26.憂鬱な発表会①
魔法の試しうちをした日から、十日ほどの時が流れていた。
僕は、この期間エリスの館にて、基本的には彼女との戦闘訓練に明け暮れていた。
一応、報告の義務があるらしく、一日一回は宮殿に出向く事になっていたのだが。彼女が報告にいっている間、図書館で魔法の勉強をするのも日課となっていた。
その間ドレミが主に応対してくれていたが、何故かエリスはその事に対して嫉妬する様子はなかった。
エリスと初めて口づけを交わした瞬間、僕は慎十郎だった際に経験した、彼女との別れの時を思い出していた。
といっても、それはごく一部でしかなく。当然の事ながら、彼女と出会った経緯や、一緒に過ごしていた思い出が甦ったわけではない。
ただ、その情景を見た時に感じた事は、例えようもないほどの強烈な不安であった。
口づけを交わした事をきっかけに、一気に彼女との関係は親密なものへと変わる。おかげで最近では、些細なことでも気兼ねなく訊ねる事ができるようになっていた。
あの後すぐに魔力の件に関して質問してみたのだが、結局のところ彼女の答えは曖昧なものでしかなかった。
基本的に召喚者にとっての魔力は、ステータスにある光力がそれに相当するようだが。僕の光力がゼロである事は周知のとおりである。
更にエリスが語ってくれた事によると、慎十郎のときも光力はゼロだったという話だった。しかも、いくらレベルが上がろうとも、その数値が変わる事はなかったようだ。
しかし、何故か表示こそされていなかったものの、強力な古代魔法を扱えるくらい強大な魔力を有していたらしい。
要するに彼女も、その点に関してハッキリとした答えは持っていなかったのである。
エリスとの生活を始めて十日目の朝、僕は今とても憂鬱な気分だった。何故なら今日は久しぶりにクラスメイトたちと集まって、ステータスの発表会的なものがおこなわれる予定だったからだ。
どうせいつでも気軽に確認できるのだから、わざわざそんな事をする必要はないと思うが。順調に能力が成長している者たちからすれば、むしろ望むところだといった感じなのだろう。
対する僕はというと、天啓レベルこそ上がってはいたものの、基本能力が僅かに上昇しただけであった。
名前 涼風 翔 年齢 17歳
天職 旅人
使徒ランクE
天啓レベル3
腕力 21
敏捷 25
耐久 10
体力 22
光力 0
光力操作 0
アクティブスキル
空気レベル2
パッシブスキル
なし
ユニークスキル
思い出すレベル3
これが現在の僕のステータスである。
エリスにしごかれたおかげで、基本能力値についてはかなり戦士らしくなってきた。
しかし、彼女が言っていたとおり、慎十郎のときと同様に光力の上昇は全く見られない。
魔法については、初級であればスムーズに発動できるようになっており、今では中級の魔法も扱えるようだ。
曖昧な言い方をしたのには理由がある。何故ならば中級魔法が使えるといっても、魔力の可視化がなされていないためだ。
使えるという表現の理由は、使用した際に魔力酔いを起こさなくなったという意味である。
それは即ち可視化されていないだけで、魔力量がそのレベルまで上がっている事を意味していた。
大方の初級魔法を扱えるようになった事で、僕は複合魔術である身体強化魔法の訓練も始めていた。初級レベルのものであれば完全にマスターしており、ステータスに現れていないだけで、今ではかなりの戦闘能力を有するに至っているようだ。
とはいえステータスだけ見れば、いまだにクラスで最弱なのは確実である。
こんな能力値をクラスの連中に見せて、また馬鹿にされるのかと思うと本当に憂鬱でしかない。
エリスは、僕の価値について皇帝に奏上すると言っていたが。僕が問題にしているのは、帝国の見方ではないのだ。
「そろそろ出かける準備をした方が良さそうね」
憂鬱な気持ちのまま朝食を終えた僕に対し、向かい側に座っていたエリスがそう言って準備をするよう促す。
「カケル様ならきっと大丈夫ですよ! なんと言っても、エリス様のお墨付きなんですから」
脇に控えていた若いメイドの一人が、僕に対してそう声をかけた瞬間エリスの表情は凍りつく。
「ひいっ! 出すぎた事を言ってしまったようで、申し訳ありません……」
主人の怒りを感じたメイドは、すぐに謝罪して食器の後片付けを始める。せっかく元気付けようとしてくれたのに、声をかけただけで怒りを買ってしまうなんて、なんとも可愛そうな話だ。
僕は一応、そのメイドに向かって苦笑いを向けていたが。よほどエリスの事が怖くて堪らないのだろう。彼女はそれっきり、僕と目を合わせようとはしなかった。
メイドが部屋を出た後、僕は憂鬱な気持ちのまま席を立ち、宮殿に向かう準備をするため自室へと向かう。その横には、機嫌を損ねた様子のエリスの姿もあった。




