14.深夜の訪問者①
食事を終えた後、疲れきっていた僕は入浴だけ済ませて自室に引きこもる事にした。
本当は風呂に入るのも億劫だったが、さすがに汗と埃まみれでベッドに入るのはかなり気持ちが悪い。
すぐにでも自室に直行したいという欲求を抑え、会場の外で控えていたロイスに大浴場へと案内してもらう。
中世や近世ヨーロッパに近い雰囲気の世界にも拘らず、入浴の文化があるというのは日本人の僕たちにとって非常に有難い事だ。
基本的に夕食を終えた後は、自由時間として良いという説明を受けていた。そのため一部の連中は、食事を終えるとすぐに夜の街に繰り出していったが。大部分の者は、その時間を使って情報交換の場に当てる事にしたようだ。
昼間の件があったので、珍しく僕にも会合に参加しないかとお声がかかったが。全身の痛みに堪えられず早く休みたかったため、今日のところはお断りしていた。
入浴を終え脱衣所に戻ると、ロイスによって替えの衣服が用意されていた。彼の初日における担当者としての仕事は、ここまで説明してようやく終わりのようである。
「それではまた明日、起床時間にお迎えにあがります」
脱衣所で待っていてくれたロイスは、ホッとした様子でそう言うと軽く会釈をして出ていった。自由時間は業務の対象外だったらしいので、長い間拘束してしまって悪い事をしてしまったようだ。
宮殿の豪華な浴場で疲れを癒した僕は、少しおぼつかない足取りで自室へと向かう。一刻も早くベッドにダイブしたい。それだけしか頭になかった。
どうにかして部屋にたどり着いた僕は、望みどおりすぐにベッドに勢いよく飛び込む。あまりにも疲れきっていたため、殆んど記憶にないくらい一瞬で眠りに就いてしまった。
これは夢なのだろうか。眠りに就いてからしばらくて、僕は真っ白な空間にいる事に気づいた。
目の前には幼女天使の姿をしたアムが、微笑みながら佇んでいる。
「これは夢か?」
「まぁ、そんなところね。ちょっとお話がしたくて、招待した感じ」
二日ぶりに見たアムの姿だったが、改めて思ったのは彼女がとても可愛いという事だ。
僕は、彼女にまた直接会う事ができて、なんだかとても嬉しい気持ちになった。
「会話してても、ちゃんと休養が取れてるなら、話をするくらいは別に構わないけどな」
僕は、本音を隠してそう冷たい感じで返答する。しかし、そんな僕の気持ちはやはり、彼女に見透かされていたようだ。
「なによ! 本当は、また私の姿を見る事ができて嬉しいくせに。まぁ良いわ。それじゃ、ちょっと訊ねたい事があるんだけど話してもいいかしら?」
「ああ、何でも訊ねてくれ」
「たまーに聞こえてくる前世の記憶とか、超越者がどうたらこうたらって一体なんの事なの?」
完全に駄々漏れというわけではないようだが、やはりアムにもその声は聞かれてしまっていたようだ。
一部とはいえ魂が融合している以上、このまま隠し通せるとも思えない。
そう判断した僕は、アムに対し全てを話す事にした。
「俺には、前世の記憶があるんだ。しかも、何十万年分もの記憶がな。あると言っても断片的でしかないんだが。元をただせば、俺は超越者としてこの世に生を受けたんだ。どうして記憶を持ったまま転生を繰り返すようになったのかについては、全く覚えてないんだけどな」
神妙な面持ちでそう語る僕だったが、アムは今にも笑いだしそうな顔で信じられない事を言い放つ。
「ププッ! ふーん、そうなんだー。まぁ、アレね。それくらいの年頃によくある、所謂チュウニ……ってやつ? あっ、カケルちゃんはもう高二だけどね。なかなか、そういう時期から抜け出せない子もいるみたいだけど、カケルちゃんもその口だったみたいね」
僕は、断じて中二病などではない。おぼろ気とはいえ、本当に何十万年分もの、生を受け続けてきた記憶が実際にあるのだ。
アムが放った失礼すぎる言葉に、僕は反論する気も起こらず完全に閉口する。しかし、考えようによっては、彼女がそう思ってくれているなら好都合であるとも言える。
「うん! よーくわかったわ! まぁ、そういうところも含めて、これから温かく見守ってあげないとね! あっ、なんかこんな時間なのに、お客さんが来たみたいね。それじゃ、今日のところはこれで失礼するわね」
アムは、そう勝手に締めくくると、途端に姿を消してしまう。それと同時に真っ白な空間も消失した。
ゆっくりと目を開けると、そこは明かりのついたままの自室であった。
どれくらい眠っていたのだろう。
僕は、もう一度深い眠りに就くために明かりを消そうと上体を起こす。
その直後だった。ドアを叩く音と共に、部屋の外から女性の声が聞こえてきた。




