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野崎の異次元倉庫が完成した。
彼が創造したのは、二種類の倉庫だった。
時間停止が着いたそこそこの空間と、何でも入れることができる空間だった。
そこには人間も入る事が出来るという。
チームのメンバーが興味津々で、今その空間に入って見ていた。
「野崎さん。これって体が浮かんで落ち着きませんね」
野崎までここにいて大丈夫なのかと私は不安だった。
目の前に浮かんでいる野崎は私から見ると逆さまに浮かんでいる。
周りのメンバーたちも空間を泳ぐように進んでいる。無重力空間なのだ。
小宮山君が空間を見て突っ込み始めた。
「CEO!これ、だめですよ。荷物をどうやって識別しているんですか。識別機能がついていないんじゃないですか?」
「……自分が入れた物くらい……分かるつもりだ」
私は、どこまでも続く空間を見て、どうやって彼は探すのだろうと考える。
「野崎さん。一体どんなイメージで作ったんですか」
「呼吸ができる宇宙空間だ。限りなく広く広大だろう」
それを聞いたメンバーは、さーっと青ざめ、慌てて手を繋ぎ始めた。
「もう十分です、このままではどこか遠くへ飛ばされてしまいます! ここから出してくださいっ!」
私は必死で叫んでいた。
異空間倉庫から転げ出た私たちは、急に戻ってきた重力に体を引っ張られ、その場にへたり込んだ。
「うう……体が重い……けど、重力って有り難い」
あまりに気が動転したので、気が抜けて立ち上がれない。
それでも私たちは、口々に野崎へ問題点を列挙し始めた。
「まず、重力が必要です」
「荷物の識別機能も」
「検索できないと困ります」
「こんなに大きくする必要がないです」
「取り出すときは、手元に出てくるようにしてください」
「あと、人が入るなら出口を見失わないようにしないと危険ですよ」
次から次へと飛んでくる注文に、野崎の顔がだんだん険しくなっていく。
「では、どうしろというのだ!」
私たちは顔を見合わせた。
そして――。
「「「もちろん、作り直しです!」」」
野崎は、がっくりと肩を落とした。
その後、小宮山君監修の下、異次元倉庫が見事に完成した。
再びメンバーが倉庫に足を踏み入れる。
皆おっかなびっくりで、腰が引けている。
金色と銀色が渦を巻く三メートルほどの入り口からそろりと中を覗くと、右側には棚が続いている。
よく見ると棚にはタグが取り付けられていて、このタグは野崎の意識にリンクしているという。
彼は得意げに話して聞かせる。
「外から意識するだけで荷物が現れるんだ。凄いだろう」
左側は何も無い空間だが、壁がある。みんな、壁に沿って歩き出した。
「広さは……体育館ほどでしょうか?」
「もっと広いみたい。でも重力もあるし、床もある。これなら安心ね」
「国立競技場をイメージしたからな。体育館なんて目じゃないぞ。ここに仮設の住居を設けても良いかもしれない」
野崎は重機も持ち込みたいという。どうやら夢が膨らんでいるようだ。
空気の心配も過ったけど、「それはまったく問題ありません」と小宮山君が太鼓判を押す。
「天井がかなり高く想定していますからね。数万人規模の人間が同時に長時間入らなければ大丈夫です」
「そういえば、時間停止がついた異空間のほうは?」
「それも作り直してもらいました。二つ別々というのは使いにくいですから。こっちです」
小宮山君に連れられて、右側の棚が並ぶ区域を奥へ進む。
そこには、大型冷凍庫を思わせる分厚い扉が設けられていた。
「この奥が時間停止区域です」
「ここも野崎さんが外から荷物を出し入れできるの?」
「はい。タグを登録しておけば、CEOは外からでも直接リンクできます。ただ、私たちでも、この異空間倉庫の中にいるときなら、入口の緩衝区画までは入れます」
小宮山君が分厚い扉を開ける。
その向こうにも床は続いていたけれど、少し先にもう一つ、境界のようなものが見えた。
「あそこから先が、本当の時間停止区域です。私たちは奥へは行けません」
「どうして?」
「空気がない設定ですから」
「……空気がない?」
「時間停止させるなら、そのほうが保存には都合がいいそうです。酸化もしませんし。ただ、人間が入ることは想定していません」
小宮山君は、さらりと言って奥を指さした。
「酸素ボンベをつければ、入ること自体はできるかもしれませんけど。時間が止まっていますからね、その時点で動けなくなります」
「いや、入らないから」
野崎に連れられて彼の住居スペースに通された。
そこで彼は、五メートル四方の金属の箱を皆の前に出してみせる。
「何ですかこれ」
「これは私の力を隠すためのダミーだ」
野崎は、この箱を作るのが自分の力だと世間に公表するという。
箱は『マジックボックス』だった。時間停止はついていないタイプだ。
「これの容量は、千六百立方メートル。大体、体育館の五分の一ほどだ。これを一年に一度だけしか作れないと公表する」
