63.暴露するミコト
「こんな話、馬鹿げていると思うだろ?」
堪らずそう訊ねる俺だったが、ミコトの反応はけっして否定的なものではなかった。
「そんな事はないんじゃないかな。ボクとしては、なかなか興味深い話だったと思うよ。他に経験したっていう前世の記憶についても、いろいろと話を聞きたいくらいだね」
空になっていたカップにお代わりを注ぎながら、こんな抽象的な話に興味津々といった様子でそう答えるミコト。同じ超越的な存在だが、アムとはえらい反応の違いである。
どこまで本気なのかはわからないが、彼女の期待に応えようと俺は他の記憶についても語る。
中世の騎士、交易商人、錬金術師。華々しい人生だった記憶だけにとどまらず、様々な記憶について思い浮かぶ限りをミコトに話した。
だいたい話し終えたところで、ミコトは妙に嬉しそうな感じで唐突に質問を投げ掛けてくる。
「ところでその話って、本当にカケルが居た世界での話って事で間違いないのかい? 似たような歴史を辿ってるみたいだし。そこまで断片的にしか記憶がない感じだと、実はこちらの世界での話だったって可能性も無くはないよね?」
確かに時代や場所について、はっきりしない記憶が殆んどなのも事実だ。しかし、江戸時代における慎十郎としての記憶。幕末の頃に維新の獅子として活躍したときの記憶は、あちらの世界の歴史である事に間違いはないはず。
いや、確かにそう考えてみると、時代背景や国がはっきりしているのはその二つくらいしか思い当たらない。
「少なくとも三百年前までの記憶については、俺のいた世界の出来事で間違いないはずだ。そこからはずっと、同じ国でしか生まれ変わってないからな。三百年前の人生において今回と同様に、向こうの世界からこちらの世界に召喚された事だってある」
「三百年前にも召喚されてきた事があるって? それで、そのときは向こうの世界に帰ることはできたのかい?」
エリスから聞いた話によると、俺は独自に帰還する方法を見つけ出して向こうの世界に帰っている。彼女も一緒に連れていくはずだったが、思わぬ事態に見舞われそれが叶うことはなかった。
彼女と始めて口づけを交わしたときに、別れる瞬間の記憶も思い出している。
そこまで材料が揃っているのだから、俺が帰還できたという事実に間違いはないだろう。
「ああ。そのときは帰還する方法を見つけ出して、確かに向こうの世界に帰っている」
「自分で帰還する方法を見つけ出したのかい? それは懸命な判断だったと言えるね」
俺の答えに対して、ミコトはそんな意味深長な事を言う。
「懸命な判断? それは一体どういう事だ?」
『うぇーっ、ちょっと何てこと言ってくれちゃってるのよーっ!』
ミコトに対する俺の問い掛けに、すぐさま反応するアム。その慌てた言葉の感じから、彼女にとって何か都合の悪い話になりそうなのは確かだ。
「ハーウェって神は、異世界人を召喚するだけして、元の世界に帰す気なんて全くないからね。て言うかこの方法で異世界転移した場合、帰還する方法自体が普通はないんだよ」
「帰還する方法が無いだって?」
「召喚された者を元の場所に戻すには、元いた場所からまた召喚するしかないんだ。ましてや、天使と融合なんてしてたら尚更だよ。もちろん召喚した者を別の空間とか使って、出したりしまったりする事はできるんだけどね」
ミコトの話が本当ならば、俺が過去に召喚されて元の世界に帰還できたというのもあり得ない話なのか。
そう言われてみれば確かに、帰った後の記憶など一切ない。
『どういう事なんだ? アム!』
『そういう事なのよ、カケルちゃん』
『『そういう事なのよ、カケルちゃん』じゃねーだろ! その辺について、きちんと説明してもらおうじゃないか?』
俺は、アムに対してそう問い詰めるが、彼女は完全に開き直った感じで言い訳じみた事を話し始める。
『ハーウェも私たち天使も、最初から嘘なんてついてないわよ。事がすんだら元の世界に戻すなんて話、召喚元の人間たちが勝手に言っているだけでしょ? 教皇が言っていたみたいに、わたし達が戻す方法を後で伝える、みたいなお告げをした事なんて今まで一度もなかったもの!』
要するに言わない自由とでもいったところか。確かに嘘はついていないが、そんな大事な話を隠している時点で悪意しか感じない。
俺たち召喚者は、ハーウェにとって単なる捨て駒だったという話しだ。
その事実を知った瞬間、俺の頭の中にクラスメイトたちの顔が浮かぶ。
川口の奴はともかく、俺に対して良くしてくれた連中にだけでも、この事実を知らせてやらなければいけない。
過去の俺も、その事実に行き当たって自力で帰る方法を見つけ出したという事なのか。
天使を直に問い詰めるよりも、この件に関する打開策は目の前にいる亜神が何かしら持っていそうだ。
そう考えた俺は、ミコトに対しもっと素直に向き合うべきだと改めて感じた。




