13.一躍ヒーローになる
僕が意識を取り戻してからしばらくして、宮殿に仕える召し使いの女性が様子を窺いにやってくる。
既にベッドから起き上がり、元気そうにしている僕の様子を確認した彼女は、すぐに担当者を呼ぶために部屋を出ていった。
連絡を受け駆けつけてきた男はロイスといって、僕を担当するマネージャーのような存在だ。
戦闘系のクラスメイトたちは、個別に担当者が付いているわけではないので、少しだけ特別な扱いを受けた気分である。
最弱の召喚者を担当する事になって、不満に思っていたのか。担当者として紹介されたロイスは、僕に対し事務的で無愛想な態度を示していたが。この場にやってきた彼は、何故か急に態度を一変させていた。
「スズカゼ様! 意識が戻られたようで本当によかったです。もう動かれても大丈夫なのですか?」
大袈裟に心配する様子を見せながら、そう言うロイスに対して僕は苦笑いしながら答える。
「ええ。少しだけ身体中が痛みますが、ただの筋肉痛だと思うので動くぶんには大丈夫みたいです」
「そうですか……大事に至らず本当に安心しました」
ずいぶんと仰々しい言い方だが。僕に何かあった場合、やはり彼も責任を取らされてしまうのだろうか。
それにしても、どれくらい意識を失っていたのだろう。ものすごく腹が減った。
普段あまり運動すらしない僕が、本物の騎士二人を相手にガチで戦ったのである。珍しく激しい運動をしてしまった後なのだから、腹が減るのも当然だ。
そんな僕の願いが通じたのか、ロイスは夕食の準備がもう少しで整う事を告げる。昨日と同様、宴会場に皆で集まって食事を取るようだ。
彼が、もう動いても大丈夫なのか、と聞いてきたのはそういう事か。
とにかく腹が減っていた僕は、ロイスの案内で食事会場へと向かう事にした。
会場は昨日と同じ場所だったが、そこには既に他のクラスメイトたち全員が集まっていた。
まだ他の連中も来たばかりのようで、席に着いている者も少なかったが。少し遅れて会場に入った僕に、何故かクラスメイトたちの視線が集中する。
普段あまり注目される事のない僕としては、とても不思議な気分だ。
「涼風くん! 初日の訓練で、いきなり宮廷騎士団の団長さんと試合して勝ったんですってね? 凄いじゃないの、見直しちゃったわ」
僕の方に笑顔でやってきた清川さんが、そう声をかけてきた。いつもなら、そんな状況でも無視を決め込む天近たちでさえ、僕の周りに集まってくる。
相手が、宮廷騎士団の団長だったなんて初耳だ。恐らく実力と年齢からして、あのヨハンセンという騎士がそうだったのだろう。
「相手は、強化魔法ってやつを使ってなかったみたいだが。それでも勝つなんて、なかなかやるじゃないか。一体どうやって、熟練の騎士たちを相手に勝つ事ができたんだ?」
珍しく天近の奴も、僕に対してそう質問してくる。
何度も転生を繰り返している経験だ、とは言えない僕は、苦笑いを浮かべながら「多少は武道の経験があったからね」と適当な事を答える。
「涼風に武道の経験があったなんて意外だな。それにしたって、素人が本物の騎士に勝てるとはとても思えないが」
「兎に角、死に物狂いだったからね。たまたま作戦が上手くいっただけだと思うよ」
「なるほど、そういう事か。まぁそれはともかく、涼風みたいな奴でも、それくらいやれるって証明できたわけだ。俺たちにとっても、今後の希望になる話だよな」
なんだか物凄く引っ掛かる言い方ではあるが、思わぬ相手から希望になる、と言われた事はそれなりに嬉しいものだ。
そんな天近とは違って、川口と一部の男子生徒たちは面白くなさそうな様子だ。まるで「モブのくせに、なに目だってんだよ」とでも言いたげな感じである。
その後も、数人の連中から次々と賛辞が送られる。慣れない僕は、この状況に少しだけ居心地の悪さを感じた。




