだ。
魔物の体には、それぞれ魔石球が見つかり、目の前には十三個の魔石球が転がっている。すべてが黄色い魔石球だ。
「シロフクは大したものだが、やはり所詮は魔物だな。こんなに黄色ばかり狩ってきて、使えないじゃないか。違う色の魔石球は集められないのか?」
野崎のその言葉を聞き、シロフクはへそを曲げてしまった。
それからは野崎には一切近づかなくなった。
たまに上から野崎目がけてものが落ちてくるようになった。
それは、魔物の魔石だったり、糞だったりする。
野崎はそのたびに身体強化を掛けて、逃げ回る羽目になった。
「言葉掛けって、大事だよね。野崎さん、シロフクに対して厳しすぎるんだ」
「……でも、ちょっと面白いわね」
野崎には悪いと思ったが、笑いがこみ上げてくる。
明日、シロフクに言い聞かせれば収まるだろうけど、今日はこのまま見ていようかな。




