61.ミコトの正体②
天使に聞かせる話はないと言っていただけに、単純な内容くらいしか話してはくれないだろう。俺はそう考えて、彼女が答えてくれそうな質問を選んでしたわけだが。
ミコトは、少し悩む素振りを見せたあと深く溜め息をつく。その後どういう風の吹き回しか、彼女は自身の事について語り始めた。
「ボクは、この世界を創った神の眷属なんだよ。ハーウェと敵対してるかって質問に関しては、今となっては特に敵意を持っているわけでもないっていうのが答えだね」
意外にも核心をつく答えを得られた事で、俺は少し拍子抜けしてしまう。
彼女の言っている事が確かなのだとしたら、あまり好んではいないというだけの話であり、どうしても始末したいとまでは思っていないようにも取れる。
ただ一つ心配な事として挙げられるのは、逆に始末するつもりだからこそ話す気になったという場合だ。
「『今となっては』って事は、過去には敵意を持っていた時期もあったって話だよな?」
「まぁ、この世界から追い出すかどうかって話にはなった事があるけど、結局のところ戦うって結論には至らなかった感じだね。今のところ、それなりにしっかりと管理もしてもらえてるようだし。現状では、ちょかいを出さないって話で落ち着いている感じだよ」
その話が本当ならば、俺の事は単なる気まぐれで助けただけといった感じなのか。遠くの方から天使の力を感じた事で、直接手をくだそうと考え現場に向かった、という話でも無さそうだ。
しかし、続けてミコトが言った言葉に、己の考えが甘かった事を思い知らされる。
「ただね、こちらが干渉しないって決めていても、ハーウェの方はそうとも限らないってのが実際のところなんだよ」
それを聞いた俺は、即座にアムに対して訊ねる。
『ハーウェの立場としては、この世界の神々をどうすべきだと考えているんだ?』
『そりゃ邪魔な存在だからね。従わないなら全部滅ぼすって感じにはなってるわよ』
要するに元々この世界に存在した神々は不干渉を決め込んだが、ハーウェの側はその神々を滅ぼす気満々という話である。
確かにそれなら、ミコトが警戒するのも仕方のない事だ。
全体としての戦力がどうなっているのかは知らんが、少なくともこの場における主導権は向こう側に置かれている。まさに生殺与奪の権限は、ミコトという名の亜神に握られているといった状況だ。
所在を知ってしまった以上、彼女がこのまま素直に俺を解放するわけがない。
「て事は、ミコトとしてはこのまま俺を素直に解放するつもりはないって話になるよな?」
「まぁ、そんなに結論を急がなくても良いよ。ボクにとって下位天使くらい、どうにでもなる相手だからね。そんな事より、ボクの興味は今キミにしか向いてないんだ」
考えてもみれば、助けた相手が大きな怪我を負っているわけでもなければ自宅に連れ込もうとは普通しない。
確かにアムを確実に始末するという意図があったのかもしれないが、それならばもっと強引に拘束していてもおかしくはなかったはずだ。
こんな恐ろしい力を持った存在に、俺は気に入られてしまったというのか。亜神だけに、彼女は俺の本当の力について既に悟っているのかもしれない。
『単純に、珍しいケースの召喚者だったからじゃないの?』
アムは、相変わらずな感じで興醒めさせるような事を言うが。俺は、試しに自分の特殊な状況について、目の前の亜神に対し語ってみる事にした。
「そうか……じゃ、次は俺の話をするけど。実のところ俺は、何十万年も前に超越者としてこの世に生を受けたんだ。記憶自体は朧気にしかないんだけどな。それ以来、今に至るまで何千回と転生を繰り返している」
こんな馬鹿げた話、いくら亜神とはいえ俄には信じないだろう。そうは思いつつも、それを聞いたミコトは妙に食いついた様子で表情を一変させた。
「非常に興味深い話だね。朧気っていっても、どのくらい覚えてるものなのかな?」
ミコトの質問を受け、俺は断片的にしかない超越者としての記憶を呼び起こす。
かつて、エリスに対しては話したのかもしれないが。こんな話、他人にする事なんてそうそう有るものではない。
しかし、まともに取り合おうとしないアムと違って、目の前にいる亜神なら興味を持って聞いてくれそうだ。
そう思った俺は、この馬鹿げた記憶について彼女に話してみる事にした。




