25.初めての
エリスの膝枕から起き上がると、僕はそのまま地べたに腰を下ろし彼女をじっと見つめた。
正直まだ彼女に慣れていない部分もあり、かなり緊張していたが。この際だから訊きたい事を、この場で全部たずねてみようと思った。
そうは言っても、改めてこんな美女と面と向かって話そうと思うとかなり緊張する。さっきまで膝枕をされていたのだから余計だ。
なかなか口を開けないでいる僕に対し、エリスは微笑みながら言う。
「どうしたの? 急に。何か話したい事でもあるなら、そのまま話せば良かったのに」
彼女がどう思おうと自由だが、思春期まっ盛りの僕にとってあの体勢はかなりきつい。
ましてや、そんな事を言われたら余計に妄想が膨らんでしまって、もはや話をするどころではなかった。
顔が熱い。顔面の紅潮を悟られまいと思えば思うほど、余計に恥ずかしさは増していくばかりだ。
そんな僕に対して、エリスは悪戯な笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ウフフ! 何だか不思議だわ。昔のあなたからは考えられないほどウブになってしまったのね。それはそれで、すごく新鮮だけどね」
彼女の悪戯な笑みは、ますます何かよからぬ事を考えている表情に変わった。完全に今の僕は彼女にとって、チョロいんならぬ手玉にとりやすい主人公といった状態である。
冷静に考えれば、彼女の年齢は少なく見積もっても確実に三百歳は超える。ハイエルフとしては、それでもまだ子供のうちなのかもしれないが。人間である僕からしたら、ロリではないにしても十分にババアといえる年齢である。
いや、転生を繰り返しているとはいえ、何十万年分もの前世の記憶があるのだから僕も同じようなものか。
だったら何故どの人生においても、女性に関する記憶に限ってすっぽり抜けてしまっているのか。
僕はその事に対して、不完全な状態でしか記憶を持っていない自分自身を恨む。
そのせいで、少なくとも今世においては女性に対する耐性が全くないのだから。
たぶんエリスの大胆な行動の数々から察して、慎十郎のとき彼女とは既にそういった関係だったのだろう。
しかし、今の僕は彼女の指摘したとおり、どこにでもいるウブな高校生でしかない。
て言うか、そんな事を考えていたら余計に妄想は膨らんでいく一方だ。
ガチガチに緊張しきってしまった僕に対し、エリスは優しく微笑みかけながら言う。
「慌てないで。わたしも、カケルが今すぐにでも記憶を取り戻してくれるなんて、そこまで都合よく考えてはないもの。ゆっくりと時間をかけて、わたしたちの絆を少しずつ取り戻していければそれで良いわ」
なんだかそこまで言われると、逆にプレッシャーを感じてしまう。
彼女は信じて疑わないようだが、僕がこれから記憶を取り戻していくかどうかなんて何処にも保証はないわけだ。
まぁ、思い出すなんてユニークスキルがわざわざ有るくらいなのだから、その心配はいらないのかもしれないが。
「ごめんエリス……まだ君に対してそんなに慣れてないから、あまりその……親密すぎる行動をされると緊張してしまって……」
やっとの事でそう絞り出した僕の言葉に、エリスは悲しげな表情を浮かべながら言う。
「カケルは、わたしに触れられるのがそんなに嫌なの?」
「嫌なんて、もちろんそんな風には思ってないけど……ほら、あまりくっつかれたりされると、変な事とか想像しちゃうからさ」
「変な事って、どんな事かしら?」
今度は悪戯な笑みを浮かべながら、そう問い返すエリス。そのあと彼女は戸惑う僕の態度にも構うことなく、ずずっと寄ってきてゆっくりと顔を近づけ始めた。
これはアレだ。そういう事でいいんだよね。
彼女の甘い吐息を感じ、心臓の高鳴りは最高潮に達する。
初めてだけど、上手にする事ができるのだろうか。
意外にも、冷静な感じでそんな風に考えていた僕だったが。互いの唇が触れ合う寸前で、エリスはその先の行動を取る事なく一旦僕から距離をおいた。
なんだ……びっくりしたけど流石に冗談だったか。いくらなんでも、こんな所でいきなりそんな事するわけないよな。
少しだけ残念な気持ちもあったが。心の準備が整っていなかった僕は、エリスの行動が冗談だとわかって一安心する。
しかし、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、僕を見つめる彼女の表情は妖艶なものへと変わっていた。
「これだけは思い出させてあげる」
悪戯な笑みを浮かべながらそう言ったエリスは、いきなり僕の首に両腕を回してくる。
それは、あまりにも一瞬の出来事だった。
ごく自然な感じで、彼女の唇が僕の唇に重なる。
わけも分からないまま、僕は彼女に初めての口づけを奪われてしまった。
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