10.初めての戦闘訓練②
こちらが素人だと思って、不用意に相手の間合いに入ってくるなんて舐めすぎにも程がある。
柄の悪い騎士が長剣を振りかざした瞬間、かつてテンプル騎士団の団長を務めていた頃の記憶が突然、僕の中に甦ってきた。
自然と体が反応し、必要最小限の体さばきだけで騎士の打ち下ろしを躱した僕は、隙だらけとなった相手の肩口を容赦なく打ちすえる。革製とはいえ、接合部以外はプレート状のパーツでしっかり守られた鎧を互いに着用しているため、扱うのが木製の剣であれば遠慮する必要など全くないだろう。
「ぐわぁっ!」と短い呻き声をあげた騎士は、思いがけない衝撃に一瞬だけ片膝をつく。俯くその表情に、怒りが満ち溢れているのは容易に想像できた。
すぐに立ち上がった騎士は、怒りの形相をこちらに向け再び攻撃を開始する。
逆上した相手の動きは雑ではあったものの、その攻撃は苛烈を極めた。
素人相手に当たらないはずがない。と言わんばかりに、袈裟懸け、刺突、横薙ぎ、また袈裟懸け、と早い攻撃を連続で繰り返す。先ほどのようなカウンターを警戒してか、単調ではあるものの、なかなか隙を見せない攻撃だ。
実際の戦場なんて、もっと泥臭いものだ。それでも逆上した騎士の攻撃は、本物の戦場での戦い方に近いものがあった。
かつての僕なら、こんな時どうしていただろうか。その答えについては当然、瞬間的に出してはいたのだが。如何せん、今の肉体ではパワーが足りない。
こんなことならソシャゲばかりやってないで、少しでも体を鍛えておけば良かった。
どういう基準で決着となるのかわからない以上、試合を終わらせるには有効打を当て続けて勝ちを印象付けるしかない。
そう思った僕は相手の隙を窺いながら、なるべく息があがらないよう必要最低限の動きで攻撃を躱し続ける。
焦れてきた騎士は、ついに大きな溜めをつくり突きを繰り出すモーションに入った。
その突きを冷静に見極めた僕は、剣の腹でそれを叩き落とすと、逆に相手の喉元に剣を突きつけてやった。
動きを止め、冷や汗を流す相手騎士。周りのギャラリーからは、不甲斐ない騎士に対してヤジが飛び交っていた。
真剣なら勝負あり、といったところだったが。何故かエリス教官は、試合終了の合図をかける事はなかった。
「小僧のくせに舐めやがって!」
完全に頭に血がのぼった相手騎士は、そう叫ぶなり僕が突きつけた剣を打ち払い、再び猛ラッシュを仕掛けてくる。
バランスを崩してしまった僕は、それを躱す事ができずに、騎士の重い攻撃を剣で受け続ける状態になってしまった。
こうなってしまっては、リカバリーするのは非常に難しい状況だ。
次第に痺れ始める手。それでも相手の攻撃は、容赦なく繰り返される。
僕は、しばらくの間なんとかその状況に耐えていたが、とうとう腕に力が入らなくなり剣を弾き飛ばされてしまう。
この状況であっても尚、エリス教官は終了の合図をだす事はなかった。
先ほどまでの怒りの表情とは打って変わり、合図がかからない事に下卑た笑みを浮かべる騎士。次の瞬間、僕の鳩尾に強烈な衝撃が襲いかかった。
相手の前蹴りをもろに食らった僕は、苦しみのあまりその場に崩れ落ちる。騎士の繰り出した蹴りは、レザーメイルの上からでもなり効果的な一撃だった。
踞る僕に対し、騎士は容赦なく木製の長剣を打ち下ろし続ける。完全にタコ殴り状態だ。
僕は、必死にそれを両腕でガードし頭部を守る事に集中する。
木製とはいえ、このまま受け続ければ命に関わる事にもなりかねない。
こうなったら左腕の封印を解くしかないのか……て、そんな冗談を言っている場合ではない。
一向に終了の合図がかからない事に危機感を覚えた僕は、この状況を打開せんと必死で次の行動を考えた。
危機的な状況に陥った事が幸いしたのだろうか。再び僕の中に、古代における戦場での記憶が甦る。
このままやられっぱなしでいても、一向に教官が止める気配はない。それならば、何とかして勝利を掴み取るまでだ。
野獣のように覚醒した僕は、騎士の両足に向かって猛然とタックルをかます。
さすがは鍛え上げられた騎士だけあって、足腰が強い。簡単には倒れないと判断し、すぐに右足に全身を巻き付かせて全体重を相手にのしかからせた。
転倒した相手の右腕を素早く取った僕は、そのまま両足を巻き付かせ関節をきめる。
「ぎゃあっ!」
相手騎士の悲鳴が訓練場に響き渡る。
「そこまで!」
僕の鬼気迫る様子に、このままでは本気で腕を折る気だと判断したのだろう。ようやくエリス教官は、試合終了の合図をかける。
僕は、相手騎士の体から離れ、すくっと立ち上がった。
状態だけ起こした騎士は、右腕を押さえながら僕の事を睨み付ける。
思わぬ結果となり、観戦していた他の騎士たちからは大きなざわめきが起こっていた。




