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第一部、完結しました。
今、第二部を執筆中です。第二部も、よろしかったら読んで下さい。
第二部では、違う異世界へリンクします。
ヘパイストスまでいた。ヘスティアも。
神々の最前列には、ゼウスとヘラが並び立つ。
なんという威厳に満ちた姿だろう。
私は思わず、ほうっと感嘆のため息を漏らした。
「榊原君。分かっているとは思うが、これは戦いだ。間違っても情けをかけてはならない」
「はい。分かっています。でも、こんなにも錚々たる神々を一度に見られるなんて……感激です!」
「……君という奴は。まったく救いようがないな。命がかかっているんだぞ」
私たちの前にヘカトンケイルが盾になり、神々と対峙した。
でも、ヘカトンケイル一体では、神々の相手にはならないと思うのだ。
そこへひょこひょことエリマキトカゲが走ってくる。
「まったく。やっと来たか」
野崎は三メートルもあるエリマキトカゲを睨み付けて手招きする。
「こっちだ! 早く来い! 『クラウドサウルス・キンギイ』!」
野崎は、さっきと同じように名前を書き換えた。
次の瞬間、エリマキトカゲの体がみるみる膨れ上がり、巨大なテュポーンへと変貌する。
もっとも、その名には「野崎の僕」という修飾が付いている。
だからだろうか。
あれほど恐ろしいはずの怪物なのに、不思議と恐怖は感じなかった。
二体の怪物が私たちの前へ並び立つ。
その光景に、さすがの神々も騒然となった。
《な、何だ、この生き物は! 人の神が生み出した怪物なのか!?》
蛇の尾にコウモリのような翼を持つテュポーンが、ゆっくりと空へ舞い上がる。
神々を見下ろし、その口から灼熱の火槍を吐き出した。
ヘカトンケイルは大地を揺らして踏み込み、百本の腕を神々へ向けて突き出す。
それに対抗して神々も次々と攻撃を繰り出す。
あたりはもうもうと土煙が舞い小さな人間である私たちには、よく見えなくなってしまった。
だが、音はすさまじく、死闘を繰り広げていることははっきりと伝わった。
ゼウスの雷が方々に突き刺さりポセイドンの三つ叉の鉾が宙を舞ってヘカトンケイルに襲いかかっている。
「榊原君! いい加減、プロメテウスでもガイアでもいいから、加護を請うんだ。このままでは押し返されてしまうぞ。我らの拠点は、再び崩壊する。神々が勝てば、プロメテウスだって、あの力を使えなくなるかもしれないんだぞ!」
「……」
頭の中では、ゼウスに罰を受けるプロメテウスの姿ばかりが思い浮かび、どうしてもその名を呼べずにいた。
あたりを揺るがす轟音が何度も響いた。
雷鳴、咆哮、金属が砕けるような衝撃音。
私たちは身を伏せることしかできない。
それは一瞬の間だった。
激しい開戦の後、突然、あたりは静寂に包まれたのだ。
「な、何があったんでしょう。もう決着が付いたんですか?」
「榊原君……もしや君は、また幻獣に名前をつけていたのか?」
「へ?」
野崎の指さす方を見ると、そこには数体の怪物が立ち塞がっている。
「……あれって。ヒュドラ?」
「ああ、それにゴルゴーン三姉妹に、ラドンまでいる」
その怪物を率いていたのは――プロメテウスだった。
土煙が晴れて、視野が広がった先は――
ヘルメスは石化して動けなくなっているし、ポセイドンはラドンに踏まれて悔しそうにしている。
ゼウスはヒュドラを相手に雷を放ち続けていた。
しかし、他の神々が一斉に跪いたことで、ついに動きを止めるしかなくなった。
ヘパイストスがこちらに歩み寄ってくる。
《人の神モナミよ。我らは話し合い、その結論に至った。其方に名を与えてもらいたい。そして、神々の力が互いに均衡するよう、名を授けてはくれぬか》
私はしばらく考え込み、ゆっくりと首を横に振った。
その瞬間、神々の間から絶望にも似たどよめきが広がる。
だから私は、皆に聞こえるよう、大きな声で宣言した。
「名を与えることができるのは、この世界の神です。プロメテウス。お願い!」
《相分かった》
その後は神々はプロメテウスから名を授かり、一柱一柱と消えていく。
後に残ったのはゼウスのみ。
ゼウスは考え込むように座り込んでいる。
ここで野崎がゼウスに問いかけた。
「アルケディアを統べる王ゼウス。どうかこの小さな空間だけ人の子に分けては下さいませんか? ここには人の子が欲する石があります。私たちはそれだけが望みです」
《石……とな。金か、銀か。それとも宝石か?》
「いえ、これです」
野崎が足元の鉱物を示すと、ゼウスはしばらく黙って眺めていた。
やがて、呆れたように息を吐く。
《人の神……いや、人の子とは、このような石ころを欲するのか?》
「はい。我々にとっては宝です。もしお許し頂けるのなら、代わりにこの布を差し上げましょう」
そう言って私が持ち込んだ白い布を手渡す。
ゼウスの巨大な体には、とても足りないだろうと私はこっそり思った。
だが神は、するすると体を縮め、二メートルほどの大きさになる。
《ヘパイストスが、こっそり隠していた布はこれだな》
ゼウスは布を手に取り、不思議そうに私を見た。
《これをどうするのだ?》
「その……腰に巻いていただけるとうれしいです」
堂々とした姿は実に神々しい。
でも、やっぱり目のやり場に困っていたのだ。
***
ゼウスとの取り決めにより、この近辺一帯は人の子へ分け与えられることになった。
神々の領域から離れた土地だったことも幸いしたのだろう。
この辺りは、サテュロスやニンフが暮らす土地なのだそうだ。
神々は、私が持ち込んだ白い布をたいそう気に入ってくれた。
《このように真っ白な布は見たことがない》
のだそうだ。
神々も布を織るのだろうか。
そういえば、ヘパイストスも神器のスカーフをくれたことがあった。
どうやら神々にとって、布を身にまとうという行為は、恥部を隠すためではないらしい。
きっと、私たち人間とは違う、何か特別な意味があるのだろう。
拠点から見えていた岩山は、神々の戦いで崩れ去っていた。
だが、しばらくすると何事もなかったかのように、ゆっくりと元の姿を取り戻していく。
「本当に回復するのね。この世界って」
愛菜は、目の前で再生していく大地を見つめ、何度見ても感嘆の声を漏らしていた。
拠点には日替わりで神々が訪れ、鉱物資源を置いていく。
そして私たちとしばらく語らい、食事を囲み、酒を酌み交わすと、穏やかな笑みを浮かべてそれぞれの住処へ帰っていく。まさしく、私が思い浮かべて名付けたアルケディアそのものの姿がここにあった。
感慨深く皆を見まわしていると、野崎と目が合った。
「榊原君!」
「……はい、何か?」
「君の左胸、一体どうした。片方だけ大きくなっているぞ!」
「え? そんなことは……」
下を向いて胸を見ると、野崎の言うように、ぽこりと膨らんでいる。
その瞬間、ポケットがはじけ飛び、小さなジョバンニが転げ落ちてきた。
「え、ええーっ! ジョバンニっ!」
第一部 完




