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野崎の数値は、すべて一・〇となっている。
それを元にしてほかのメンバーの数値を書き直してみると、私たちの誰もが一・〇以下になった。
だが、これはどう理解していけばいいのだろう。
体力値や知力などの個別の数値は、みんなバラバラなのだ。
小宮山君が、「やはり総合値が関係しているのではないか」と言う。
各数値の総計が一定値を越すとレベルが上がり、そのときに平均的な値に均されていく。
その際、体もリセットされるのではないか、と。
「魔素レベルで体が再構築されるんです。そのうち限界に達し……ワクワクしてきたぁーっ!」
たぶん、この世界は全属性を目指す世界だ。
尖った能力は、育てたくてもそもそも無理なのだろう。
各能力は伸び続けるのではなく、総合値が一定に達した時点で、全体の均衡を保つように再配分されるのではないか。
以前、小宮山君が言っていたように、このダンジョンは魔導師の育成のために作られたものだ。
魔導師は全属性を身につけて、初めて大きな力を発揮するものなのだろう。
「私たちの持つ本来の能力を核として、その周囲を魔素が包み込む。そういう構造ではないかと思う。そして、魔素そのものが、完全な球――絶対球を作ろうとしているのではないだろうか。
たとえば、普通の魔石と魔石球の違いを見れば、答えが見えてくる。そう思わないか?」
野崎が、そこで佐藤さんに尋ねた。
「結局、私の力は下がったのか? 上がったのか。どっちだ?」
「全く変化なし……いえ、少しだけ上がったということでしょうね。元々の能力そのものは変化していないでしょう。
しかし、突出していた能力は平均化され、そのぶん低くなった可能性があります。
一方で、低かった能力は底上げされ、総合的にはわずかに向上した、と考えるのが自然ですね」
複雑な顔をして、野崎は佐藤の説明を聞いていたが、そのうち深く考えるのは後回しにしたのか、「使ってみれば分かってくるさ」と、野崎らしく前向きに切り替えたようだ。
小宮山君は、
「この方がレベルを判定しやすいんですよ。数え方も簡単です」
そう言う。
要するに、野崎はレベル一、私たちはまだレベル〇ということになるらしい。
なぜか、その話を聞いて、野崎の小鼻がふくらんだような気がした。
***
次の日からの探索は、皆が張り切ってすごいことになった。
積極的に魔物を倒し、魔石を集めて回るのだ。
私と佐藤さん、それにジョバンニも、その勢いに引きずられるように、多くの魔物を仕留めていく。
その結果、チームのメンバーは数日も経たないうちにレベル一になった。
こうしてみると、冒険者のパーティーも、似たような成長をするのだと予想がつく。
チーム全体が平均して強くなる、この仕組みはよくできている。
唯一違いが出ると思えるのは、小宮山君が言っていたスキル玉なのではないだろうか。
そこに、小宮山君がすぐに思い至ったようだった。
「榊原さんがゲットしたスキル玉。あれは、強い魔物しか持っていなさそうだ。今度はそれを目指しましょう!」
佐藤さんが吸収してしまった薄青い魔石球――「鑑定眼」のスキル玉。
でも、あれは大変な作業だった。
またあのような魔物に遭遇したら、私は尻尾を巻いて逃げる自信がある。
一体どうやって倒せというのか。あの時は、たまたまだった気がするのに。
もし、あれよりも強い魔物だったらと考えると、恐ろしくなる。
コウモリがいた岩の壁に沿って歩き、私たちは今、山の麓にたどり着いた。
「この山のどこかに階層ゲートがあるのかな。それとも山越えをしないとだめかな」
馬淵君は、心底いやそうに山を見上げている。
やや恰幅のいい彼には、山登りは苦手なようだ。
「ドローンの映像を見る限り、探索できていないのはここだけだ。登る以外、手立てはないみたいだな」
ここまで一週間以上も第三階層を探索してきて、いよいよ最後の未探索地点だ。
私はジョバンニに、こっそり相談する。
「ジョバンニ、ほんの少しだけ重力操作をすることってできる?」
ジョバンニは、「少しだけ?」というふうに首をかしげる。
「この山は急斜面だわ。少しだけ体を軽くしてみて」
彼はクーンと鳴いて、困った顔をした。
今まで力を全力で使うことはあっても、加減して使ったことがない。
やはりジョバンニには難しいようだった。
仕方なく、私たちは黙々と山を登っていく。
皆の体力値が上がっているようで、へばることなく、山の中腹まで登ることができた。
それほど高い山ではない。せいぜい八百メートルか、千メートル級の山だ。
背丈の低いツツジのような低木だけが目についた。
「地球では、これくらいの高さにはもっと木々が生えているんだけど……やはりダンジョンだからですかね」
中腹より上は、しなびた草がまばらに生えているだけで、木はまったく生えていない。
砂礫に足を取られて、少し歩きにくくなってきた。
そのあたりには、雷鳥のような鳥がちらほらと見える。
「あれも魔物でしょうか?」
「そうだろうな。ダンジョンだから、普通の獣はいないだろう」
全く怖そうでない、ぼんやりした鈍そうな魔物だ。
羽根は小さく、飛ぶことはできないだろう。
地面にうずくまって、じっとこちらの様子をうかがっている。
「この山のどこかに階層ゲートがあるかもしれんな。ドローンを飛ばしてみるか」
私たちが歩き回って探すのは現実的ではない。
皆はその場に座り込み、ドローンから送られてくる映像に注目した。
しばらく見ていると、突然映像が乱れて、ドローンからの通信が途絶えてしまった。
「何か、鳥のようなものに撃墜されたか?」
直前の映像には、鷲の足のような一部が映っていた。
画面から視線を上げて見上げると、大きな鳥がこちらめがけて飛んでくる。
「みんな伏せろ!」
気がつくと、私はいつの間にか佐藤さんのシールドの中にいた。
でも、ジョバンニがいない。
焦ってまわりを見回すと、ジョバンニは鷲に向かって走っていた。
「ジョバンニーっ!」
「榊原君、皆も、アサルトライフルで撃ち落とせ!」
私たちは一斉にライフルを構え、鷲に狙いを定める。
――ジョバンニが捕まってしまう。急いで仕留めなきゃ!
