75.試練
アイシャは、ノックもせずいきなり玄関の扉を開けて中へと入っていく。そんな彼女の行動は、まるで田舎のご近所さんのようである。
同行していた数名の部下たちは少し躊躇していたものの、やれやれといった感じで家の中に次々と入り始めた。
「ついてこい」
一番後ろにいた女戦士の一人が、俺たちに対して中に入るよう促す。
「おやじー! 侵入者を連行してきたにゃー!」
俺たちが中に入ると、アイシャの大きな声が玄関まで響き渡る。
遺跡の挑戦者という扱いだったはずだが、その辺りのこと族長に対してちゃんと説明してもらいたいものだ。
まぁ、部下たちが少しは真面そうなので、そこはきちんと後から説明してくれるだろう。
部下たちの出来が良い事を信じて、後をついていく俺たちだったが。アイシャと共に奥の部屋で待ち構えていた族長は、説明を受けるまでもなく状況を理解していたようだ。
「やはりミコト殿だったか。十年ぶりくらいか? 今回は連れが居るのだな? あの時と全く姿が変わらない様子を見ると、神の眷属という話も嘘ではなかったようだ」
「久しぶりだねガルフ。実力なら前にたっぷりと示してあげたはすだけど、それでもまだボクの話を完全には信じていなかったみたいだね」
虎の獣人族長の第一声に対して、ミコトは尊大な態度で即座に応じる。アイシャが言っていた騒ぎになったという件は、実力を示したという事に起因しているのだろうか。
そんな風に考えていた俺だったが、その答えは次の会話で明らかとなる。
「あの時は私も、若さゆえに血気盛んだったからな。族長になったばかりという事もあり、一度試練をクリアした貴殿に対して、無謀にも再び勝負を挑んでしまったが。一度目に分けもわからず負けてしまった際に、実力差が大きすぎる事を悟るべきだった」
「そうだよ。あの時は今度こそ勝つって言って、周りが必死で止めていたのに全く聞く耳を持たない感じだったからね。何度も挑まれたりしたら面倒だから、少しだけ実力の片鱗を見せてあげたんだよ」
要は一部とはいえ、亜神としての力を見せつけたという事か。それならば確かにその当時、騒ぎになったという話も納得できる。
ガルフと呼ばれた族長は「あれだけの事をしておいて、少しだけか……」と苦笑いする。流石にもう懲り懲りだ、といった感じだ。
という事は案外、素直に遺跡探索の許可は下りるのかもしれない。そう期待した俺だったが。
「ミコト殿に関しては当然、試練を受けてもらう必要はないが。連れに関しては一応、慣例に倣って試練を受けてもらう必要がある。ここに残って待つというのなら、その限りではないがな」
「だったら、あたいが試練の相手を担当するにゃ! 次期族長候補にゃからね!」
ミコトが移動中に、アイシャのステータスを訊いた理由はこれだったのか。何となく試練の相手が彼女だという事を予想し、俺に見せておこうと考えたのかもしれない。
アイシャは、明らかに俺に対して挑発的な顔を向けている。
見た目から対象外と考えているのだろう。アムの事に関しては、全く眼中にないといった様子だ。
「初めまして族長。俺はミコトの連れで、名はカケルだ。一つ質問なんだが。試練というのは要するに、指定された相手と試合をして実力を示せば良いという事か?」
俺は、同じ轍を踏むまいと名乗ってからそう質問する。族長は、見た目に反して温厚な性格のようで、尊大ではあるが落ち着いた感じで答えを返した。
「そのとおりだ。挑戦者カケルよ。慣例では、次の族長候補と言われている戦士と試合をしてもらい、一定の力を示したとこちらが判断すればクリアという事になっている」
やはり族長もアムの事に関しては眼中にないといった様子であり、今回の試練を受ける対象者は俺だけと考えているようだ。
アムは、自分が最初から対象となっていない空気を受け、心外だといった表情をしていたが。ミコトがもし彼女の戦力も当てにしているのであれば、そこは自分の都合の良いように上手く話を持っていくに違いない。
よほど俺の事を気にくわないと思っているのか、アイシャの表情は先程にも増してより攻撃的なものとなっている。
名を名乗らずに話しかけたくらいで、そこまでムカつく事もないと思うが。
道中ずっと戦闘をミコトに任せっきりだったし、新たな力を試すにはちょうど良い機会だ。
そう考えた俺は、何気にアイシャとの対戦が少しだけ楽しみになっていた。




