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開発部のメンバーは、日本に戻ってきた。

しばらくぶりの我が家に入ってくと、愛菜が「今回は早かったね、お帰り」といって微笑んでいた。

ペットたちも私に纏わり付いてくる。

私の体感では、数ヶ月は経っているのに、ここでは二週間ほどしか経っていなかった。

アルケディアの時は二ヶ月も留守にしていたけど、この時間のズレは私の頭を混乱させる。


「あれ、ジョバンニ。大きくなった?」


愛菜に言われて、改めてジョバンニを見る。


確かに、以前よりずいぶん大きくなっていた。私たちと数か月を過ごすうちに、ジョバンニも成長したのだ。

けれど、日本で経過した時間は、わずか二週間ほどにすぎない。愛菜が驚くのも無理はなかった。

ロンゴンへ向かったとき、ジョバンニの体長は三十センチほどしかなかった。それが今では、柴犬よりもひと回り大きいくらいにまで育っている。

あと数か月もすれば、昔のジョバンニと同じくらいの大きさになるだろう。


二階から、トントンと軽快な足音が聞こえてきた。

ひょっこりと階段の陰から顔をのぞかせたのは、何とエロスだった。


「ちょっと! 何、勝手にこっちへ来ているのよ!」


《ひどいな。約束してくれたではないか。いつでもここへ来てよいと》


エロスは頬をぷくっと膨らませ、甘えるような仕草で私にすり寄ってくる。

でも、野崎さんがこれを見たら、どう思うだろう。

それだけが心配だった。


「愛菜。この事、野崎さんは知ってるの?」

「うん。だって連れてきたのは野崎CEOだもの。彼がアルケディアに行って戻ったとき一緒だったみたいよ」

「……そうなの? だったら、いいのかしら?」

すると、頭をかがめて地下室の方から、プロメテウスまで姿を現したのだった。

彼までこっちへ来ちゃったの?


そして、愛菜がもじもじしながら窓の外を指さす。

そこにはケルベロスがでんと座っていた。

「なんで? 冥界へ戻したんでしょう。プロメテウス!」

《すまぬ。ケルベロスが……いや、コロがどうしてもこのままが良いと申してな。名前は変えておらぬ》


そしていつものように、開発部のメンバーが島の家に集結してきた。

メンバーが増えたので部屋の中はぎゅうぎゅうだった。


「やっぱり、ここの方が落ち着くわ-」

「ここが榊原さんの家ですか」

小宮山君たちと井ノ瀬博士も一緒だ。その後に――


「真垣課長!」

「やあ、久し振り。今はディメンションリンク事業部のGMだよ」

「ええーっ!」

色んな事が一気に押し寄せて、理解が追いつかない。


しばらくぶりに愛菜の手料理を食べ、皆でまったりしていると、佐藤さんが切出した。


「少し休んだら、ディメンションリンク事業部に行くぞ。野崎CEOから話があるそうだ」

「嫌な予感がするのは私だけ?」

「榊原さん。その予感は当っているでしょうね。しばらく日本で休んだ後、新しい仕事が待っているって言っていたもの」


井ノ瀬の話を聞き、今度は一体どんなことを押し付けられるのかと皆ビクビクしている。


「ボクたちって、探検家じゃないんですが……」


馬淵君が悲しそうに言うけど、開発部とは名ばかりの今の状況は私にも思うところがある。

元々は異次元ドアの開発とリンクを手がけていたが、今回私たちは異世界で力を授かってしまった。

言ってみれば地球では、超人の部類になってしまったのだから。


弁慶は、特にすごいことになっている。

欲しくもない力を、知らぬ間に三つも授かってしまったのだ。

紫龍からの「知」の加護は、まだ一番当たり障りがない。

だが、灰龍からの時間操作に、黒龍からの闇の不可解な力まで備わってしまった。

「あたい……どうなっちゃうんだろう」

と、不安顔で私を見るけど、私にはどうしようもできない。


井ノ瀬博士は木の操作。

小宮山君と馬淵君の二人は、紫龍から「知」の加護を授かった。この頃になって、ようやく少しずつ使い方が分かってきたらしい。


「なんだか、物事の本質みたいなものが見えるときがあるんです」


――これって、使いこなせるようになれば、「鑑定」のような能力へと変わっていくのではないかしら。


佐藤さんは、私と同じ闇の力を授かっている。

今のところは怪力になったくらいで、ほかに大きな変化はないらしい。

ジョバンニも同じだ。

闇の力に加えて、水を操る力まで持っている。


そして野崎さんは、金銀龍から授かった、あの不気味な力。

あれほど頭の切れる野崎さんでさえ、まだ正体を掴み切れていない。


――一体、どんな力を秘めているのだろう。


ふと、以前の野崎さんの言葉を思い出した。


「マジックボックス……できたのかしら」


***


「君たちには今後、各自の能力の開発に取り組んでもらいたい」

野崎が発した言葉は意外なほどまともだった。

毎日好きな時間に好きな場所で(最も島の外へはなるべく出ないように)という注釈は着くが、要するに仕事として、銘々の力を追求すれば良い、ということらしい。

野崎は忙しすぎて、まだ力の探求はできていないがと前置きしてから、私たちに何の変哲もない鞄を出してみせた。


「これは、所謂マジックバッグというものかもしれないが……精々が倍の容量だ。これをなんとか製品化するように、今新たな開発部を立ち上げた」


新たな開発部? 私たちはもう開発部ではなくなったということ!?