距離はここから四〇〇メートルは離れているだろうか。
その時、鷲はジョバンニめがけて急降下した。
放った弾はことごとく外れ、鷲は今にもジョバンニをつかみそうだ。
「ちょっと、大きすぎない?」
ジョバンニに近づいた鷲は、あり得ない大きさだ。
以前、プロメテウスの宮殿で見かけた鷲と同じくらい大きい。
ジョバンニが、まるで子犬ほどに見える。
「くそっ! これではジョバンニに当たってしまう」
野崎の悪態を聞きながら、私はただただオロオロするばかりだ。
――どうしよう……。
私は走り出した。もう、いても立ってもいられない。
急加速して、弾丸のように走っている自覚はあった。
後ろで野崎や皆が叫ぶのも聞こえていたけれど、かまってはいられなかった。
もうすぐジョバンニが鷲に連れ去られそうなのだ。
――あと十メートル、という位置に来たとき、ジョバンニが巨大化した。
鷲は一旦空に舞い上がる。大きくなったジョバンニに驚いたようだ。
私はその場にしゃがみ、鷲に狙いを定めて連射した。
至近距離から発射された銃弾は、鷲の首に集中的に当たる。
ついに、鷲の首が胴体から離れ、落下してきた。
すぐあとを追うように体も落ちてきて、砂礫が吹き上げられ、一瞬、砂埃で目の前が茶色くかすんだ。
「モナミ! すごい。大きな魔石球の魔物、仕留めたワン!」
「……ジョバンニ……」
ジョバンニは、小宮山君の話を聞いていたに違いない。
魔石球を持つ魔物を見つけて、一目散に走っていったのだ。
なんということ……。
鷲の頭の中から、黄色い魔石球が出てきた。
濃い黄色で、大きさは、やはり十センチだ。
この色の濃さには、何か意味があるのだろうか。
野崎は、このまま頂上を目指すという。
気持ちが乱高下した私は気だるくなって、みんなの後に続いた。
「ジョバンニ。もう危ないことはやめて。心臓が持たないから」
「ごめんね、モナミ……」
頂上には、大きな鳥の巣があった。あの鷲の巣だと、すぐに分かった。
巣の中には、いろんなものがあった。
見事な意匠の剣や鎧。大きな鞄。ブーツ。盾などが散乱していた。
人骨も……。
「ここはダンジョンなのに、変じゃないか。吸収されないのか?」
小宮山君がそう言うけれど、事実としてここに残っているのだから、この山が特別なのか、この階層が特別なのかもしれない。
その中には、大きな卵もあった。
「この階層の生き物は、生態系ができあがっているようだ。魔物は湧き出すのではないようだな」
おびただしい量の剣や防具は野崎が空間庫に収納し、人骨はどうするか一瞬迷ったが、このままにしておくことになった。
誰に引き渡せばいいかも分からないし、勝手に墓に埋葬してしまうのもはばかられた。
「もう魂はここには宿っていないんだ。鳥葬だと考えよう……」
「卵は?」
「生態系の一部なら、このままにしておくより仕方がないだろう。持って帰って育てるのか?」
先ほど見た大きさに育つのなら無理だ。
だけど、このままにしておけば、そのうち腐るか、生まれたとしても育たないことは目に見えている。
私は、後ろめたさを覚えながらも、卵をそのままにしておくことに同意した。
親鳥を殺してしまった罪悪感から、私はポシェットの中身を巣にすべて置いてきた。
もし卵が孵ったとしても、食べることもできないだろうけれど、せめてもの罪滅ぼしのつもりだった。
――その時は。




