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RG50E  作者: HARIMA
34/47

㊸コンクール当日。

7月も終わろうとしている夏休みの朝は、いつも同じだ。


既に空は一面に青く、小鳥のさえずりと、早起きの蝉の声が聴こえて来る。


学校の駐車場に到着した大型観光バスの格納室に、楽器や譜面台を部員達は手際良く積み込む。


座席、運転手の真後ろに顧問教師の渡辺が座る。


後は部員達がランダムに乗り込むのだが、烈貴と美葉はバス車両後方の二人座席を選んだ。



部内でも二人の仲は、もはや公認だった。

あの莉奈の暴行から身を呈して美葉を庇った烈貴と、甲斐甲斐しく寄り添い続ける美葉の姿は。

部員達の胸を熱くした。


「この二人を温かく見守ろう」


それが吹奏楽部員達の意思統一の一環とも成り得ていた。


会場へと向かうバスの中、烈貴と美葉は寄り添いながら手を握り。

二人、車窓を流れる景色を眺めていた。

普段と違う風景が、コンクール本番を迎えていることを伝えていた。


烈貴の胸の内には。

これまで続けてきた、トロンボーンの経路………関わって来た人々の顔が浮かんでいた。


(必ず、今までで最高のパフォーマンスをしてみせる!)


そして烈貴には。

このコンクールを、自分に思いを寄せる余り退部となってしまった莉奈への、せめてもの報いとしたい…………

そんな気持ちも生まれていた。


(先輩、決して無駄にはしません!)


ふと、烈貴を握る美葉の手が強くなる。

それを烈貴も強く握り返していた。



約一時間のドライブで。

朝9:00少し前にバスはコンクール会場であるN市、市立劇場へ到着した。

既に先着の他校のバスが、入口前のロータリーに連なっている。

降りてくる生徒達は皆同じ、夏服のカッターシャツ・ブラウス姿ではあるが、女子生徒のスカートのデザインとリボン・ネクタイのデザインの違いや有無等で判別は出来る。

そして……バスのフロント・ウィンドウに掲げられた校名だ。

B部門での県代表常連校の名前も見えた。


ようやく◯✕高校の入口順番が周り、バスの出入り口ドアが開き。

一同が速やかに降り立ち、開いた格納室から楽器その他を降ろし終えた後。

烈貴は両手で自分の頬をパンッ!パンッ!と張った。


「オシッ!!」


気合を入れた烈貴を見て、頼もしそうに美葉は微笑む。


各出場校の演奏は午前の部10:00〜と、昼休みを挟んで午後の部13:30〜の二つのグループに分かれる。

烈貴達の◯✕高校の演奏順は、午前の部の五番目となった。

一校あたりステージ入りから演奏、撤収までの時間を約15分と考えると、◯✕高校の出番は、11時過ぎくらいと言える。


市立劇場内に入り、ロビー内の指定された場所で係員の指示が出るまで待機する◯✕高校吹奏楽部員達。

バスに乗り込んでいる時は無口だった皆も、まずは現地到着という"第一関門”をクリアした安堵感から少しリラックスした表情を見せ合う。


「なんかさあ、去年と同じ場所とシチュエーションなのに。

相変わらず緊張するよね」


そう言いながら互いに笑顔を見せ合うことで、肩の力を抜くのである。


「ここで緊張しない奴なんか、居ないって。

みんな一緒だ」


部長の前田が笑う。


周囲で固まり合う他校の生徒達も、同様の様子に見られた。


変わった表現になるが。

同じ部活の大会でも、吹奏楽コンクールでの評価基準はスポーツで言う球技や格闘技のような"対戦型”ではない。

しかしながら、団体でありながらスポーツでいう"個人種目”に近い評価基準であり精神作用となる。

強いてあげれば、シンクロナイズドスイミング等に近いとも言えそうだが、他校=敵・ライバルといった目で見ながら対抗心や闘争心を燃やす………などと言う声を生徒達から聞くことは滅多に無い。


