11.初めての戦闘訓練③
『カケルちゃん、なかなかやるじゃない』
無我夢中で勝利を掴み取り茫然と立ち尽くす僕に、アムがそう話しかけてくる。
勝ったとはいえ相当なダメージを受けてしまい、気力も体力も既に限界だ。
疲れきっていた僕は、アムの言葉に反応する気力さえ起こらなかった。
周囲を見渡すと、観戦していた他の騎士たちは騒然としている。エリス教官は、何故か悲しげな表情でこちらを見つめていた。
今日は初日の訓練だ。まさか、この後も試合を続けるなんて、そんな鬼のような展開にはならないだろう。
そう思っていた僕だったが、次にエリス教官が放った一言でその期待は脆くも崩れ去る。
「次! ヨハンセン、いけ!」
冗談だろ! 常人並みの戦闘力しか持たない普通の高校生が、本物の騎士を相手に一勝をあげたんだ。初日なんだから、それだけで十分じゃないか。
そうは思いつつも、音を上げて懇願したところで今日の訓練を終わりにしてはもらえそうもない。
覚悟を決めた僕は、弾き飛ばされていた木剣を拾い上げると、ヨハンセンと呼ばれた騎士に向かって剣を構える。
「なかなか良い根性だな! その闘志に満ちた目、気に入ったぞ!」
如何にも熟練の兵士然とした初老の騎士は、なんとなく僕の内に秘めた経験値を見破っているかのようだった。
先ほど対戦した柄の悪い騎士とは違い、闇雲に向かってくる事はせず。剣を上段に構えたまま、ジリジリと間合いを詰める動きをみせている。
『体力と受けたダメージを、ある程度は回復させておいてあげたわ。さっきの調子で今度も頑張って!』
なるほど。どうりで少し、体が軽くなったような気がしたわけだ。そうでもなければ仕方がなかったとはいえ、目の前の老練な騎士に対し戦いを挑む気力など起きてはいなかっただろう。
『ありがとう、アム』
僕は、アムに短く礼を言って目の前の相手に集中する。
『普通は、こんな事できないはずなのよ。融合の度合いが浅かったせいで、逆に私個人としての干渉が可能になったみたい』
なんだか良くわからないけど、今は理由なんてどうでもいい。とにかく少しでも回復できているなら、後は全力で目の前の敵に向かっていくだけだ。
とはいえ、今回の相手は過去の戦闘経験を駆使したところで、一筋縄ではいかない相手のようにも感じられた。
ある程度の回復を受けたといっても、万全な状態とは言いきれない。そのうえ初老の騎士であっても、日頃から鍛えている相手に体力で敵うはずもない。何よりも、今回の相手は相当な実力者だ。なるべく時間をかけずに勝負を決めるためには、できれば得意な武器を選びたいところだったが。
迂闊だった。こんな事なら長剣を拾い上げる前に、武器のチェンジを申し出るべきだった。
かつて侍だった頃の記憶が、そう後悔の念を抱かせる。
戦う事を生業にした前世で、最も記憶に新しいのが幕末を生きた侍であり。侍といえば当然、刀である。
何故か用意されていた木製の刀は、ただの片刃の剣ではなく。少し尺は長いが、どう見ても日本刀のように見える物だった。
「スズカゼカケル! これを使え!」
心を読んだとでも言うのだろうか。何故かエリス教官は、まるで気持ちが伝わったかのように、僕に向かって木製の刀を投げ入れてきた。
僕は、長剣を即座に投げ捨て、それを片手でキャッチする。
その隙を逃すまいと、老練の騎士は猛然と襲いかかってきた。
敢えて隙を作ってみせた僕は、感覚だけで攻撃の軌道を読むと、軽快な体さばきで袈裟懸けの一撃を躱しカウンターを狙う。しかし、相手もそれを最初から警戒していたようで、初撃が失敗するとすぐに僕から距離を取った。
さすがは老練の騎士といったところか。こちらが隙を見せない限り、不用意に攻撃を仕掛けるような真似はしてこない。初戦の勝利が、まぐれでない事を完全に理解しているようだ。
こんな実力者をいきなり初日の訓練で対戦相手に選ぶなんて、ハイエルフの美人教官は頭がどうかしている。
そうは思いつつも僕は扱いなれた刀を手に、侍だった頃の感覚を必死で研ぎ澄まそうと、再び目の前の相手に意識を集中させるのだった。




