9.初めての戦闘訓練①
今回の決定に対し、不安を抱える者も半数以上いたが。その意見を纏める、リーダーシップを持った者は他にはおらず。一部の強者によって、強引に全体の意思として決定がなされる形となっていた。
その他大勢からしてみれば、やると決まってしまったからには、やるしかないと言ったところである。
確かに弱者グループに入ってしまった者としては、帝国の庇護下から放り出されて生きていける保証などない。
そうなると必然的に強者の決定に従って、共に闇の帝王の討伐を目指すしか道はないのだ。
会合の後、天近が召喚者の代表として僕たちの意志を大臣に対し伝えにいく。
後から聞いた話だけど、僕たちが腹を決めた事に大臣は大喜びで、すぐに皇帝のところへ報告に向かったそうだ。
帝国側からしてみれば当然、拒否する事など許すつもりはなかっただろうが。その気がない者を説得する手間を考えれば、僕たちが素直に応じたのは僥倖だったに違いない。
という事で僕たちは、翌日から初めての戦闘訓練を開始する運びとなったのだが。一人、常人並みの戦闘力しか持たない僕は、一旦クラスメイトたちから離されて訓練を受けるという話になってしまった。
他にも非戦闘系の者は一人だけ居たが、軍略家という天職だったため僕とは更に別メニューだ。
戦闘系の召喚者は、能力が似通った者同士で模擬戦から始める事となる。ある程度レベルが上がってきたら、実際にフィールドに出て魔物などを相手にする予定となっているらしい。
僕以外にもう一人、別メニューとなった者は、熊谷悟という奴だ。
クラスで一番勉強ができる奴なので、天職とその人間の適正は一応リンクしているのかもしれない。
非戦闘系であるにも拘わらず、戦闘力はそこそこ有る。少なくとも僕よりはマシだ。それでも彼だけ、最初のうちは戦闘訓練から始めるわけではないようである。
一方の僕はというと、宮廷騎士団に交じって戦闘訓練をおこなう事になった。
宮廷騎士団の訓練といえば、例の超絶美人エルフが教官を務めるわけである。
一人、別メニューになった僕を揶揄する者もあったが、殆んどの男子からは寧ろ本気で羨ましいとさえ言われた。
そんな羨ましい、と思われるような事には絶対にならないだろう。戦闘力が低いからといって、美人教官が優しく教えてくれるなんて都合のよい話があるはずもない。
常人並みの能力しかないのだから、寧ろ本物の騎士たちに交じって戦闘訓練を受けるなんて地獄以外のなにものでもない。
冷静に考えれば、こんな簡単な理屈はわかるはずなんだけど。チート能力を持っている連中からしたら、所詮は他人事でしかないのだから気楽なもんだ。
一抹の不安を抱えつつも、いよいよ初の戦闘訓練を開始する日を迎えた僕は、朝食を取ってすぐ担当者の案内で指定された場所へと向かう。オリエンテーションで案内された宮廷騎士団の訓練場は、天近たち戦闘系組が使用するようだ。
少し狭めの、城壁に囲まれたスペースで待っていたのは、エリス教官と如何にも柄の悪そうな数人の騎士たちだった。
最初に会った時とは打って変わって、冷たい視線を向けてくる超絶美人エルフの教官。それとは対照的に柄の悪そうな騎士たちは、こちらに対し下卑た笑みを向けている。
その表情から、明らかに「これからどう料理してくれよう」といった雰囲気が窺えた。
とはいえ、まさか初日からいきなり乱暴な扱いを受けるような事にはなるまい。
そう思っていた僕だったが、その予想は教官が発した最初の言葉で見事に打ち砕かれた。
「スズカゼカケル! お前には今から、ここにいる騎士たちと模擬戦をやってもらう! 安心しろ! 使用する武器は、ちゃんと訓練用のものだからな。槍、斧、木槌、剣、刀の五つから、自分が得意そうだと思う物を選べ」
いきなりそんな耳を疑うような事を言われ、茫然とする僕だったが。最初に相手をすると思われる騎士は、有無を言わさず木製の長剣をこちらに向かって投げつけてきた。
両手でそれを抱えるように受けた僕に対し、その柄の悪そうな騎士は下卑た笑みを浮かべながら言う。
「得意そうな武器って言ったって、素人が何使っても一緒だろ? さっさと構えろ! ボコボコにしてやる!」
そう宣言するなり、騎士は開始の合図すら待たずに、茫然とする僕に向かって突進してくる。
困惑して固まっていた僕に対し、攻撃の間合いに入った騎士は持っていた長剣を容赦なく振りかざすのだった。