しかし、昨年までの烈貴は違っていた。

金賞を取り、尚且つ"上”のコンクールへの限られた切符を勝ち取る為に


「コイツらには負けんゾ!!」


と、会場の他校連中を目の当たりにし、闘志を燃やしていた。

父親譲りの負けじ魂が、そうさせていたのだった。




烈貴が生まれて初めて金管楽器に触れたのは、小学校5年の時であった。

その小学校では金管クラブというマーチング・バンドが有り。

五、六年生の児童が男女問わず任意で入れていた。

当時、音楽という科目を苦手とする男子の多い中で、烈貴は5段階評価の5を毎回通信簿にマークし。

心無い女子に


「男のくせに」


とヒガミにも似た、セクハラを受ける程であった。

そんな烈貴が金管クラブへ入るのも躊躇など無かった。


発表の場は地元市内のフェスティバルでの行進、そして県央地区の小学校マーチング・バンドが一同に会する年一回のイベント「県央フェスティバル」での室内演奏披露及び屋外でのマーチングとドリル演奏披露であった。

当初


「どうせやるなら、デカいのをやりたい」


と希望していた烈貴であったが、スーザフォン(チューバの役目をする担ぎ型の低音楽器)やユーフォニウムの人員が足りてしまっており。

たまたま楽器の空いていたトロンボーンのパートへ回されたのであった。


マーチングバンドは御存知のように歩きながら隊列を組み演奏を続ける、ある意味通常の室内合奏とは違った演奏技術を要する。

その最たるものが

"譜面を必要としない正確な演奏”

である。

屋外を行進しながらの演奏に譜面台は使えず、演奏曲目の指の位置・ブレスなど楽器操作は全て暗記し頭と身体に叩き込まなくてはならない。


更には、一曲目を演奏し終えるごとに楽器を抱えながら"美しい姿勢”で行進しなくてはならない。

その楽器も、例え体格の小さな小学生であれ、大人の使うそれと同じ"本モノ”となる。

とりわけトロンボーンは金管楽器の中でも最も長さがある。

それを小学生が華麗に振り回して小脇に収め抱えながら行進し、また演奏開始時には再び華麗に振り回してスタンバイする…………

そのようなマーチング・バンドで覚えた技術が、烈貴のトロンボーン演奏の基盤となっていた。


ただし、この技術の"副作用”をも烈貴は少なからず受けていた。


譜面を即座に理解し読めないのだ。


中学・高校と進んだ吹奏楽部=室内合奏では当然ながら譜面を正確に読み取り辿ることで演奏を成就させる。

しかしながら一度メロディと楽器位置を頭に叩き込んで、あたかもプログラミングされたロボットのように"自動演奏”する演り方が抜けきれない烈貴は、ザンパ序曲のような特にタイミング重視の曲目で修正事項の発生した場合には苦戦を強いられた。


中学時代はトロンボーン・パートも通年男子三名で誤魔化しも効き、高校一年時もトロンボーン・パートも二名となったものの三年生女子の先輩にメロディラインを教えて貰いつつカバー出来たのだが。

二年生、いざ自身と美葉の先輩・後輩一人ずつとなった時にザンパ序曲を演ることとなり、その"副作用”が露呈することとなったのである。


当初、何も知らなかった美葉は。

烈貴のタイミングのなかなか合わないのは単に演奏 IQ の問題と見ていたのだったが。

後に理由を知り、合点が行くと同時に

"譜面も読めずに、よくこれまで演奏出来ていた”

と、烈貴に対し驚嘆さえしたのであった。


しかし美葉も、そのままで良いとも思わなかった。

譜面の読めない烈貴でも解るように、譜面上の該当箇所にタイミングの合わせ方を簡潔・明確に赤ペンで記し、自身で繰り返し吹いて見せることによって烈貴に"暗記”させた。

以前、記した美葉の"愛情溢れる指導”とは、このことであった。

これは厳密には、烈貴の演奏技術向上には必ずしも為にならないかも知れない………

しかし。

あと二年を切る烈貴の在校年数を考えれば、優先すべきことは何か?賢い美葉には直ちに答えを導き出せたのである。



烈貴が。

それまでの他校への対抗意識や、賞に拘らず、あくまで演奏そのものをコンクール本番の舞台で謳歌することに重きを得るきっかけとなったのも。

ひとえに美葉の存在であり、愛であったのだ。


「今日は、思い切り楽しもうね」


ロビーの椅子に座りながら、美葉に笑顔を向ける烈貴は。

もはや昨年までの烈貴ではなかった。


「ハイ!」


笑顔を返しながら、手を握って来る美葉も…………心は一つであった。



続く


〈コンクール当日・完〉

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