65.気絶するほど美しい
厨二心をくすぐるその魔道具を前に、俺の心は完全に決まった。
もし後で気に入らないと思ったら、彼女なら造作もなく義手を取り外し、腕も元どおり再生させてくれるだろう。
それに真の力さえ取り戻せれば、自分でも腕の再生くらい容易いことだ。
しかし、力を取り戻す前に今回みたいなピンチに見舞われ、死んでしまうような事にでもなったら元も子もない。
そう考えると強力な武装が仕込まれたこの義手は、見た目的にも身を守るうえでも俺の要望に沿う物だった。
「悪くない」
本音としては、是非つけてくれ、であったが。俺は、あえてそんな冷めた反応を示す。
ミコトの様子からして、恐らく彼女は自分の作品を試してみたくて仕方がないのだろう。となると、俺は彼女にとっての実験対象みたいなものだ。
そうでもなければ、最初から素直に腕を再生してくれていたはず。
「それじゃ取り付け作業は、お風呂に入って傷口を洗ってからにしようか。今すぐに案内するから、ボクに付いてきてくれるかい?」
満面の笑みを浮かべながら、そう言って席を立つミコト。まだハッキリ着けるとは言ってないはずだが、彼女は完全にそのつもりのようである。
なんでもいいが、確かに風呂には入りたい。
中途半端に治りかけている傷口も痒くて堪らないし、取りあえず清潔にだけでもしておきたいものだ。
そんな感じでとにかく早くスッキリしたい俺は、余計な事は言わずにミコトの後を大人しくついていった。
風呂場はログハウスの裏手にあり、ミコトの説明では天然の温泉を引いているそうだ。
脱衣所すらない浴場に着くと、彼女は平然と服を脱ぎ始める。
「何でミコトまで服を脱ぎ始めているんだ?」
「体を洗ってあげるのに、ボクだけ服を着ているわけにもいかないよね? さぁ、早くカケルも服を脱いじゃいなよ。それとも片手じゃ無理だって言うなら、ボクが脱ぐのを手伝ってあげようか?」
気をつけて洗えば、それほど問題ないような気もするが。よほど服を濡らすのが嫌なのだろう。とはいえ、全裸にまでなる事など流石にあるまい。
こんな美少女に服を脱がせてもらうのも恥ずかしいし、俺は彼女の言葉に対し無言で右手を動かし始めた。
ミコトに背を向けながらようやく服を脱ぎ終えると、振り返った俺は信じられない光景に思わず二度見してしまう。
俺の後ろには、神々しいまでの美しい裸体を晒した女神が、微笑みを浮かべながら佇んでいた。
「やっぱりこんな姿を見ても全然平気みたいだね?」
「いや、全然平気じゃないぞ。なんで全裸になってんだよ」
「僅かだけど、家に帰ってからずっと神気を纏っていたんだけどね。その状態で裸体まで見ても気絶すらしないなんて、普通の人間ならあり得ない事だよ」
それは即ち、俺の記憶がただの妄想ではない事の証という意味なのか。アムの神気も問題なかったわけだし、やはり俺は超越的な力の要素を残している可能性が高い。
亜神と位置付けられる存在に認められたようで、嬉しく感じていた俺だったが。次に彼女が発した言葉で、一気に落胆させられる事となる。
「ただ残念ながら、ボクの見解ではカケル自身が超越者というわけではなさそうだって思うけどね。正確に言うと……ま、その話はまた後でゆっくりとしようか」
さらっとショッキングな事を言われ、俺は一瞬だけ頭の中が真っ白になる。
要素を残している、と言ったが。彼女が言いかけた言葉の雰囲気からして、要素を持っている、と言い換えた方が良さそうな感じではある。
『プークスクス。だから言ったじゃない! 絶対にそんな事あり得ないだろうって普通に思ってたのよねー。亜神にまでハッキリと否定されちゃってて、カケルちゃん可哀想すぎる~』
アムにまで馬鹿にされ、完全に天国から地獄に落とされた心境になる俺。
「さっ、体を洗ってあげるから、ここに腰掛けて」
普段ミコトが使っているのだろう。彼女は、椅子にするのに誂え向きな石を指し示しながらそこに座るよう俺に促す。
ショックで半ば放心状態となっていた俺は、言われるがままに彼女の指示に従った。
ミコトは、何処からともなく出現させた石鹸を泡立てると、背後から俺の体を丁寧に洗っていく。
彼女の形の良い胸が背中に当たっているが、超越的な存在にされているからなのだろうか。ラッキーという気持ち以上に、犯されているような気分だった。
ミコトの手が傷口に触れるも、全く痛みを感じない。
いつの間にか中途半端に治りかけていた傷口も、完全に皮膚で覆われてしまっていたようだ。
「今度はボクが洗ってもらう番だね」
全身を隅々まで洗ったところで、ミコトは艶やかな表情を俺に向けながらそんな冗談を飛ばす。
「冗談はいいから、早く泡を流して義手の装着作業に入って欲しいんだが」
もし冗談だったとしたら、真面に受けとれば恥ずかしい思いをする。仮に彼女が本気だったとしても、流石にそれはちょっと無理すぎる行いだ。
そう思い、さらりと受け流したつもりだったが。
「じゃあ、腕の取り付けが終わったらボクの事を抱いてくれるかい?」
ミコトは、真っ直ぐ俺を見つめながら、そんな意味不明な事を言い出す。
真剣な眼差しでそう懇願され、俺は困惑のあまり言葉を詰まらせた。




