8.召喚者たちの決意
最初にオリエンテーションの一環として回った先は、これから僕たちが戦闘訓練をおこなう場所となる予定の、宮廷騎士団の訓練場であった。
騎士同士で模擬戦をおこなっている様子を、軽装の美しい女騎士が見守っている。
普段、川口とつるんでいる事の多い戸田月光が、その女騎士の美しさに思わず声を漏らす。
「うへ~。あそこに立っている女、めっちゃ美人だよな~」
確かに戸田の言うとおり、絶世の美女といってもいいくらいの美しい女性である。
透き通るような白い肌。プラチナブロンドの長い髪に碧の瞳。耳が少し尖っている事から、所謂エルフというやつなのだろうか。
清川さんを横に並べたとしても、彼女ですらその容姿が霞んでしまいそうなほど極上の美人だ。
まぁ、僕みたいなモブキャラには一生縁のないタイプの女性だよね。
僕たちがやってきた事で、女騎士が号令をかける。騎士たちは、その声に応じ戦闘訓練を中止して整列を始めた。
クラスメイト全員が女騎士のもとに集合したところで、引率していた大臣によって彼女の紹介がなされる。
「彼女はエリスといって、我が帝国に三百年近く仕えるハイエルフの騎士です。有事の際には将軍として。平時には、このように後進の指導に当たられているお方なのです」
三百年近く仕えていると聞いて、クラスの半数がざわめきだす。
僕のように多少ファンタジー物に馴染みのありそうな連中は、あまり驚いている様子ではなかった。
自意識過剰なのだろうか。何故かエリスと紹介された女騎士は、僕の方を何度も注視しているように感じられた。
目が合った瞬間、互いに慌てて目を逸らすが。やはりその後も、どういうわけかこちらをチラチラと見ているような気がしてならない。
天近みたいなイケてる男子を見ているならまだわかるが、彼の位置は明らかに僕からかなり離れている。僕の周りにいるのは、例によって明らかに冴えない集団の男子ばかりだ。
まぁ、あまり自意識過剰になるのはやめておこう。少なくとも僕に対して興味があって、こちらを見ているわけではないはずだ。
そんな事を考えていたら、先に進めていた大臣の話の内容が殆んど耳に入らなくなってしまい、僕は彼が何を話しているのかを全く理解していない状態になっていた。
『あのハイエルフの女騎士。召喚者でもないのに、かなりの実力者よ。どうやら彼女、カケルちゃんに興味があるみたいね』
天使の口から実力者と言わしめた彼女の能力とは、果たしていか程のものだろうか。
ていうかアムの見立てでも、彼女が僕に対して興味を示している? という事は、こちらを見ているような感じがしていたのも気のせいではないのか。
そう考えると、何だか急にそわそわしてきた。
いや、あらぬ妄想をするのはやめておこう。アムが天使だからといって、その見立てが絶対とも限らない。それに、考え方によっては彼女が僕の事をからかって、そう言っているだけかもしれないのだ。
過度な期待は持たないでおこう。そう思った僕はアムの言葉を冷静に受け流すことにした。
訓練場の説明を終えた後、次に僕たちが訪れたのは宮殿の図書室だった。
図書室には、この世界の知識に関する物だけでなく、魔法に関する書物も数多く保管されているようだ。
さすがは何百年もの歴史ある帝国の図書室、といったところか。三階層にも及ぶその空間は、今までに見たこともない程の巨大さであった。
その他の展示室などを含めた、図書室に関する説明を軽く受けた僕たちは、大臣の許可を取って再び会議室を借りる事になった。そこで今後どうするかについて決めるため、会合の場を設けるという話になったのだ。
全員が席に着いたところで、天近がもう決まったかのような口ぶりでクラスメイトに向かって語りかける。
「皆ももう、心は決まってるんじゃないか? このまま何もしないでただ待っていたって、元の世界に帰る方法が見つかるわけじゃない。俺たちは、天から選ばれた人間なんだ! 与えられた力を使って、さっさと闇の帝王とやらを倒し、みんな揃って元の世界に戻してもらえる事を目指すのが懸命だと俺は思う」
天近の言葉を受け、クラスメイトたちの間にざわめきが起こる。
中には、否定的な事を話す声もチラホラ聞こえていたが。そうは言っても、皆それが最善だと感じているのだろう。結局、誰も彼の言葉に対して、あからさまに反論する者などなかった。
その後も、天近の考えに対する具体的な代案を述べる者は現れず。僕たちは、闇の帝王討伐を目指す事を強要される形になってしまうのであった。




