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白龍に連れられて、私たちは森のイグルーにようやく戻って来た。
だが、そこで目にしたのは、体を縛られ倒れている佐藤さんと井ノ瀬博士だけだった。
「チョウランが逃げただと!」
「はい、すみません……」
あのあと、チョウランの食糧調達のために、佐藤さんは森に入っていった。
そして戻ると、井ノ瀬が縛られ、人質に取られてしまった。
手も足も出せないままに、佐藤さんも拘束されたそうだ。
「チョウランは、砦へ戻って龍の封印が解けたことを知らせに行ったのね」
「どちらにしても、今の私たちにはどうしようもない。白龍。最後の黒龍の封印は、どうすれば解ける?」
《すでに封印の力は弱まっておる。だが、念のため魔法陣を壊すがよかろう》
黒龍の封印は、ほかの龍とは違っていた。
祠は見当たらず、黒龍自身が巨大な魔法陣によって地へ縛りつけられていたのだ。
他の龍たちは魔法陣の外にいたのに、黒龍は魔法陣の中に閉じ込められていた。
黒龍の宝玉はすでに返してある。
それでも封印は完全には解けないと、黒龍は話していた。
他の龍たちの封印が、その魔法陣へ力を送り続けているのだと。
では、すべての龍の封印が解けた今、その魔法陣はどうなっているのか。
この目で確かめに行かなければならない。
私たちは、拠点を片付け、井ノ瀬博士はイグルーを元の木に戻している。
そして悔しそうにこう言ったのだ。
「私にはこの力があったのに……あの時は気が動転して、チョウランのなすがままだった……」
佐藤さんも頷く。
「私も力があれば、何とかできたかもしれない。チョウランは魔法を使って私たちを脅したのだ」
私は今気が付いた。チームの中で龍から力をもらえていないのは、佐藤さんだけだ。
「佐藤さん。力が欲しいですか? 例えば……火の魔法をドバーッと放つような」
「そんな魔法があるのかい? あったら是非欲しいね」
冗談を言うようにおどけながら、佐藤さんは言う。きっと、本気にしていないのだ。
「あります。紅龍の褒美が保留になっていますので」
「……嘘だろう」
私は、あの怖そうな龍からは褒美など欲しくないけど、佐藤さんなら、気にしないかもしれない。
野崎には要らないと言われてしまったし、紅龍の加護を佐々木さんがもらってくれたら、すっきりする。
だが、今は先に黒龍の様子を確かめてみないことには。
野崎は、仕事が待っているから拠点に戻ると言っている。
「私は、アイテムボックスが出来るかどうかためしてみないとならないしね」
弁慶と佐藤さんは、私に付いて行くと言うので、チームは二手に分かれることとなった。
私と弁慶と佐藤さん、そしてジョバンニは、次の日、白龍の転移で穴蔵に着いた。
薄暗い穴蔵の中で、黒龍がのそりと首をもたげて眺めているのが感じられた。
《人の子よ。加護は身に馴染んだか?》
「よく分かりません。でも、加護のお陰で、お約束を果たせましたよ。他の龍たちは自由になりました」
大きな体がブルリと震え、くぐもった笑い声が聞こえる。
《ああ、白龍の念話で知っておる。ようやってくれた。感謝する。その人の子らにも褒美を取らそう》
すぐに黒龍から暖かな空気がふわりと押し寄せた。
「「……え?」」
弁慶と佐藤さんは、まさかここで褒美をもらえるなどと思っていない。私もそうだ。
律儀な佐藤さんは、慌てて黒龍に正直に話す。
「私は何も役に立っていません。黒龍よ、加護をいただく資格はありません」
《ふぁはっはっ! 正直な人の子よ。一度与えたもうた加護は取り消せぬ。大した力は与えておらぬ。気にせずともよい》
白竜が言ったように、この龍は随分お人好しのようだ。
黒龍の魔法陣は、変化がない気がするけど、封印が解けているのか、どうなのか。
「黒龍さん。自由にはなっていないんですか?」
《そうじゃな。転移はまだ出来ぬようじゃ。どうしたことか……》
私はこてんと首をかしげ、考える。
ここに祠はないはずだ。でも本当にそうだろうか?
黒龍の体が大きすぎて体の下敷きになっているのではないのか?
