80.獣人たちとの宴②
アイシャの一件と、ミコトに言われた事に不安を感じた俺はなかなか寝付くことができないでいた。
ハーレムというキーワードによりエリスの事も余計に気になってしまい、様々な考えが巡っては消え俺の睡眠を邪魔する。
エリスと初めてのデートをしたとき贅沢な悩みを心の中で考えていたわけだが、今となっては本気でそれが悩みの種となってしまった。
アイシャは、性格の方はアレだがかなりの美人である。スタイルも、エリスに負けず劣らずグラマラスだ。16歳という事なので、俺と年も近い。
とはいえ、どうして俺は普通の人間にはモテないのだろうか。
ヒロインがみな揃いも揃って、ヤンデレとか、何十万年生きてるかもわからない亜神や天使とか、ツンデレな猫耳娘みたいな女ばかりなんて実際はかなりしんどい。
それにしても、エリスは今どうしているのだろうか。
三百年も俺の事を待ち続け、ようやく再会できたというのに、すぐにまた離れ離れになってしまったのだ。彼女が、相当な悲しみに暮れていることは容易に想像できる。
川口の奴に、何か変なことでもされてはいないだろうか。アイツが一人で逃げ出す間際に吐き捨てた言葉も気になるし、本当に手を出されたりしていないかとても心配だ。
しかしまぁ、彼女のことだから、言い寄ってきた川口の奴をボコボコにしているかもしれない。
もちろん真実は告げたりしないだろうが、俺を見捨てて一人で逃げた事には間違いないのだから当然だ。
ミコトが何と言うかわからないが、とにかく一日でも早く彼女の事を迎えにいけるようにしなければとは思う。
浅い眠りから覚める度にそんな事を繰り返し考えていると、いつの間にか窓からは日の光が差し込んできていた。
完全に今日は、睡眠不足で辛い一日になることが確定である。
それほど早い時間に出る予定ではなかったが、二度寝してしまうとそのまま昼まで寝ていそうだ。
エリスの事を早く迎えにいくと決意した以上、眠いからと言ってあまりゆっくりもしていられない。
眠い目を擦りつつ、俺はここでもう起きてしまおうと思い、勢い良くベッドから飛び出す。支度をすぐに済ませると、そのままキッチンへと向かった。
「おはようにゃ! ずいぶんと早いにゃね? 昨晩はしっかりと眠れたにゃか?」
キッチンには何故かアイシャが立っていて、固まる俺に対しまるでそれが普通であるかのようにそう挨拶する。
「おう……おはようアイシャ。ところで、何でこんな朝早くから勝手に入ってきて、キッチンなんかに立っているんだ?」
「見ればわかるにゃよね? カケルに朝ごはんを作ってやろうと思って、今準備してるところにゃ。それと、ここはアタイらが貸した空き家なんにゃから、そんな言われ方される筋合いはないと思うにゃ」
アイシャの厚意に対し、冷たい事を言ってしまったわけだが。昨日までと違い、何故か彼女はそれほど怒ったような反応を示さなかった。
いや、わかっている。俺もそこまで女の気持ちに関して鈍感じゃない。
昨晩だって、ツンデレなヒロインの一人として既に数えていたくらいだ。
例え本心じゃないにしても、勘違い野郎なんて事を言われたくないあまり、気づかないふりをしていただけである。
実のところ、空気のスキルによって最初から何となく察しはしていた。怒っているように見えても、全く敵意などなく。彼女が俺に対し、複雑な感情を抱いている事はわかっていたのだ。
「そうだな。アイシャの言うとおりだ。ところで、料理はよくするのか?」
「初めてにゃけど、心配いらないにゃよ。ちゃんと得意そうな奴に、なんとなくやり方を訊いてきたにゃからね」
非常に不安だ。しかし、彼女の厚意を無下にもできない。
朝から不味いものを食べさせられる事を覚悟した俺だったが。しばらく経って出てきた朝食は、意外と普通に美味かった。
「あたいも一緒に付いていくにゃ」
食事する俺の様子を嬉しそうに眺めていたアイシャは、いきなりそんな事を言い出す。
特に何処とは言っていないが、普通に考えて遺跡攻略の事を言っているのは明白だ。
「付いていくって、遺跡攻略にか?」
「そうにゃ~。あたいもカケルたちと一緒にいって、少し鍛え直したいにゃよ」
目的が本当にそれならば特に断る理由にもならないし、水先案内人としても彼女がいれば非常に心強い。
あとはミコトが、何と言うかであるが。おそらく俺が頼めばダメとは言わないだろう。
「ミコトに頼んでやってもいいが、もし一緒にいける事になっても変なことはするなよ」
「わかってるにゃ! 足手まといにだけはならないよう、がんばるにゃよ」
言葉の意味を少し勘違いしているようだが、まぁ良い。
「ご馳走さま。なかなか美味かったよ」
俺は、礼儀として一応そう感想を述べると、すぐに家を出る準備に取りかかろうと席を立つ。
感想を聞いたアイシャは、とても満足げな表情を浮かべながら急いで皿の後片付けを始めた。




