84.奮闘するアイシャ①
アイシャの跳躍は、体長20メートル程もある巨人の頭部付近まで達した。
さすがは戦闘狂だけあって、咄嗟の判断により相手の弱点と思われる目を狙っていったようだ。
しかし、彼女の鉤爪による攻撃は僅かな動きであっさりと躱され、代わりに巨大な鋼鉄のメイスによる反撃を受けてしまう。
ハエ叩きのように空中で打ち払われたアイシャは、激しく地面に叩きつけられる。それを今度は踏みつけようとする三つ目巨人だったが、彼女はなんとか攻撃を躱し難を逃れた。
一撃で満身創痍に近い状態となってしまったアイシャだが、その目はまだ死んではいなかった。まともな攻撃をしても、反応速度は相手の方が上だ。そう最初の一撃で判断したのだろう。今度は巨人の足元を狙い、攻撃のチャンスを窺うように周囲を駆け回った。
スタッフの柄で、チョロチョロとはい回るアイシャを突き殺そうとする巨人だったが。足元の動きはそれほど俊敏ではなく、彼女の動きには全くついていけていないようである。
一方のアイシャは、隙をついては巨人の足に浅い傷をつけていった。
小さいが俊敏に動き回る相手に業を煮やした巨人は、大地を揺るがすような咆哮をあげる。普通の人間なら、それだけで蛇に睨まれた蛙のようになってしまいそうな雄叫びだ。
まずい。今ので周囲の魔物どもを完全に引き寄せてしまった。早々に片付けてしまわなければ、差しでの勝負とはいかなくなってしまうだろう。
アイシャの攻撃は効果的だが、巨人の動きを止めるにはまだ相当な時間を要しそうだ。
そう考えた俺は、支援するだけなら良いだろうと思い、すぐに強化魔法の詠唱を開始する。
~マコネオーキスシーヴァ テラウネラウー アガティシクトウィタノーム ムトテディラ キヒュアーアニエス ワラキートノースイェヤータ~
~至高の神シーヴァよ、我との契約を履行し、我と、我に付き従う者たちを聖なる光で包みその力を与えよ~
「神の気!」
ついさっき記憶が蘇ったばかりの、思い出したてホヤホヤの超古代魔法である。
今世において初めて使う魔法だが、一回の詠唱で上手く発動させる事に成功したようだ。
魔法の効果が発動すると、アイシャと俺の体から眩いばかりの光が溢れ出す。親和性が悪いのか、ミコトとアムの二人にはそういった変化が表れる様子はなかった。
「なんにゃこれ? にゃんだか、物凄い力が内側から湧いてくるにゃ!」
自身の光る手足を、まじまじと見ながらそう叫ぶアイシャ。今ならいける。そう判断したのだろう。彼女は次の瞬間、勢いよく巨人に向かって走り出した。
アイシャが動くと同時に、巨人の足元から激しく血が舞い散る。俺には同時に感じてしまう程、目にも止まらぬ速さの攻撃だった。
腱を切られた巨人は持っていたスタッフを落とし、ドスンと片膝をついてそのまま地面に両手をつけた。
足の筋肉を切り裂く事ができるなら、急所に致命的な一撃を加える事も可能なはずだ。後はとどめを刺すだけ。
そうアイシャの勝利を確信する俺だったが。
片膝をついたまま、脇に落としていたスタッフを再び手に取った巨人は、その先端をアイシャの方に向ける。
一瞬で先端に付けられた鈍器に魔力が集約されていき、その部分は妖しげな赤紫の光を放ちはじめた。
恐らく魔力光線か何かなのだろう。半端ないエネルギーを感じる。
手出し無用とは言っていたものの、今の彼女があれを真面に食らい果たして耐える事ができるのだろうか。
咄嗟にそう考えた俺の体は自然と動く。それと同時に、スタッフの先端から赤紫に輝く光線が放たれた。
「神の盾!」
一瞬でアイシャの前に飛び出した俺の周囲に、青白い光の障壁が現れる。その障壁は俺だけでなく、彼女も包み込んでいた。
壁に衝突した光線は、激しく飛沫を辺りに撒き散らしていたが。次第に威力を失っていき、数秒後には完全に消失した。




