85.奮闘するアイシャ②
「いけ! アイシャ!」
光線が掻き消されると同時に、俺はアイシャに対してそう叫ぶ。彼女もすぐに状況を理解たようで、アイコンタクトだけして即座に巨人の方へと飛びかかっていった。
三つ目の巨人は、光線が効かなかった事に驚いた様子で、膝をついたままその場に固まっている。それだけこの攻撃が、最後の切り札だったのだろう。
そんな巨人は次の瞬間、勢いよく顔面から血を吹き出し断末魔の叫び声をあげる。アイシャが、魔力の源となる三つの目を先に潰したのだ。
山をも揺るがしそうな咆哮が続くなか、今度は巨人の後頭部から激しく血が吹き上がる。致命的な一撃を受け完全に絶命した三つ目巨人は、そのままゆっくりと地面に倒れ伏した。
アイシャは、返り血を浴びた状態で俺のところに戻ってきて言う。
「ありがとうカケル。助かったにゃ……あんなのを真面に食らったら、完全に終わりだったにゃよ」
「済まなかったなアイシャ。手出しするなって言われていたのに、つい体が勝手に動いてしまったようだ」
俺の言葉を受けたアイシャは、何故か顔を赤らめる。
何か勘違いさせてしまったようだが、助けたいという気持ちになって体が自然と動いてしまったのは事実だ。
すぐに誤解を解かなければならない。そう思い、適当に話を付け加えようとしたが。アイシャは、俺が次の言葉を発する前に先んじて勘違い全開の考えを述べはじめる。
「未来の嫁を、こんな所で死なせるわけにはいかなって思ってくれたのにゃね?」
「何でいきなり嫁にランクアップさせてるんだ? 子種が欲しいだけだって言ってただろ」
そうすぐに反応する俺だったが、今の発言は完全に誤りだった。
「それは、子種をくれるって話に関しては了承してくれてるって事でよいにゃよね? 子種をもらうって事と、嫁になるって事は同じ話しじゃにゃいのか?」
「了承なんてしてないし、自分でそれは違うって否定してただろうが!」
「恥ずかしがらにゃくても良いにゃよ。この旅が終わったら、集落に帰ってすぐに婚礼の儀式をするにゃ」
やはり頭のおかしな猫である。俺の言葉にも構わず、勝手に話を進めていきやがった。まさか一度助けただけで、ここまで暴走するとは。
「俺は、何も約束なんかしてないからな! 一緒に旅をする仲間として、当然の事をしただけの話だ!」
一応そう釘を刺す俺だったが、ニコニコするアイシャの表情から察するに「どうせ恥かくしだろう」くらいにしか考えていない事は明らかだった。
「もう話は終わったのかい?」
そんな俺たちのところに、ミコトがやってきて声をかけた。俺たちのやり取りが聞こえていたのか、少し不機嫌そうである。
元の世界に帰る方法を探すのを手伝ってくれる、と言っているくらいだから、そこまで本気ではないと思いたいが。最近の彼女の態度をみていると、まさか他に思惑があるのではないかと少し心配になる。
「別に、たいした話はしてないさ。それより、百体近くの魔物が、もう間近まで迫ってきてるぞ
「そうみたいだね。今度はボクたちも手伝おうか?」
ミコトとアムの二人が参戦してしまうと、百体の天災級モンスターの群れとはいえ一瞬で片付いてしまう。
アイシャもこの辺りで一気にレベルを上げたいだろうし、さっきかけた強化魔法の効果もまだ続いているようだ。
「いや、せっかくの機会だから、ここは俺たち二人だけでやる! アイシャ! まだいけそうか?」
少し疲れた様子のアイシャだったが、俺の問いかけに対し彼女は空元気といった感じで応える。
「少し心臓がドキドキするにゃけど大丈夫にゃ! まだ、さっきの力が湧いてくる感覚は続いてるにゃよ」
無理もない。本来であれば、確実に勝てないはずの相手を仕留めた直後なのだ。
とはいえ、あまり無理をさせ過ぎるのもどうかと思う一方、アイシャの答えは俺の顔色を窺って判断したという感じでもない。
「お出ましになったみたいだな。強化の効果が切れる前に、さっさと片付けるぞ!」
百体近く現れた新手の構成は、巨大な狼形の魔物が主たるものだった。その中にトロールやサイクロプス、オーガなどがチラホラと交じっている感じである。
当然それらの魔物どもは、遺跡の外に出現する同じ系統のものより上位の化物だ。
時間はあまりない。超古代の強化魔法は神級と言えるほど強力だが、その分効果が切れたときの反動もでかい。
回復薬などで体力や精神をある程度戻したうえで、更に詠唱からやり直すなんて。戦闘を継続している最中にそういった行いをするのは、普段から相当な連携の練習をしていないとかなり難しい。
しかも、この魔法の最大の欠点は、強化対象の体力と精神状態によって効果が切れる時間がまちまちという事である。パーティー全員が対象になるのは有難いが、これでは再付与のタイミングを計るのもかなり大変だ。
三つ目巨人を倒した勢いそのままに、アイシャは狼の魔物どもの顔面を次々と切り刻んでいく。
猫の反応速度は動物界最強だ。その特長は、ひと形であっても間違いなく受け継がれていた。
ましてや、神級強化魔法の効果が続いてる最中である。例え素早い狼の魔物といえど、今の彼女にとって敵ではなかった。