前回ジョバンニは、黒龍の下に潜ったことがある。その時どうだったか聞いてみると、
「体の下に潜ったとき、何か見えた?」
「小さなおうちが見えたワン」
「黒龍さん! その場から少しだけ浮くか、体をずらすかしてください!」
私の剣幕に押されたのか、黒龍は首を引っ込めた。だが、すぐに言うことを聞いてくれる。
大きく長い体をぶるりと震わせて、少しだけ体を寄せてくれたのだ。
《こ、これで良いか? これ以上は無理じゃ。封印からは出られぬゆえ》
ジョバンニは慣れたもので、真っ直ぐ魔法陣の中央に走って行く。
「弁慶も佐藤さんも一緒に行きましょう。闇の加護をもらえたんです。私の予想では、魔法陣に、入れるはずです」
この魔法陣は大きい。
半径が十五メートルはあるだろう。
黒龍の大きな体を乗り越え、くぐり抜け、ようやくたどり着いたその先に、あの祠があった。
黒龍の大きさから見ると小さく感じられるが、他の祠と同じ大きさだった。
私は道具は使わず、足で蹴りつける。
「も、もなっち……ずいぶんワイルドね……」
「弁慶も、佐藤さんも一緒に蹴って! 闇の加護でもう力が強くなっているはずよ」
この祠は随分と頑丈だった。
それでも、私たちが交互に蹴りつけていると、とうとう亀裂が走り、祠の端がボコッと崩れた。
「なんだか楽しくなってきたな」
背は高いものの、細身の佐藤さんだ。
だが今は、闇の加護によって怪力を得ている。嬉々として足を振り下ろしていた。
弁慶は遠慮がちにではあるが、足で蹴る。だけど、弁慶の蹴りは効果抜群だった。
一蹴りごとに石の祠が崩れていく。
とうとう祠は、原形をとどめないほど粉々になって、後には石の小山が残った。
夢中になって蹴っていた私たちは、ふーっと力を抜き、互いの顔を見合わせ、笑い合う。
次の瞬間――
足元の魔法陣がすーっと溶けるように消えていく。
《ついに……封印が解けたか》
黒龍は、私たちを見下ろし、感謝するようにゆっくりと首を下げる。
そして、私たちを伴って地上へと転移した。
黒龍の封印は、幾重にも重ね掛けされていたようだ。
これを作り上げた人の執念めいたものを感じ、カランの恨みがどれほどだったかを思い知る。
「黒龍さん。魔族を懲らしめに行きますか?」
《それも、白龍より聞き及んでおる……そのままにしておくことはできぬ。其方の気持ちも分かるがな。これは、やらねばならぬ龍の使命だ。すまぬな》
そう言って、黒龍はその場から忽然と消えた。
「え、もなっち。あたいたちはどこにいるの? 拠点には返してもらえないの?」
「困ったね。白龍に思念を送って聞いてみる」
ところが、幾ら白龍に思念を送っても返事が返ってこない。
「佐藤さん。これって……」
「たぶん、カラン族のところへ行ったな。始祖龍の宝玉を取り返しに行ったのだろう」
それだけなら良いけど。カランの人々は抵抗するだろう。
そうなれば龍たちは、力を使って報復するかも知れない。
私が深刻に悩んで、カラン族を救えないかと考えて見るけど、良い案などあるはずがない。
「もなっち。あたいたちは手を尽くした。後は、ここの人々の問題だよ」
「そうだ。まずは拠点がどこにあるか……携帯が通じる場所なら……」
皆で携帯を見るけどアンテナは立っていない。
そんな私たちに、ジョバンニは「こっちだよ」と、スタスタと歩き出した。
「ついて行ってみるしかないな。携帯の電波も立っていないし」
私たちはジョバンニの後を追った。
それから数日――。
ようやく携帯の電波が届く場所へたどり着く。
「白龍の術が効いていなかったら、今ごろ私たちは詰んでたな」
数日間も飲まず食わずで歩き続けることができたのだ。
連絡を取ると、小宮山君が出た。
「みんなで心配していました……本当によかった」
私たちのいる場所は、どうやら拠点から三十キロほど離れているらしい。
だが、地理がまったく分からない私たちは、やはりジョバンニ頼りだった。
それから丸一日歩き続け、何とか拠点に辿り着いたのだった。