私たちの力は、今後少しずつ知られていくはずだ。
力は便利な反面、世の中からの注目は避けられないだろう。弁慶が畏れたのも、しかたがない。
今、私たちILTが取り組んでいる魔法陣の解読ができなければ、私たちは、この力と共に生きていくしかない。
そのために野崎は、苦肉の策として「力の過小化」と「世間への分配」という方向へ舵を切ったのだろう。
野崎は、自分が授かった力の限界についても話してくれた。
どうやら異空間倉庫のイメージが定着したあと、ほかのものを創造しようとしても、もうできなくなったという。
「これが、制限された力の限界だろう。
でも、それでいいと私は思う。思いついたものをすべて作ってしまえるというのは、考えてみれば、恐ろしい力だ」
***
野崎はその後、真壁GMとどこかへ出かけていった。
たぶん、機器を収納するための偽装工作でもしに行ったのだろう。
私たちは、依然として先が見えない魔法陣の解読と、力の付与の制作に取り組んでいる。
「闇の力にも、制限はあるのだろうか」
佐藤さんも、私と同じ力を授かっていた。
二人で手袋やブーツに付与をかけながら、ほかの力はないのかと話し合っていた。
「私は、闇の力って、影に隠れたり、呪いをかけたりするものだとばかり思っていましたけど……黒龍の闇の力って、どうも違うみたいですね」
「うーん。そうかもしれないな」
佐藤さんは、闇の力を付与した手袋を眺めながら考え込んだ。
「そもそも、ロンゴンの龍神たちは皆、転移ができる。そして白龍に言わせれば、得意不得意はあっても、やろうと思えば空を飛ぶこともできる。そう言っていたんだよね?」
「ええ。好みの問題だとも言っていました」
「そこが気になるんだ。大体、龍自体は力ある存在のはずだ。だが紫龍は戦えないという。これは龍が自分自身を定義している存在だ、とは考えられないだろうか?」
自分を定義している……面白い考え方だ、と私は思った。
アルケディアの神々も、初めから定義された存在だったけども、名前を与えられて己の存在が固まった。
龍の成り立ちもそうなのだろうか。
ロンゴンの世界を支える大きな存在の龍たちは、おのおのの分担が決まって、その理で存在しているのだろう。
では黒龍の力とは……存在の意義として考えれば少しは分かってくるだろうか。
初めに、始祖龍によって生み出された、白龍と黒龍は世界の根本だ。空と地。白と黒。そこに善と悪を織り込もうとするのは人間のうがった見方だとしたら……。
「白と黒の対比で見てみれば、力の方向性が分かるかも」
「力の方向性?」
「例えば、明るいと暗い、軽いと重い、収束と拡散、みたいな――だから黒龍の力は、重くて強力で、堅固なほうへ向かっていくのかもしれない」
「いや、もしくは重力に深く関わっているかもしれないぞ」
「!……そうかも。重力を操るのが本来の主な力だとしたら……」
「モナミ、これは使い方次第で、とんでもないものに化けるかもしれない……」
私たちのほかにも、ジョバンニと弁慶が黒龍から闇の力を授かっていた。
でも、今は弁慶はここにいない。
なら、ジョバンニに協力してもらおう。
そう思ったのだけれど――。
「重力? よく分からないワン」
ジョバンニは、きょとんとして首をかしげた。
「重くなったり、軽くなったりする力よ。ジョバンニもできない?」
「うーん……分からないワン」
そういえば以前、白龍もジョバンニには無理だろうと言っていた。
あのときは深く考えなかったけれど、これは犬という種としての限界なのだろうか。
だとすれば――。
それならば、加護を使える人間と龍の間にも、同じように大きな隔たりがあるはずだ。
「佐藤さん。私たちの力、そこまで心配する必要はないのかもしれません」
「モナミ、それはどういう意味だ?」
「そもそも、龍と人間では成り立ちも、力を受け止める器も違いすぎます。ジョバンニに重力というものが理解できなかったように、人間にも理解しきれないものがあるんじゃないでしょうか」
私は、自分の手を見つめた。
「だから、黒龍と同じ力を授かったとしても、黒龍と同じことができるわけじゃない。私たちが理解できる範囲、扱える範囲でしか、力は現れないんじゃないかしら」
「そうかもしれないがそうでないかもしれない」
佐藤さんは、白龍が言った「限定された加護」には、ほかにも何かあると考えているようだ。
「そもそも、昔のトカゲ人たちには大きな加護を与えていたと言っていたではないか。
そのぶんの力も一緒に授けていたと考えるほうが、理にかなっている気がする」
なるほど。
私が考えたように、受け取る側の器によって使える力に限界があるのか。
それとも佐藤さんが考えるように、龍の側が最初から授ける力そのものを制限しているのか。
どちらにしても、私たちが黒龍と同じような強大な力を振るえるわけではなさそうだ。
その結論に至り、私は少しほっとした。
――のだが。