佐藤さんが、

「ではロンゴンの観光事業部は、どうなるんですか?」

「ああ、あれは、畑山君に任せようと思っている」

「畑山さんですか……彼女が納得したんですか?」


ロンゴンに長くいれば、時間のズレの問題が出てくる。今までの彼女なら、二の足を踏みそうな仕事だ。


「彼女は野心家だからね。私たちの能力を小耳に挟んだらしい。自分から申し出てきたよ」

野崎はわずかに口元をゆがめ、目をすがめながらそう言った。

畑山さんのことを、あまり良く思っていないのだろうか。

でも、畑山さんなら適任かもしれない。

彼女も白龍から言葉を入れてもらっているから、言葉の苦労はないはずだ。


弁慶が、ぼんやりと呟く。

「力を授けてもらおうとしてるんだね、畑山さん。やめておいた方が良いのにね……」


「弁慶。もう受け入れるしかない。君の能力は並外れている。もっと自信を持て」

「あたいは、欲しくなかった。時間を操作できると知られればどうなると思う? 絶対、目をつけられて自由がなくなってしまう」


野崎は首を横に振った。


「だから君たちには、自分自身を開発してもらいたい」


「弁慶の力も、もし形ある技術として生み出せれば、人々の目は君ではなく、その技術へ向くだろう。そうなれば、君自身が追われることはなくなる」


なんて簡単に言ってくれるのだろう。

時間を操る道具なんて、作れるはずがない。


「もしそんなものができたら、世の中は大混乱ですよ!」


私は思わず叫んだ。

だが野崎は、いつものように平然と答える。


「異次元ドアも、最初は同じことを言われた。だが、今はどうだ? 世界中へ広がっている」


野崎は静かに私たちを見渡した。


「これからの科学は……魔法と呼ばれる時代になるのかもしれないな」


***


ロンゴンでは、龍神たちが灰龍の元へ集まっていた。

山の中腹に集い、そこで始祖龍の今後の保管場所をどこにするかの相談をしているのだ。

壮大な黒龍の側にはすらりとした白龍が寄り添い、金銀の龍もその側に大人しく連れ添っている。

蒼龍に翠龍、灰龍に、紅龍、そして紫龍。

九柱の龍が揃う光景は壮観だ。

山の中腹が龍の長い体で占領されているのだから。

一際巨大な黒龍が口火を切る。


《今後、このようなことが二度と起こらぬよう、我は考えた。紅龍よ、其方に命ずる。始祖龍の宝玉を、其方が治める火山の奥深く、溶岩の底へと隠してほしい。あの灼熱の中へ、人の子が踏み入ることは決して叶うまい》

紅龍は眼をぎらりと輝かせた。


《お任せ下さい》


始祖龍の宝玉を管理するというのは、九柱の中でも最も重い責務の一つだ。


これまでは力ある灰龍が担っていた。だが、その失態によって、この誇り高き役目が紅龍へと託されたのである。


しかし、紅龍には一つだけ、先に済ませておかなければならないことがあった。


《有り難きお役目なれど、今しばらく猶予を賜りとうございます》


《何か不満でもあるのか?》


白龍が不思議そうに首をかしげる。


紅龍は、異界の人の子へ約束していた褒美を、まだ授けていないことを打ち明けた。


《なんと。あのとき褒美を保留したというのか。異界の人の子は、加護を望まなんだのか?》


《はて、不思議な人の子よ……》


紫龍は、モナミから「紅龍の褒美は少し怖い」と打ち明けられたことを思い出し、思わず笑いそうになった。


確かに、激情家の紅龍が授ける加護となれば、どのようなものになるのか想像するだけで恐ろしく感じたのだろう。


だが、龍神が約束を果たさぬままにしておくのは好ましくない。

人の子の命は短い。時を置けば、約束を果たす前に寿命を迎えてしまうこともある。

すると黒龍が静かに告げた。


《紫龍のもとには、今も異界の人の子がおるそうだ。早速行って加護を授けてまいれ。そうすれば、宝玉の管理にも心置きなく臨めよう》


紅龍は急ぎ、紫龍の新しくなった町へと転移した。


《はて、今おるのはモナミという人の子ではないが……まあ、異界から来た者には違いあるまい》


紫龍はそう呟くと、紅龍を見送った。

そして、自責の念に沈む灰龍を慰める役を買って出たのだった。


その頃、畑山は町の見回りをしていた。

突然、目の前の空間が赤く揺らめき、一柱の龍が姿を現す。


「ひっ……」


あまりにも唐突な出来事に、畑山は脂汗を浮かべた。


《其方じゃったか……。まあ良い。加護を授ける。有り難く受け取るが良い》


「えっ? ちょっ――」


制止する間もなかった。

紅龍は巨大な口を開くと、真紅の炎を畑山へ浴びせかける。


「ぎゃあああーーっ!」


炎が収まる頃には、紅龍の姿はすでに消えていた。


「……あれ?」


畑山は恐る恐る自分の体を見回す。


「熱く……ない?」


火傷一つない。


「ということは……力を授かったのね! でも、どんな力なのかしら?」

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