88.失われた記憶の欠片①
時限式の転移トラップを抜けた先は一本道となっており、その道は大通りに繋がっていた。
正面に見えていた石造りの神殿は、先ほどよりも確実に近づいているように思われた。
しばらく神殿の方に向かって歩いていたが。先行するミコトは、前触れもなく再び何の変哲もない路地に入っていく。
こんな感じで、同じように脇道を行ってはその度に転移トラップをクリアしていき。俺たちは、どうにかこうにか巨大な建造物へと続く階段の下までたどり着くに至った。
「ふぅ、やっとそれっぽい所まで、やってきたって感じだな。で、この場所では、どんな試練が待ち受けているんだ?」
俺は、緊張を紛らわすためミコトに対してそんな質問をしてみる。
このまま一気に行こうぜ、といった感じで言ってはみたものの、実際にはこの辺りで一息つきたい気分であった。
「今回の遺跡攻略は、この神殿で終わりにするつもりなんだけどね。試練っていう程のものじゃないけど、ちょっとカケルに対して試してみたい事があるんだよ」
思わぬミコトの答えに俺は困惑する。元の世界に帰還する際に必要となる座標を知るため、遺跡の攻略をするという話だったはずだが。彼女の口からそんな話は一切出てこない。直接ここで、それを確認できるというわけではなかったのだろうか。
半分冗談のつもりで言った試練という言葉も、普通に全員に向けてのことだ。しかし、結果的に俺が関係する何かが、この先に待っているという事実を知ることになった。
それにしても、話の内容からしてミコトは自分の目的を後回しにしてまで、俺の方を優先するつもりなのだろうか。
「俺に試したいこと? それはいいとして、自分の目的の方は後回しでもいいのか?」
「もう、その必要もなくなったからね。ここでの目的を果たしたら、次の目的地に向かうよ」
いくら超越的な存在がやる事だからといって、彼女の言動はあまりにも謎すぎる。今のところ悪いようにはしないといった感じだろうが、やはり大した説明もないのではどうしても不安になってしまう。
俺は、一抹の不安を抱えつつも、無言で階段をのぼりはじめたミコトの後をついていく。アイシャの方に目を向けると、ここまで付いてこれた事に自信をつけたのかやる気満々といった様子である。
「アイシャ。なんかすごく楽しそうだな?」
「カケルみたいな神がかった力を持つ旦那様と一緒なら、この先どんな敵が現れたって殺られる気がしないにゃからね!」
そんな嬉しい事を言ってくれるアイシャだったが。せっかく良い気分になっていたところ、アムが余計なことを言いはじめる。
「神がかってる? まぁ、ただの厨二にしては、そこそこやる方だとは思うけどね。人間が持つ願望の力って、ほんと凄いと思うわ」
「ずっと気になってたにゃけど、厨二ってどんな病気にゃ? 治す事はできるのにゃか?」
本気でそう心配するアイシャを余所に、俺はこのムカつく天使にこれ以上言わせまいと叫ぶ。
「おい! 駄天使! それ以上余計なことを言うな!」
「わたし地上には降臨しているけど、別に墜ちたわけじゃないから堕天使なんかじゃないんだけど」
「俺が言ってるのは、そっちの堕天使じゃない! 駄目天使だって言ってるんだ!」
「なっ……なんですって!? ちょっと失礼にも程があるんじゃないの? こんな可愛らしい幼天使を捕まえて駄目天使とか。ほっんと、ふっざけんじゃないわよねーっ!」
「可愛らしいのは見た目だけだろうが。性格の方は最悪じゃないか」
そんな俺たちのやり取りを黙って聞いていたミコトは振り向きもせず、吹き出しながら前回以上に失礼な事を言い出す。
「元々いいコンビだとは思っていたけど。アイシャも加えて、お笑いトリオの完成だね」
ミコトに逆らえないアムは反論できず、いじけて膨れっ面を俺に対し向けてくる。一人置いてかれた感じとなったアイシャは、何のことやらといった表情をしていた。
神殿に続く階段をのぼる間、特に魔物の襲撃などもなく。俺たちはついに、今回の最終目的地とおぼしき場所までたどり着く事ができた。
遠くから見てわかっていたが、目の前に現れた神殿は壮麗の一言に尽きる佇まいだ。
遺跡全体が全く風化していない様子からもわかるとおり、巨大な石造りの柱に支えられた天井も当然の事ながら完璧な状態で残っている。
さすがは超古代の建造物といったところか。あんな巨石によって造られた天井が、何十万年も崩壊しなかった理由が全くわからない。
神殿の内部は、屋内だと言うのに非常に明るく感じられる。入り口からでもすぐにわかったが、その理由は神殿の中央部にあるようだった。
「あそこに見えるのは、記憶の結晶みたいだね。触れる事で、その者に関係する記憶の残滓を覗き見る事ができるみだいだよ。あれのせいでボクの探し物も、この場所に吸い寄せられちゃったみたいなんだけどね」
内部に見える光源を指差しながら、ミコトは俺に対してそう話しかける。
先ほど彼女が言っていた試したい事とは、まさしくその事だったのだろう。
記憶を覗き見る。確かにそれは俺にとって、試すべき重要な事柄だと思えた。




