28.皇帝の変化
「スズカゼカケル殿。ステータスの表示を」
天近でさえ忘れている様子だったのに、皇帝はしっかりと僕の存在を覚えていた。
とはいえ、その表情は他の召喚者に向けていたときのような、期待に満ちたものとは明らかに違っていた。
全く期待などしていないといった感じではあるが、どことなく他に含みがありそうにも思える表情だ。
指摘されてしまった以上、ステータスを公開しないわけにもいかない。
まぁ、能ある鷹は爪を隠すとも言うしね。僕の場合ステータスに表れないだけで、超越者としての強大な潜在能力がこれから開花していくはずだ。
クラスメイト達から馬鹿にされると思うと、正直辛いところではあるが。今はモブだと思われていた方が、後で真の力に目覚めたときにより格好いいとも言える。
そんな風に思いながら、覚悟を決めた僕は「ステータスオープン」と叫び、集まっている者たちにステータスを公開した。
「まぁ、なんと言うか……わかってはおったが。他の使徒の方々に比べてしまうと、なんとも悲惨な能力値だな」
今まではこんな僕に対しても一応、気を遣っている様子を見せていたが。僕のステータスを確認した皇帝の態度は、明らかに変化しているように見えた。
発表会という性質上、今回は天近や清川さん達にもバッチリと見られてしまったわけだが。天近は、もはやどうでも良いといった感じでノーリアクション。いつも何かと声をかけてくれる清川さんでさえ、声をかけて良いものかどうかと迷っている様子だ。
川口やその仲間たちは当然、口を押さえながら笑っている。
これはまさかアレか? 役立たずな能力しか持たない召喚者が、追放されるパターンってやつじゃないよな?
いくら強大な潜在能力を持っているからって、今の状態のまま裸一貫で追い出されるのは流石にキツい。
瞬間的にそんな不安を感じる僕だったが。次に皇帝が発した言葉は、いきなりそれを示唆するものではなかった。
「スズカゼカケル殿は、やはりハーウェの使徒としての資質に欠けるようだ。やはりエリスには担当を外れてもらい、彼にはこれから一般兵に交じって訓練に励んでもらう事にする」
いやいや、使徒失格の烙印を押すくらいなら、元の世界に帰してくれたって良いじゃないか! 一般兵に交じるって、どういう事だよ! 要はアレか? 一般の兵士として帝国に仕えさせるって事か?
僕は、そう心の中で突っ込む。他のクラスメイトたちを見ても、誰も僕の事を擁護してくれそうな雰囲気などない。
それどころか川口の奴が、むしろ皇帝の言葉を後押しするような事を言い出す。
「良かったな涼風! 役立たず認定されて帝都から追い出されるよりも、兵士として雇ってもらえるだけマシじゃないか」
他のクラスメイトたちも、同じ事を思っているのだろうか。クスクスと笑いだす者こそあれど、誰も反対意見を言う者など現れなかった。
「では、そういう事で良いなエリスよ! 早速これから、兵舎に移動する準備を……」
皇帝がそう言いかけたときだった。
同意を求められたエリスが、命令を聞き終える前に強い口調で反論を始める。
「お待ちください皇帝陛下! 陛下は、スズカゼカケルの価値を全くわかっておりません! 彼は、ステータスに表れないだけで、他の召喚者と同様に常人離れした能力を有しているのです!」
通常であれば皇帝の言葉に口を挟むなど、とても許される事ではないのだろうが。エリスは、その言葉を遮ってまで堂々とした態度で自身の考えを述べる。
まさしく帝都内において、かなりの影響力を持っている事が窺える発言だった。
しかし、皇帝にもやはり面子というものが有るのだろう。不機嫌そうに少し表情を歪ませた彼が、簡単に引き下がるような事はなかった。
「そこまで申すのなら、少しは考えないでもないが。しかし、前言を撤回するには、それなりの根拠を示してもらわねばならんな」
皇帝の言葉に対し、エリスはとんでもない事を言い出す。
「では、こうしてはどうでしょう? 召喚者の中から一名を選び、スズカゼ殿との御前試合をおこなう。もし勝つ事ができたなら、それが何よりの証明となるはずです」
エリスの無謀な提案に、会場中が騒然となる。
彼女が、僕をそこまで買ってくれているのはもちろん嬉しいが。その提案が無謀すぎるものである事は、誰の目に見ても明らかだった。
確かに全く根拠もなく提案したわけじゃないのは分かる。
とはいえ、チートな能力を有するアイツらに勝つには、相当な覚悟が必要だ。
会場が一旦、落ち着いたところで皇帝は下知を下そうと口を開きかける。
しかし、そんな空気も読まずに、意外な人物が対戦相手として名乗りを上げた。




