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RG50E  作者: HARIMA
35/48

㉟ザンパ序曲。

ロビーで待つこと、一時間弱。

既に、烈貴達の前順の出場校の演奏は幾つか終えていた。


誘導係員の男性が、チューニング室へ向かうよう告げる。


烈貴達のチューニング室に割り当てられたのは、市立劇場三階にある大会議室。

チューニング室では本番約15分前までに、音出し・基礎合奏で楽器を温め、全体の音をなじませ。

全体のピッチ(音の高さ)を合わせ、曲の出だしや、気になる部分を少しだけ演奏したり等のチューニング=調整を行う。


この部屋へ移動する前に、美葉はトロンボーンのスライド部へグリースを追加した。

しかし………烈貴はしなかった。

トロンボーンは伸縮部をスライドさせることにより音程を変える楽器だ。

演奏中は、ここを頻繁にスライドさせ伸縮する為、潤滑の目的で専用グリースの添付は日頃のメンテナンスで必須となる。


しかし。

スライド部が滑らかに"動き過ぎる”と、最適な音程位置でブレーキが効かなくなる恐れがあり………

その為、烈貴は本番直前でのスライド部へのグリース添付は控えているのだ。

これも、身体に叩き込んだプレイ・スタイルで演奏する烈貴ならではの知恵であった。


約20分のチューニング・タイムも、あっという間に過ぎ。

誘導係員が、ステージ舞台袖へ向かうよう告げて来た。


部屋を出る直前、皆へ渡辺がコールする。


「オシ、みんな!

ザンパはメチャ明るくてパワフルな曲だ!

思い切り観客を盛り上げてやろう!!

行くぞッ!!」


一斉に立ち上がる。


ステージのある、大ホールの入口は二階だ。

三階の会議室から楽器と譜面台を持って出た一向は、転ばぬ様、慎重に階段を降りて行く。


薄暗い舞台袖へと到着すると、未だ終わらない前順の学校の演奏音がステージ方向から押し寄せて来る。

「隣りの芝は青く見える」

というが、まさに前順の演奏が非常に上手く聴こえ。

それが時としてプレッシャーとなる。


烈貴と美葉は黙って見つめ合い、手を握り合った。

互いの手が互いに


(大丈夫だよ!)


と、無言で語り合っていた。


前順の学校の演奏が終わった。

会場の万雷の拍手の後、片付けの音が始まる。

間もなく誘導係員が顔を出し、告げる。


「〇✕高校の皆さん、お待たせしました。

前の学校の退場が完了しましたので、ステージへ入場してください。

配置についたら、指揮者の先生の合図でチューニングを始めてください」


一向は皆、無言のまま立ち上がり。

ステージへと進む。


いよいよだ!


薄暗い舞台袖から解き放たれ、一気に会場の光に包まれる。


眩しい!


いつものメンバー………

いつもの楽器………

そして、いつもの配置であるはずなのに。

全く違う世界に来たかのような錯覚すら感じながら席に着く。

各々が譜面台を広げて立てる。

手間のかかるパーカッションは、急ぎつつも努めて冷静にセッティングする。

本番前の最後のロングトーンで、音出しを確かめる。


全て完了した。


目線の先には。

普段では見ることの無い大勢の観客が、まるで雛壇のような大ホールの観覧席から覆い被さるように迫る。


女性の場内アナウンスが、高らかに響き渡る。


「プログラム五番、県立◯✕高等学校。

指揮は、渡辺義雄先生。

自由曲、フェルディナン・エロルド作曲、ザンパ序曲」


いつものリーゼント頭はオールバックとなり。


艶のある紺のスーツに薄いブルーのシャツ、藍色のネクタイ姿の渡辺が。

観覧席に向かい一礼する。


万雷の拍手を受ける。


部員達へ向き直る渡辺の手にあるのは、いつものスネア・スティックではなく。

純白の指揮棒、タクトだ。


静まり返る。


楽器をスタンバイさせた部員達の視線が、一斉に渡辺のタクトへ向けられる。

これから約7分の間、全てが、この一本のタクトに委ねられるのだ。

張り詰めた、それでいて落ち着いた表情の渡辺が構え…………


振り降ろす!


この瞬間の為に。

悩み………

泣き………

ボヤき………

汗を流し………

励まし合い………

力を重ねて来た部員達のエネルギーが。


この曲、初っ端から全力ダッシュの大合奏をスタートさせた!!



続く


〈ザンパ序曲・完〉

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