95.エリスとの出会い②
干し肉だけでは、腹も一杯にはなっておらぬだろう。
そう考えた俺は提示された金額を渡し部屋を取った後、店主の男に食事もできるのかと訊ねる。
空いている席に適当に座ってくれと言われ、俺は隅っこの方に一つだけ空いている場所を見つける。
エリスと共にその席に着くと、すぐに先ほどの店主が注文を取りにやってきた。
席に置いてある品書きを見てもよくわからないので、俺は店主に対し「この宿で一番よく出るものを二つ頼む」と言って適当に二人分の注文をした。
「酒の方は飲まんのか?」
店主にそう問われたが。エリスと真面に会話できなくなっては困ると考え、異世界の酒に少し興味はあったものの注文は控える事にした。
それにしても、食事処だというのに鬼の生首を持ち込んでも平気なのだろうか。
一応、気を遣って首は敷物の上に置いたが。店主は一瞬だけそれに目線をやっただけで、特に咎めるような事はなかった。
まぁ、ここに居る連中は皆、風体からして冒険者らしき者たちばかりである。討伐対象を倒した証拠を持ち歩いているのだから、店にとって生首くらいそう珍しい物でもないのだろう。
食事がくるまでの間、少しエリスと話をして事情を聞き出そうと思っていたが。先ほど俺に対して声をかけてきた男が、椅子を持ってこちらにやってくるなり自然な感じで相席をしてきた。
「おう! オーガ殺しの兄ちゃん! 一人で殺ったってのは本当の話なのか? そっちの娘は、とても戦えるような感じには見えないが。実はスゲー魔法でも使えるとかいう話だったりしてな」
「一人で倒したというのは本当でござる。こっちの娘はその際に保護した娘で、これから詳しい事情を訊ねるところでござるよ」
厳つい男の大きな声に、エリスは怯えた様子で縮こまっている。
俺の説明にも納得したのか。男は、彼女の様子を一応察してくれたようだ。
「そうか。邪魔して悪かったな。俺は、冒険者をやっているマックスってもんだ。変わった格好はしているけど、兄ちゃんも冒険者なんだろ? もしよかったら、今度ゆっくり仕事の話でもしようぜ」
これはパーティーのお誘いというやつなのだろうか。やはり大鬼を一人で倒すという事は、相当に目立つ行いだったらしい。
「拙者、片倉慎十郎と申す。冒険者となったばかりで不慣れ故、機会があれば何かとご教示願えると有難い」
俺の返事を聞いたマックスという男は「シンジュウロウか。覚えたぜ!」と言って、別れの挨拶をしたあと仲間たちの元へ戻っていく。
ようやく落ち着いたところで、俺はエリスに対し話を切り出した。
「それでエリスよ。お前の家族は、どうしたというのだ?」
何となく察してはいたが、よほどの事があったのだろう。エリスは、俺の問いに対し俯くばかりで答えようとしない。
こんな騒がしい所では、余計に話しづらいと感じてしまうのも当然だ。食事を終えて腹も満たされれば、少しは話す気になってくれるかもしれない。
そう考えた俺はここで事情を訊くのを諦め、部屋に入ってから改める事にした。
程なくして、店の主が二人分の料理を運んでくる。
恐らく主人は物を知らない様子の俺に気を遣い、よい具合に考えてくれたのだろう。それは一枚の皿に骨付きの肉と野菜、穀物を炒めた物が乗せられた、丼物に似た感じのものであった。
「どうした? 食べぬのか?」
やはり躊躇う様子のエリスに、俺はそう声をかける。
「これなど、なかなか旨いぞ。エリスも早う食うてみい」
ひょっとしたら気を遣っているのかもしれないと考えた俺は、率先して骨付き肉にかじりつく。
「いいの?」
「ああ、遠慮などするでない」
俺の言葉を聞いたエリスは突き匙を手に取り、それで穀物を炒めた料理を掬うように取ってから口に運ぶ。
一度食べ始めたら、止まらなってしまったのだろう。彼女は涙を流しながら、夢中で料理を次々と口に運んでいった。




