77.アイシャとの決闘②
アイシャの鉤爪による攻撃を、すんでのところで躱した俺はカウンターの斬擊を放つ。
しかし、彼女は即座に両爪をクロスして、俺が放った脳天への一撃を受け止めてみせた。
意外とやる猫娘に対し、俺はバックステップで一旦距離をとる。
彼女が放った最初の攻撃は、全く視認する事ができていなかった。
少し驚いた。空気のスキルと過去の経験がなければ、間違いなく初擊で腹部を抉り取られていただろう。
とはいえ、相手の気配を感じつつ反射的に動く事ができる以上、アイシャの攻撃が俺に当たる道理はない。
「今のは絶対にまぐれにゃ!」
アイシャは、顔面を紅潮させながらそう言うと再び目にも止まらぬ速さで突進し、激しい攻撃の雨を俺に浴びせかけてくる。
しかし、彼女の攻撃が視認できなかろうと、気配を感じ反射的に躱す事ができるのだから全く問題ではない。このまま躱し続けているだけだとしても、後はどちらの体力が先に尽きるかだけの話だ。
何十回、攻撃を空振りさせただろうか。無数に鉤爪の連続擊を繰り出すアイシャだったが。さすがに疲れたのか、今度は彼女の方がバックステップで一旦俺から距離を置く。呼吸を荒くするその表情からは、明らかに焦りの色が窺えた。
「こんなはず無いにゃ! にゃんであたいの攻撃が一切当たらないのにゃ!」
「当たらないって事は、そういう事だろ?」
「そういう事ってなんにゃ! ふざけるのもいい加減にするにゃっ!」
別にふざけているわけではないが、俺の舐め腐った言い様にアイシャは完全にぶちギレたようである。
再び激しい怒りを露にした彼女は、なりふり構わないといった感じで猛然と突進してきた。
「必中!」
スキルの名前だろうか。動き出すと同時に、そう叫ぶアイシャだったが。攻撃自体は普通の大振りなフックであり、俺はそれを感覚で悟り難なく躱した。
躱すと同時に少し軌道がそれたような気もしたが、それも含めて鋭敏に反応したのだ。
これで決めるつもりだったのだろう。大振りであるがゆえに体勢を立て直せず、アイシャは俺が喉元に向けた一突きを躱す事ができなかった。
「そんにゃ……あたいの必中はレベル3にゃよ? にゃんでそれなのに当たらないにゃ!」
「いい加減、負けを認めたらどうだ? その気になれば殺す事もできたんだぞ?」
最初から予想はしていたが、やはり簡単には負けを認めるような性格ではないようだ。アイシャは、喉元に突きつけられた切っ先を爪ではね除けると、再び俺から距離をとり戦う構えを見せた。
仕方がない。族長や住民たちも俺の全力が知りたいわけだし、ここは奥の手を見せてやるしかないか。圧倒的な力の差を見せつけない限り、このまま同じ事を続けていても、彼女の口から降参の一言を引き出すのは無理そうだ。
再びアイシャが動き出そうとした瞬間、俺は左腕の武装を解除する。
さすがにこの異様な光景に警戒心を抱いたのか、アイシャは一旦その場に立ち止まった。
「ななっ、なんにゃー?」
固まるアイシャを余所に、俺は武装モードにした左腕から数発の弾丸を放つ。
訓練の成果は出たようで、威嚇のために放った数発が足元に。一発は彼女の肩当てをかすめて、勢いよくそれを弾き飛ばした。
「なんなんにゃ今のは! 全く見えなかったけど、攻撃されたのにゃか?」
「急所を狙っていれば、即死だったぞ?」
「うっ、うるさい! こんなのは何かの間違いにゃ!」
そう叫び動き出そうとするアイシャの足元に、俺は連続で弾丸を撃ち込み続ける。
激しい音と舞う土煙に、彼女は両腕をクロスさせ頭をガードしながら完全にその場で動きを止めた。
土煙が晴れた瞬間、両腕を下ろしたアイシャの隙を俺は見逃さなかった。
即座に左腕を通常モードに戻すと、剣を両手で握り直し彼女めがけて突進する。
急な動きの変化に対応しきれなかったのか、俺が彼女の首めがけて繰り出した横なぎの一閃は躱される事はなかった。
当然、切り飛ばすつもりなどなく寸止めのつもりではあったが。風圧だけでアイシャの首には浅い切り傷がついており、赤い血が一筋ながれ落ちた。
「寸止めでも切れるって事は、斬り飛ばす事もできたわけだ」
「ううっ……あたいの負けにゃ」
ようやく負けを認めたアイシャは、力なく両腕をだらんと下げる。
その様子を見た族長ガルフは、試合終了の合図を高らかと宣言した。




