12.副作用
互いに対峙したまま動きを見せない様子に、観戦していた騎士たちも完全に静まり返っていた。
いや、相手に集中しすぎていたせいで、周囲の雑音が聞こえていなかっただけなのかもしれない。
とにかく今の僕が、この相手に勝利を掴み取るためには、まともに打ち合いをしては駄目だ。それをやるには、体力も、技を繰り出す筋力も圧倒的に足りていない。
相手が攻撃を仕掛けてきたところで、カウンターを狙う。これが今の僕にできる、最善の策と言えるだろう。
しかし、老練の騎士もこちらの意図を読み取っているのか、なかなか自分の方から動こうとはしない。騎士という兵科であるにも拘わらず、まるで侍のように一撃必殺を狙おうと感覚を研ぎ澄ませている様子だ。
本来、接近戦における侍の戦い方としては、如何に相手よりも早く切り伏せる事ができるかである。
しかし重ねて言うが、今の僕には相手よりも早く打ち込むほどの筋力はない。
相手のモーションを読んで、攻撃を躱す事はできる。だがしかし、こちらから素早い攻撃ができない以上、カウンターを狙っていくより他ない。
あまりにも長い沈黙に業を煮やした、というわけではないのだろうが。ヨハンセンは、一瞬だけ笑いを浮かべるとついに動きだした。
こちらが隙を見せない事で、その攻撃は先程までの捨て身に近い感じとは程遠く、しっかりと自身の体勢を維持するものだった。
攻防一体。頭上で八の字を描くように剣を振るいながら、素早い攻撃を仕掛けてくる老練の騎士。
彼の重たい一撃を剣で受けたとしても、力負けするのはわかりきっている事だ。
そう判断した僕は、足運びだけで相手の攻撃を躱しながらジリジリと後退していく。
しかし、このまま後退し続ければ、いずれは壁際まで追い詰められてしまう。何処かで体勢を入れ替えなければ、最初の試合と同じ状況に追いやられるだけだ。
とはいえ、タックルをかまして寝技に持ち込む、なんて奇襲作戦が二度も通じるとは思えないが。
壁際に追い詰められる寸前で、なんとか相手の側方に体勢を入れ替えた僕は、すぐさま払い上げるような一撃を繰り出す。
意表を突く攻撃に、紙一重で仰け反るように躱す騎士だったが。当然これはフェイントである。
僕は、体勢を崩した相手に対し、即座に袈裟懸けの一撃をお見舞いした。
攻守が入れ替わった事で、このまま優位に立とうと考えた僕は、連続で上段から剣を打ち込み続ける。
一度バランスを崩した状態になった事で、老練の騎士は後退しながら防戦一方となった。
とはいえ、彼が体勢を立て直すのは時間の問題である。そうなれば、すぐに攻撃を弾き返されてしまうのは必定だ。
そう考えた僕は、咄嗟にがら空きとなった相手の腹部めがけて猛チャージを仕掛ける。
剣の柄で背中を攻撃されるのは覚悟のうえだった。
しかし、攻勢に転じていた相手から急に捨て身のタックルを受けたのは、彼にとっても予想外だったのだろう。同時に足を引っかけていた事もあり、完全にバランスを崩した騎士は、これといった反撃をする事もなくあっさりと転倒した。
そのまま老練の騎士に対して馬乗りになった僕は、剣の中腹部を両手で握り彼の首元に刃を突きつける。
「やるな小僧……儂の負けだ」
初戦で対戦した柄の悪い騎士とは違い、あっさりと負けを認めるヨハンセン。
今回は相手が降参を宣言した事で、エリス教官もすぐに試合終了の合図をかけた。
終了の合図を受け立ち上がった僕は、ヨハンセンから離れようと後退りするが。数歩さがった所で急に目の前が真っ暗になる。
次に僕が意識を取り戻した時には、医務室と思われる部屋のベッドの上であった。
『やっと気がついたみたいね。ごめんカケルちゃん……外部から干渉できるって言ったけど、どうやらそれも不完全だったみたい』
意識を取り戻した僕の頭の中に、そうアムの声が響く。
『不完全? それってどういう意味だ?』
『ダメージの回復は、ある程度できるみたいなんだけど。体力に関しては、一時的でしかなかったみたいね。却って後から、大きな反動がきてしまうみたい』
なるほど。それで急に、意識を失ってしまったわけか。そうなるとアムに回復してもらうにしても、余程の緊急時に限定した方が良さそうだ。
いずれにしてもアムの回復がなければ、ヨハンセンに勝つ事はできなかったのだから、彼女には感謝しなければなるまい。
『まぁ、その辺は私もちゃんと考えてするから安心して』
こちらの考えが、また聞こえていたのだろう。アムは、続けてそう語りかけてきた。




