69.小ぶりな翼の天使
ミコトの作業部屋に入ると、部屋の中央には明らかにそれとわかる白い布を被せられた物が置かれていた。
例によって彼女が空間から取り出すと思っていたので、至って普通のシチュエーションに俺は少し意外だと感じる。
それをするくらいならわざわざ作業部屋に移動するなんて事もしないだろうし、彼女なりの演出といったところなのだろう。
どんな出来栄えなのか気になるところだが、過度の期待は持たない方が賢明だ。
ミコトの事だから、多少は悪意のある見た目の物を作った可能性だってある。そう考えていた俺だったが。
「じゃじゃーん! どうだい? なかなかの出来栄えでしょ?」
全く出し惜しみする様子もなく、ミコトは被せられていた白い布を一息に外す。翼こそ小さく作られてはいるが、そこにはアムにそっくりな天使の人形が佇んでいた。
俺の義手と同様まるで本物と見紛うばかりの質感であり、その拘りようからは全く悪意など感じられなかった。
「どうだいアム、気に入ったかい? 無理やり剥がされて移されるのが嫌なら、自分で移動する事をお勧めするよ」
まるで簡単にできる事かのように言うミコト。そんな簡単に乗り換えられるくらいなら、召喚者の価値とは一体なんなんだろうと思ってしまう。
『わたしの翼、そんなに小さくない』
『それくらい文句を言うなよアム。俺とお前が分離する事が、彼女にとっての必須条件みたいだし。お前が決断してくれなきゃ話が前に進まないだろうが』
確かにアムが躊躇うのもわかる。ミコトにしてみれば、自分たちを敵視する存在に所在を知られてしまった以上、そう簡単に彼女を自由にはさせないだろう。そう考えると、移す対象の宿主自体に何かしらの仕掛けをしている可能性は高い。
しかし、その気になればミコトの方が圧倒的に強いのだから、こちらに拒否権などあろうはずもない。
『あんまり気乗りはしないけど、相手が亜神じゃ仕方がないわよね』
ようやく覚悟を決めたのか、アムは諦めの言葉を俺に投げ掛ける。その瞬間、俺は魂がすうっと軽くなっていくのを感じた。
融合したときの抵抗感などまるでなく。本当に何か憑き物が一気に取れたかのような感覚だ。
スッキリしたついでに、能力まで持っていかれてないと良いが。
完全にアムの存在が俺の中から消えたのを感じたとき、彼女そっくりの人形は柔らかい光を放つ。
一瞬の間を置いて、アム人形は手足をゆっくりと動かしはじめた。
「作り物の体にしては、良くできているわね」
「当然さ。誰が作った物だと思っているんだい? 細部に渡って拘り抜いた自信作なんだから、できが悪いなんて事は絶対に言わせないよ」
言葉まで喋れるようになるとは、正直かなり驚いた。
発言と共に口も動いているところを見ると、ミコトが作った物だけにやはり只の人形ではなかったようだ。
可動部がどういった仕組みなのかはわからないが、動きも非常に滑らかである。
「やっぱり私を逃がさないために、何かしらの仕掛けをしているのよね?」
「そんなの当然だよね。一度入ったらボクの許可がない限り、絶対に抜け出せないようになっているよ」
それを聞いたアムは、少し意外そうな顔をしている。俺もそうだったが、おそらく彼女はもっとドギツイものを想像していたに違いない。
「意外だっていう顔をしているね? ハーウェとはあまり敵対したくはないし。目的を果たしたら解放してあげるつもりだよ。ボクなりの温情に感謝して欲しいものだね」
温情といったが、ミコトの思惑は透けて見える。要は目的を果たすまでの間、アムを都合良くこき使うという話なのだろう。
だがしかし、これから可愛らしい天使の姿を毎日のように愛でる事ができると思うと、不謹慎にも俺の気持的には嬉しいと感じる方が勝っていた。
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