39.謎多き女ドレミ
図書室の扉を開けた僕は、すぐにいつもの席に目をやった。
エリスが先に着いているなら僕が分かりやすいように、いつも座っている入り口付近の席で待っていてくれてるはずだ。
しかし、そこに彼女の姿は見当たらなかった。
仕方なくその場所で待つ事にした僕だったが。席に着くなりドレミが静かに僕の隣に座ってくる。
「マスター。ずいぶんとお早いお帰りでしたね。パーティー編制の方は、スムーズに決まりましたか?」
いつもの事だが、ドレミは何故か僕の事をマスターと呼ぶ。
誰に対してもそうなのかと思いきや、他の人間には普通に名前で呼んでいるところをみると、どういうわけか彼女は完全に僕に対してだけそう呼んでいるようだ。
「うん、あまり良いパーティーになったとは言えないけど、取りあえず特にトラブルもなくメンバーはスムーズに決まったよ」
謎めいた丸眼鏡の美女に対し、僕は苦笑いを浮かべながらそう答える。
常に感情がないような口調で話す彼女との会話は、どうしても苦手だと感じてしまう。
そういった特徴から、あまり話好きではないのかと思えるが。意外にも彼女はいつも僕に対して、かなり積極的に話しかけてくるようだった。
「そうですか。まだ力が十分に覚醒しきっていないうちは、ご無理をなさらないよう。時には仲間との協力を大事にし、長く生き残る事が肝要です」
そんな不思議な事を言うドレミ。まるで僕が超越者である事を、わかっているかのような口ぶりだ。
僕の事をマスターと呼ぶのも、その辺りが起因しているのかもしれない。
『ププッ! 確か彼女って相手の能力を読めるんだったよね? て事はひょっとすると、相手の考えとかも読めちゃったりして。彼女、カケルちゃんの痛すぎる妄想を読み取って、一生懸命に合わせてくれているんじゃない?』
『人の体に間借りしている分際で五月蝿いなアム! 存在ごと消してやろうか?』
『ププーッ! そんな事できるもんなら今すぐやってみなさいよね』
本当にムカツク天使だ。僕が転生を繰り返している事は認めたんだから、いい加減それに関しても認めて欲しいもんだ。おぼろげで断片的とはいえ、そういった記憶も確かにあるのだから。
それにしても、ドレミという女は不思議だ。
すごく良い香りはするのだけれど、とても人工的というか、フェロモンみたいなものを全く感じない。
女性としての魅力を感じない雰囲気だからこそ、エリスも僕が彼女と一緒にいても何も言わないのかもしれない。
しばらくドレミと会話をしていると、ようやく会議を終えたエリスが図書室にやってくる。
彼女の姿を確認したドレミは、すっと立ち上がり何食わぬ顔で席を譲った。
「パーティー編制はどうだったの? 女の子は当然、メンバーの中に入っていないのよね?」
まずい。まさかエリスが、そこまで気にしているとは夢にも思わなかった。
嘘をついてもすぐにバレるだろうし、僕は仕方なく彼女に対し正直に答える事にした。
「ごめんエリス……日高さんと本庄さんの二人が、メンバーの中に入っているよ。後は、川口と戸田の二人だね。なんだか最初から決まっているような感じだったから、雰囲気的に口出しする事もできなかったんだ」
「そうなの……まぁ、そのうち私たち二人で帝国を出ることになるだろうし。それまでの間、わたしの知らないところであの二人と仲良くしたりしないでね」
帝国を出る? 一体なんの事を言っているのだろうか? そんな話は初めて聞いた。しかも、ドレミの前でそんなこと言っても良いのだろうか。
エリスがそんなに怒らなかった事に安心しつつも、僕はその話がどうしても気になって仕方がなかった。
「帰ろ、カケル」
エリスは、僕に微笑みかけながらそう短く帰宅するよう促す。
どう訊ねるべきか迷っているうちに、完全に訊くタイミングを逃してしまったようだ。
しかし、彼女の笑顔に絆された僕は、完全にそんな事はどうでもよくなってしまっていた。
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