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RG50E  作者: HARIMA
36/48

㊱ザンパ序曲2。

ザンパ序曲。

元は19世紀のフランスの作曲家エロルドが、1830年に発表した歌劇「ザンパ」による。


舞台は16世紀のシチリア。

荒々しい海賊の頭領、主人公ザンパと、美しい娘カミラの愛憎のストーリー………………

その序曲は。

この歌劇を象徴すると同時に、観客へ、そのドラマティックな展開を期待させる役割を担っていた。


本来は約9分の長さの曲目だが、吹奏楽部顧問の渡辺は。

部員達のスキルに見合ったテンポと、コンクール規定である7分以下の曲長に合わせた楽譜を用意していた。


"初っ端猛ダッシュ”の金管パート主体のコラールは成功した。

音割れギリギリのフォルテッシモ!


烈貴にしてみれば、この序章は。

まさにバイクを発進させる時のアクセル全開と、素早いシフトアップそのものだった。

トロンボーンだけでなく、トランペット、ホルン、ユーフォニウム、チューバ………金管パートのフルスロットル、フルパワーだ!!

スタートの勢いを得、バイクでいうハーフスロットル・クルーズの期間を木管パートで繋ぎながら、再びアクセルをフルで開けた直後………

烈貴と美葉のトロンボーンに。

ヘアピン・コーナーでフルバンク(バイクを最も傾ける)をかけるような、最もリスキーなシーンが訪れる。


27小節目の………バーストだ!


烈貴は、この部分のタイミングで悩まされた日々があった。

しかし。

美葉という有能なチューナーを得ることにより、この苦手科目の克服にギリギリで間に合った!


この本番の舞台で。

烈貴のトロンボーンは、まさにRG50Eと重なっていた。


コーナーが近づく………マシンの倒し込みのタイミングを数える………外足のステップを踏み込む。


………………ここだッ!!


パァーーーーーン………


パァーーーーーン………


パァーーーーーン………


パァーーーーーン………


烈貴と美葉は。

絶妙なタイミングとバンク角でコーナーを切り抜けた………


…………やった!!


たった二つのトロンボーンの、見事なまでのシンクロは会場に響き渡った。




コース最大の難所を切り抜けた烈貴は、心の中でガッツポーズをする。

だが、"レース”はまだ終わってはいない。


儚くも美しい少女カミラの純愛………それを表すフルート・ピッコロ主体の木管パート・メロディラインが続く。

この区間の練習でフルート・ピッコロの女子部員は、何度も泣いた。

指がついて行けない………

息が続かない………

自分達の力では、どうにもならないとも感じ、絶望しかけていた。

そんな苦境を救ったのが、部長の前田だった。

前田の呼びかけがきっかけとなり、木管パート全体が連帯した。


「あなた達だけには、背負わせない………」


退部した莉奈に替わり、セカンドからファースト・クラリネットに急遽コンバートされた三年生女子部員・吉田が率先してリーダーシップを取り。

連日の練習を木管パート全体でのマッチングを考慮したメニューに切り替えた結果、フルート・ピッコロのみでなく、クラリネット・サックス共モチベーションも上がり、フルート・ピッコロのブレスタイミングにも好影響をもたらすと同時に指の動きにも余裕の生まれる結果となった。


そのようにして万全を期して臨んだ本番ではあったが、やはり、ともすれば緊張で息が震えそうになる。

だが、そうなりかけた時、彼女らは渡辺の振る白いタクトに集中し。

ただただ自分達の培った時間………木管の仲間達の思いやりに胸を熱くしながら、フルート・ピッコロの部員は演奏を続けた。


そのようにして。

木管パート達によるタイト・ロープを渡るようなリスキーでありながら、その美しさに満ちた区間は、終わりを告げ………………

それを喝采するかのように金管パートが加勢した、再びフルスロットル・フルパワーの終盤が訪れた!


総仕上げだ。

ここで気を抜いては、全ての苦労が無駄になる。

特にパーカッションはエンジンの鼓動を奏でる為、有能なオーディエンスには直ちにミスが暴かれてしまう。

烈貴も自身の音が割れぬ様、細心の注意を払いながらファイナル・ラップを目指す。


タクトを振る渡辺の表情も鬼気迫って来る。


ステージ上全員の思いが………………

一つになる!


最終コーナーをクリアし、バック・ストレッチに入った部員達。

ゴールまで、フルスロットルのシフトアップで加速しながらの大合奏が駆け抜ける!!


ダーーーーーンッ…………


ダーーーーーンッ…………


ダーーーーーンッ…………


ダーーーーーンッ…………


ダーーーーーーーーーンッ…………



ダンッ!!



指揮台の渡辺は。

タクトを振り降ろしたまま、しばらく動かなかったが………

観覧席に向き直り、深々と一礼する。

起立する部員達の瞼には、光る物があった。


ほどなくして建屋を揺るがすような、万雷の拍手が会場に溢れ。

しばらく止むことがなかった。


◯✕高等学校吹奏楽部による、「ザンパ序曲」6分25秒の演奏は終わった。




ステージから舞台袖に降りて来た、部員達は…………

楽器と譜面台を握り締めた腕で、涙を拭いた。

フルート・ピッコロの女子部員が、抱き合いながら号泣している。


全て、出し切った。


「お前ら、よく頑張った!!」


額に汗を滲ませた渡辺が、満面の笑みを浮かべながら労いの言葉をかける。

部長の前田も、寄りかかるチューバを撫でながら。

汗まみれの笑顔だ。


烈貴と美葉は………

互いに顔を見合わせながら、微笑んでいる。


「………やったね!」


「………ハイ……やりましたね!」


まるで男同士の友人のように、ガッシリと手を組み合わせる。



午前11時35分。

結果発表までは、四時間程あった。



続く


〈ザンパ序曲2・完〉


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