50.魔女の森と大樹海②
女子二人は、ホブゴブリンを始末する事ができなかった。とはいえ、パーティー全体としては幸先の良いスタートを切った、と言っても良いのではなかろうか。
その後も僕たちは、次々と襲いくる魔物共を順調に打ち倒していく。
相変わらずひと形の敵にトドメは刺せないものの、日高さんと本庄さんの二人も、それ以外の魔物はなんとか倒す事ができていた。
僕もけっして得意とは言えないが、日高さんは昆虫系の魔物も見た目的に苦手なようである。
お漏らしをしてしまった本庄さんは、着替えなど持ち合わせておらず。しれっとその話しは無かった感じにして、あとは自然の摂理に任せる事にしたみたいだ。
普段なら川口と戸田の二人が、それに関して揶揄うような事を言っても不思議ではないのだが。魔物が次々と現れる緊張感のせいか、二人はその件について全く触れようとさえしなかった。
後になって言いそうな気もするが、まぁそうなったとしても僕には関係の無い話だ。とにかく今は下手に気遣ったりしないで、そっとしておいてあげよう。
ここまでに倒してきた魔物の種類は、ホブゴブリン、殺人蟻、巨大蜘蛛、お化けキノコ、の四種である。
お化けキノコは、森の精霊によって生物的な能力を与えられた魔物であり、この森で一番弱いのだが兎に角タフである。三枚下ろしにしてやったくらいでは、なかなか死んではくれないほど生命力の強い魔物だ。
大樹海に近い森の深部までいくと、オーガや軍隊蟻、殺人蜂など出現するらしいが、この森の絶対的支配者と言えるのは最後に挙げた殺人蜂である。
単体としてはそこまで強くはないが、中途半端に殺し損ねると大量の援軍を呼ぶという習性がある。
時速80キロで飛ぶ、体長1メートル程のハチ数千匹に襲われれば普通の人間では一溜りもない。逃げようったって強化魔法もない状態なら、どんなに鍛え上げられた者でもその限界を超えてくる速さなのだ。
「そろそろベースキャンプに戻った方が良いかも」
数体のお化けキノコを魔法で始末した後、僕はメンバー達に向かってそう提案する。僕も含め、他の四人の気力と体力はけっこうヤバめな感じで消耗している状態だった。
空気のレベルも今では6まで上がっており、僕は敵味方の状態をかなり正確に感じる事ができるようになっていた。
レベルもいくつか上がっているはずだが、それを加味しても今の体力ではこれ以上先に進むのは危険だ。安全に帰還する事まで考えたら、そろそろ潮時だと言えるだろう。
「おい! ここで終わりとか、ふざけてんのか? まだまだ全然いけるだろ」
ここまでメンバーの戦いかたに関し的確な指示を出していた僕に対して、男子二人があまり良い感情を抱いてない事はわかりきっていた。
川口の奴は、これ以上僕にリーダー面をされたくないとばかりにそう食って掛かってくる。
「けっこう遠くまで来ちゃったみたいだし。あたしらも、もう魔力が尽きかけてる。ミノりんも顔色悪そうだし。あたしもさっきから、ちょっと気分が悪いんだ」
本庄さんがそう口を出した事で、川口の奴もさすがに少し考え込むような素振りをみせる。
恐らく戸田も、川口と同じ気持ちなのだろうが。ここまで殆んど休み無しだった事もあり、今日のところは戻りたいという気持ちの方が勝ったようだ。
「興起。今日はもう十分レベルも上がってるし、頑張るのは他のパーティーの状況を見て明日以降に考えたらどうだ?」
戸田からもそう提案された川口は、僕をじっと睨み付ける。明らかに、僕の反応を見て決めようといった感じが窺えた。
ここで逆に同調するような事を言えば、余計に意固地になってしまいかねない。
そう考えた僕は、敢えて判断を促すような言い方をしてみる事にした。
「このパーティーのリーダーは、川口くんだからね。僕は君の意見に従うよ」
川口が、僕の意見に反論した理由は明白である。単に僕がリーダー面するのを面白くないと思っているからだ。
実際にこの野郎の体力も、かなり限界に近いはず。
そう考えると僕がコイツを立てる事で、素直に皆の意見を聞く気になるはずだ。
「ちっ、しゃーねーな。お前らがもう仕舞いにしたいってんなら、今日のところは引き上げるとすっか」
思惑どおり、川口は撤収する事を決断する。なんちゃってリーダーの決定に、他のメンバー達からも安堵の表情が窺えた。
このあと僕たちは、残り少ない体力と魔力を節約するように、なるべく戦闘を避けながらベースキャンプに向かって歩みを進めた。




