29.御前試合①
「おもしれー! だったら俺が、相手してやんぜ!」
無礼にも、皇帝の下知を待たずにそう発言したのは川口の奴だった。
勝手な発言にも拘わらず、皇帝は少しムッとした表情を見せただけで、その事に対し咎める様子はなかった。
それだけ本来であれば、召喚者の立場は神に次ぐものとして位置づけられているのだろう。
という事は僕の場合、何かの間違いくらいにしか思われてないという話なのか。
「うむ、かなり無謀な話だとは思うが。エリスのお墨付きとあらば、それなりの戦いも期待できよう。カワグチ殿の戦いぶりにも興味があるし。その提案、許可しようではないか!」
如何にも自分が興味を示した結果であるという体で、御前試合の許可をだす皇帝。話の中身からも分かるとおり、対戦相手は、川口という事で決まりのようだ。
天近や、他のSランクを相手にするよりは戦い易そうだが。基本能力だけなら天近に次ぐ実力を持っているので、けっして侮る事のできない相手である。
ステータスの数値なりに判断すれば、相当に無謀な挑戦に思われる。しかし、基本能力値だけなら僅かではあるが、その差を埋める方法は既に手に入れているわけだ。
後はどれだけ前世の戦闘経験を生かせるかが、勝敗を分ける要因になってくるわけだが。
思い出すのレベルが3になっている事が影響しているのか、かなり過去の戦闘技術は甦ってきているようだった。
ヨハンセンとの戦いの際は、圧倒的に足りてなかった筋力量も、エリスとの特訓でかなり増強されている。
初級の強化魔法で付与される能力は、精々20から30といったところだが。能力が足りていない分は、研ぎ澄まされた相手の攻撃を読む力と、積み重ねてきた技量で補えば良い。
とにかく後は、川口の技量がまだヘボい事を願うばかりだ。
「御前試合をおこなうに当たって、準備は必要であるか?」
皇帝の問いかけに対し、不敵な笑みを浮かべた川口が即答する。
「俺は、いつでもOKだぜ! なんなら、この場でやったっていいくらいだ」
さすがに少し、急すぎるような気もするが。準備といっても、更なるトレーニングを重ねるくらいしかやる事がない。
レベルの上がりかたを比べてみても、時間が空けば空くほど能力の差は開く一方だろう。
そう瞬時に考えた僕は、川口の意見に同意する。
「僕も、この場で戦う事に異存はないです」
僕の答えを聞いたクラスメイトたちからは、一斉にどよめきが起こる。
そもそもこんな無謀な話に、僕が乗ること自体あり得ないと思っていただろうから、彼らが驚くのは無理もないことだ。
「そうか。では、お互いに異存はないようであるし。多くの者たちが集まっているのだから、使徒様の力を見るにはちょうど良い機会だろう。流石にここでと言うわけにもいかぬので、これから皆で練兵場に移動して御前試合をおこなう事とする」
皇帝の言葉を受け、その場に集まった者たちが一斉に移動を開始する。
僕は、クラスメイトから声をかけられる事を避けるため、敢えて集団の最後尾を歩いた。
そんな僕を励まそうと思ったのか、エリスはぴったりと張り付いてくる。
本来であれば、皇帝たちと一緒にいるべきなのだろうが。よほど何かアドバイスを送りたかったのかもしれない。
しかし、僕の緊迫する様子を察したのか。何か言いたそうにはしていたものの、けっきょく最後まで言葉をかけてくる事はなかった。
練兵場に到着すると、急遽仕切り役として選ばれた大臣により、いろいろと指示がだされる。
観客は所定の場所に移動させられ、僕と川口の奴は木製の武器を選んでから試合場の中央に向かうよう言われた。
「頑張ってね、涼風くん!」
武器を選びにいこうとする僕に対し、清川さんが激励の言葉をかけてくれた。
チラッとエリスの方に目をやると、一瞬だけ彼女を睨み付ける様子だったが、すぐに心配そうな表情をこちらに対し向けた。
僕は、川口の奴が武器を選ぶのを待ってから、騎士が扱うような長剣を手に取る。川口が選択していた武器も長剣だった。
お互い武器を取った後、試合場の中央へ向かい対峙する。
不敵な笑みを浮かべる奴の表情からは、何か良からぬ考えを持っている事がハッキリと伝わってきた。




