59.魔女の家
目的を包み隠さず話した事で、急に敵対してくるという可能性はないだろうか。
その心配は確かにあったが。下手にはぐらかしたところで、この少女を相手に隠し通せるとも思えない。
取りあえず相手の反応を探ってみて、それからどう答えるか考えよう。
そう思った俺は、何故それを訊ねるのか探りを入れてみる事にした。
「どうして急に、そんな事を訊くんだ? 森の中で騒ぎを起こした事に対して、やっぱり怒ってたりするのか? 帝国の兵士が実戦訓練で、この森をけっこう頻繁に利用するって話も聞くようだが」
「兵士どもが、実戦訓練をしているなんてレベルの騒ぎじゃなかったけどね。まぁ実際、騒がしいから気づいたわけなんだけどさ。ボクにとって敵なら、やっぱりそれなりの対処はしないとって急に思い直してね」
意外にも、どストレートに理由を述べるミコト。しかし、何をもって敵だと判断するのかについては、その答えでは当然わかるはずもなかった。
仮にこの少女が敵に回ったとして、今の俺では体力が万全だろうと敵う相手ではない。それくらいは、空気のスキルを使わなくても普通にわかる。
先程から完全に鳴りを潜めているアムの様子からしても、ハーウェの天使が関係しているのは何となく察しがつく。
しかし、俺を大好きだと言ってくれたうえに、最後まで守ってくれた彼女を差し出すような真似はできない。
「それなりの対処って、具体的にどんな事をするつもりなんだ?」
どうせ一度、失いかけた命だ。返答によっては、アムを守るために戦うしかない。
そう思った俺は覚悟を決め、半ば投げやりな感じで謎の少女に対して答えを急いだ。
自分でもわかっていたが、明らかに俺の表情は強ばっていた。そんな俺を揶揄うかのように、ミコトは先程までの冷淡な表情を一変させ悪戯な笑みを浮かべる。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。キミ自身に危害を加えるつもりは全くないからね。まぁ、ここで話すのもなんだし、兎に角ボクの家についてからゆっくりと事情を訊く事にするよ」
そう言って再び歩きだすミコト。
強者の余裕ってやつなのか。恐らく既にアムの事は悟っているのだろうが、このまま自宅に招き入れるつもりのようだ。
いっそここで逃げてしまう、というのも一つの手かもしれない。
自宅に連れ込もうとしているのは、その方がより確実に拘束できると考えている可能性もある。
いや、たぶんそれは自分を買い被りすぎだろう。遠隔で、あんな攻撃や回復までできるくらいなのだ。逃がすつもりがないのであれば、外であろうが一度ロックオンした相手を殺す事くらい造作もないはず。
とはいえ、アムを守るという観点からしたら、ここで逃げるという選択を取るのが正しいのか。
『ありがとね、カケルちゃん。わたしの事を、そんなに思ってくれるなんてすごく嬉しいよ』
先程まで完全に黙りを決め込んでいたアムが、急にそう俺に対して語りかけてくる。当然ミコトは、その気配を逃すことなく感じ取ったようだ。
「もはや隠すつもりすら無いみたいだね。それにしても、珍しいケースだとしか言いようがないよ。カケルは融合してきた天使と、普通に会話する事ができるのかい?」
やはり最初から完全にバレていたようだ。しかも、会話をしていた事でさえわかっていたというのか。
「ミコトは、人の心が読めるのか?」
「ボクが、カケルの心を読んだわけじゃない事は、キミ自身が一番よくわかってるんじゃないのかな? もし、そんな事をしたら、君の場合すぐにわかってしまうよね?」
それは、空気のスキルと関係している話なのだろうか。
確かにそれも有るのかもしれないが、考えてみれば最初からそういった感覚は優れていたようにも思える。
アムに魂の融合を迫られた際に、彼女が入り込もうとしているのを確実に感じながら、それを必死で拒絶したのも記憶に新しい。
「兎に角もう家に着いたことだし、続きはお茶でも飲みながらゆっくりと話そうか」
そう言いながらミコトが指し示す先には、何もない草原が広がっていた。
しかし、こんな深い森に、これほど開けた場所があるのも確かに不自然だ。
『空間結界の類いだね。正規の入り口から入る事で、結界内の空間に進入できるってところじゃないかしら?』
一度バレているとわかったら大胆なものである。ミコトの指摘どおり、もはや隠すつもりもないらしい。
そんなアムの言葉は正しかったようで、ミコトの後をついて草原に足を踏み入れると目の前に木造の一軒家が突然現れた。




